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しおりを挟む朝、いい匂いで目が覚めた。
隙間から起き上がると机の上に完璧な朝食が用意されている。
「……なんで」
「なんでって、こういうの作る予定でハムとか卵とか買ったんじゃねーの」
そう、その朝食はトーストとハムになんかサラダとスクランブルエッグ、牛乳という昨日スーパーで思い描きながらも、力量が伴わないのでとりあえず目玉焼きにでもしてみようかな──と思った食材が理想的に並んでいた。
タロウくん、実は出来る男なのだろうか。
「……どうして」
「一応、一宿一飯の恩をな……」
「………… 一宿じゃないよねもう三泊してるよね。一飯どころじゃないよね、もう…………えーっと──」
「細かいんだよ、数えんなよ。ほら、食え」
「……俺は犬じゃないよ」
なんだろうこの理想的なスクランブルエッグ、あのいつから実家にあったのかわからないフライパンで何故こんなものが……あとこのサラダ、キャベツの残りがなんでこんなことに……。
「……タロウくん…………美味しい」
「そうか」
タロウくんがまんざらでもなさそうな、ちょっと得意げな顔をしている。
こんな顔したタロウくんにあまり言いたくないけど……
「でも、こんなことしなくてもいいかな……」
「…………なんで」
「だってタロウくんいなくなるし…………俺自分でやらないと……」
「別に俺がいる間くらいいいだろ」
「……そうかも…………しれないけど……」
「けどなんだよ」
「……余計に寂しくなりそうだから」
いつか俺がこんな事を出来るようになったとしても、自分ひとりのためにこんな料理を作ろうなんてきっと思えない。どうせトーストと牛乳とかに落ち着くのだ。特に話す相手もいなくてギリギリまで寝て慌てて起きて……もしかしたら朝は食べない日々かもしれない。本当は今日だってそんな一日が始まっていたのかもしれない。
大学が始まれば、友達だってできてその寂しさも埋まるのだろうか、バイトもして忙しくしていればもうそんなこと気にもならないのだろうか。
「……タロウくんいつまでいるの」
「…………まだわからない」
「そうなんだ」
なんでここにいるんだろう。
※
炊飯器を買うつもりだったのだが、こんなに種類があるのか……すごく、タロウくんに相談したい。絶対いいアドバイスを貰える気がする。しかし、あえて連絡先を聞かない事にしたのでここはひとりで悩む事にした。
そしてネットを見てさらに悩む羽目になる。炊飯器以外にも鍋で炊く、レンジで炊くという選択肢が追加された。そもそも俺はそんなに米を食べるのか……あれば食べるけど。昼は学食行くとして夜は……バイトによっては賄いが出たりするのか? 休日も…………バイトに行けばいいのか?
───やめよう、今日は、もう……当分パックのご飯買おう。
ずいぶん悩んでもう昼も過ぎている。タロウくんのご飯の事が気がかりだ。どうせろくに動いてないくせに、お腹空いているのだろうか。
しかし俺が買っていかないとお腹を空かせて待っているのではないかと焦る。本当にペットを飼っている気分だ。これが虎太郎なら俺の顔を見た途端尻尾を振って走り寄ってくるのに……、どうせ今もスマホ見てるんだろうし一食くらい抜いても平気な気がする。かといって実際に見捨てるようなまねはできないし───なんだかんだで適当に弁当を買って帰った。
そして、玄関を開けたらタロウくんがいた。
「遅い……かったな」
もしかしてお出迎えされたのだろうか……いや、まさかな、まさかまさか──
「ごめん、これご飯」
「……ん」
──たまたま玄関付近にいたに違いない。
「なあ、連絡先ぐらい知っておいた方がよくないか」
「どうせあとすこしでタロウくんいなくなるのに?」
「……それでも、不便だろ」
「別に不便じゃないよ。お昼遅くなったのは悪かったから明日は気をつける」
「……そうじゃなくて、メシは別にいいんだけど……なんで遅かったんだ」
「…………ちょっと、迷ってたんだよ」
「それなら連絡くれれば俺が道とか教えられるだろ」
「いや、そうじゃ…………………まあ、道に迷っても、俺自分で帰って来るから。これからここに住むんだし」
「そうか……でも……」
言いよどむ、珍しいタロウくんを見た。
自炊なんて面倒くさい、「インスタントラーメンでいいかな」と呟いたら「早いな」とどこからともなく聞こえた。ベッドの上でスマホを見ているタロウくんを見る、地獄耳か。
しかし早いなってのは諦めるのが早いなって意味だろうか……確かにタロウくんがいる間にある程度教えを…………は無理にしても人に食べてもらうことは勉強になる気がする。
「買い物行ってくる」と言うと「いってらしゃい」とタロウくんがスマホから顔をあげて言った。
「なんつー顔してんだよ」
「いや、ちょっと驚いて……なんか」
すごく懐かれた? 気のせいか、でもそんな感じだ。
「なんか欲しいものある?」
「……別にない」
…………今日のご飯はなんにしよう。
「…………また?」
「感覚を忘れないうちにマスターしようかと思って」
……しかし3日連続焼きそばだとさすがに俺も飽きてきた。タロウくんも飽きたとしか感想言ってくれないしつまらない。
「タロウくんはどんな料理がつくれるの?」
「なんでも」
「…………なんでも?」
すごい自信だな、でも焼きそばをマスターしかけている俺も実は結構できるんじゃないかという自信がつきつつあるからそんな感じの自信かな。
「わかった、じゃあ明日の朝は俺が作るから」
「……そのわかったがどこから来たのかわからねぇ」
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