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しおりを挟む「小学生でももう少しマシなのできるだろう」
今までで一番手厳しい感想をいただきました。
「目玉焼きだろ?目玉どこだよ、お前んとこ両面焼くの?」
「これは……油の力が足りなかった……」
やはりあのフライパン駄目なんだろうか──とついつい道具のせいにしたくなる出来栄えだが味に違いはない。ひとりだったら気にならないはずだ。
サラダなどというシャレたものはなく、シンプルイズベストなトーストと目玉焼き……になりそこねた卵を焼いたものの朝食を食べ、どっか行くのにも飽きたので俺も部屋でゴロゴロしている。
しかしスマホを見るのも2時間で飽きた。そう考えるとタロウくんの集中力はなかなかすごいなと少しだけ感心する。
スマホを机に置いて床に寝転がるとフローリングにうっすら埃が見えた、そうか、掃除もしなくてはいけないのか。そして洗濯物も溜まっていることに気づいた。
「……タロウくん、ちょっと洗濯してくる」
「ああ、いつ行くのかと思った」
「……言ってよ」
「自分でやるって言ってたし」
確かにそうだ。しかし洗濯物はタロウくんの分も含まれているのでやっぱり言ってくれてもいい気がする。新品のパンツはもうないだろう。
コインランドリーで洗うだけ洗って自分の部屋に干すと一気に生活感が増した。部屋も軽く掃除すると満足感が半端ない。
「そんなに楽しい」
「なんか新生活始めましたって感じがする。一人暮らしはまだしたことないけど」
そう言ってタロウくんを見ると顔を逸らされた。
「タロウくん、なんでここにいるの」
「……言う必要ないだろ」
なんで不機嫌になるんだ。
「聞く権利はあると思う」
「……この前寂しいから出ていって欲しくないって言ってただろ」
「どっちにしろ出てくんだからそれが早まろうとどうなろうと変わらないよ。少しは寂しいかもしれないけど大学始まるし、そうしたら友達だってできるし、バイトだってはじめれば気にしてる時間なんてない」
「そうかも……しれないけど」
「タロウくんどうしたの」
「…………どうもしない」
なんだか歯切れが悪い、そう言えば今日のタロウくんはどこかおかしい。スマホを見ながらも心ここに非ずという感じだ。こんな状態でいられると気になる、スマホの見すぎもどうかと思うが。
その後、俺は晩ごはんの準備に取り掛かった。今日はしょうが焼きに挑戦だ。レシピもネットで確認済だし、これができれば俺は4年間問題なく生きていける気がする。
──そして出来上がったものを、無言で食べるのはやめて欲しい。
少し焦げてしまったので文句を言われる覚悟はしていたのだが無言は……それはそれで居た堪れない。
「あのフライパン……買いかえろよ」
感想はそれだけだった。確かに未使用品だが経年劣化しているのかなぜかテフロンが機能していない。しかし今回焦げたのはそのせいではないと思う。
「タロウくん、なんか今日のタロウくん鬱陶しいよ。なんなの、どうしたの。最初に会ったときの不良っぽさはどこいったの」
「……だから俺不良じゃないって」
「不良じゃなかったらゴミ箱蹴らないし、初対面の人間押し倒さないよ」
ベッドに座ったタロウくんが虚ろげに俺を見上げる。なんなんだ本当に。
「何かあったの?」
「…………俺は…………今度高3で、ここのそばの高校行ってる」
「……知ってるよ、学生証見たから」
「家もここのすぐそばで……母親と暮らしてて、夜勤とかあるから先輩が押しかけて来るのにブチ切れて一週間くらい帰って来るなって……」
「……そうなんだ、元気なお母さんだね」
「その先輩の彼女がクソで…………まあ、それでその彼女がブチ切れて面倒くさい事になって、それ聞いた先輩がブチ切れて俺のこと殴り倒すとか言って執拗に追いかけて来るから…………」
「……なんか肝心な所はサッパリだけど、いろんな人をブチ切れさせたのはわかった」
「ダチのとこ行ったら……そこにも先輩押しかけてきて寝れなくて、コンビニで八尋がまっすぐ俺見るから…………こいつなら、言うこと聞くかなって……ムシャクシャしてたし…………」
「そう、それで俺脅して押しかけて来たんだ──最低だな」
「…………そうなんだけど」
「この部屋から出て知り合いに会うと面倒だから引きこもってたんだ」
「…………」
「でもそっちは解決しそうなの?」
「……もう、先輩就職先の方に引っ越したって、ダチが…………」
「それならここから出ても平気だ」
「……そうだけど……なんか、出たくなくて」
「引きこもり魂に火がついたの?」
「…………言ってる事がサッパリわかんねぇ」
タロウくんが情けない顔をした。なんだかタロウくんのこの状態、怒られて落ち込んでる犬みたいだ。
手を伸ばすと柔らかな髪に触れる、今度は頭を触っても弾かれなかった。
そのまま抱きしめても────抱きしめても?
「……タロウくん」
「ん?」
「なんか変だと思わない?」
「なにが?」
いつの間にかタロウくんの腕も俺の腰に回り、そのまま引き寄せられ…………最終的にタロウくんの膝の上に座っていた。
「タロウくん、これ、この手離して」
「嫌だ…………いや?」
「……なんなのタロウくんさっきから、ずるいよ」
「ずるいってなに?」
「その見た目で甘えるのやめようよ」
「……だって……八尋年上だし」
「俺とタロウくん誕生日一ヶ月も変わらないからね」
「…………へー」
しまった、声のトーンが変わった。
「でもタロウくん、それでも学年違えば先輩だから。それに俺今はタロウくんより年上だから」
「…………うん、八尋」
「なに」
「また来ていい?」
「……まあ、遊びに来るくらいなら」
なんだろう、タロウくんが嬉しそうに笑って俺を抱きしめるのでなぜか頭を撫でてしまった。
この甘えられる感じ…………もしや俺はこれに弱いのだろうか。まあ、たまに来るくらいなら問題ないだろう。
「タロウくん、今日はもう家に帰る? お母さん心配してない?」
「心配するわけないだろ」
──あれ、その人を馬鹿にする口調なに?
さっきまでの可愛いタロウくんどこいった。
そのまま視界がグルンと回り俺は久々に自分のベッドに横になっていた。すばやく腕が頭上に拘束され間近にタロウくんの顔がある。
この光景…………既視感がある。
「……タロウくん、君たしか男に興味ないって言ったよね」
「言った」
「それならこれ何?」
「…………八尋……男だっけ……」
「男だよっ!タロウくん俺のパンツ履いてるよね、男物だよね!」
「……いや、ちょっと確認してみないと」
「確認しなくてもわかる──ッ!」
握られた……ズボンの上から握りこまれ軽く揉まれる。なんだ、何が起きている。
「……あーなるほど」
「なるほどじゃないよ、手離してお願いだから……」
「…………八尋さぁ、コタロウってやつの事好きなの?」
「いきなりなんの話」
「答えたら離す」
「…………好きだけど、虎太郎は──」
───なんで、キスされているのだろう。
しかもなんでタロウくん目を閉じているのだろう。睫毛長いなと思っていたらタロウくんがわずかに離れた。そして息のかかる距離で俺を窺うように──
「コタロウともキスした?」───なんてことを聞いてくる。
虎太郎とキス?
顔は舐められているけど……。
「でも、あれは──」
───またキスされた、今度は舌まで入ってくる。タロウくんの目が開いているのでなんとなく俺が目を閉じた、なぜ閉じてしまったのだろう。
苦しくなって暴れるとゆっくり離れる。そしてタロウくんは俺を見下ろすと嬉しそうに───
「やっぱ八尋全然イケる」───なんてことを言った。
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