おい学院一の問題児よ、小動物系女子の私に、距離感ゼロで話すのはやめてくれ!

未玖乃尚

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2 いきなり手を握るな

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「レヴィアは世界屈指の魔法使いだぞ。その授業をサボるなんて、オレか」
 イズルは自分を指で示し、続けて私に指を突き付ける。

「お前くらいだからな」
 人を指で指すな、人をよ。
 て言うか、あんたと私を同列に語るんじゃない。私は真面目で、あんたは不良の中の不良!

 だんだん腹が立ってきた。こんな大人しい私を怒らせるなんて、イズルってのは評判通りのとんでもないヤツだ。
 発する言葉と本心の境界が曖昧になってきた。

「イズルくんの方が不良だよね」
 口調が強くなった。少し本音が出た。
 少しとはいえ、怒りを表に出すなんて、私としては珍しい。

 こいつに不良と認定されるのは、それだけ私にとって屈辱なんだ。

「不良は不良だ、差なんてあるかよ」
「ぐ……」

 言葉が出ない。何だ、この敗北感は。妙に正論ぽいこと言いやがって、イズルのくせに。

「何でサボったんだ?」
 馴れ馴れしく聞くな。悩みを打ち明けるほど、私とあんたは親しくないんだよ。
 あんたはいいよね。魔法使えなくたって、剣が無茶苦茶強いからさ。それだけで将来安泰だろうさ。
 とはいえ、質問されて黙ってるのも癪だ。こんなヤツ適当に返事しとけばいいか。

「気が乗らなかっただけ」
「お、一緒だな。オレも気が乗らなくて昼寝してたんだよ」

 ほら、とイズルが頭上を示す。木の枝が折れていた。
 あ~、あそこで寝てて枝が折れたから、私の顔にお尻が落ちてきたわけね。そういえば、折れた枝も落ちてる。

 お尻!?
 また、お尻の感触を思い出した。こいつ、私の顔にお尻を押し付けたんだ。何て無神経なヤツだ。そんなお前と私が、同じなわけあるか!

「違うってば! 私は授業についていけないからっ……!」
 そこまで言って、慌てて言葉を飲み込んだ。

「授業?」
 しっかり聞かれてる。
 しまった。
 本音が出ちゃった。誰にも話していない、私の心の奥にしまっていたものなのに。

「そうか、お前、魔法苦手なのか!」
 ズケズケ言うな!
 そこはデリケートな話題だろうがよ!
 もっと違う言い方があるだろうが。聞こえなかったフリしてもいいんだぞ。

「そっちなんて……」
 イズルが魔法を使えないのは、学院内では有名な話だ。剣が強いからこそ、弱点は広まる。

「そっちなんて魔法全然使えないよね!」
 言っちゃった。
 怒りに任せて、人を悪しざまに言うなんて、私って何てダメなヤツ。お父さんとお母さんには、そんなこと言ったらダメって育てられてきたのに。

 しかも相手は悪名高きイズル!
 実戦訓練は無敗。街でも暴れまわってると聞く。校則違反の冒険者ギルドにも出入りしてるとか。怒らせたら絶対まずいヤツだ。

 何をされるんだろう、と恐々覗いてみる。イズルは目を丸くして、瞬きを繰り返していた。

「そうそう。オレなんて全然使えないんだから、使えるだけでも大したもんだぞ」
 イズルは笑いながら、私の背中を叩く。
 ちょっとだけ、痛いんですケド。
 でも、とりあえず、怒ってないみたいで、一安心。

「いやいや。今ちょっとオレのこと、バカにしただろ」
 ひいいい。やっぱ怖い人だ。

「ま、別にいいけど」
 いいんかい!
 だったら、紛らわしいこと言うなや。安心したり、怖がったり疲れるんだよ。

「魔法なんてイメージだ、イメージ。イメージさえ膨らめば、バーンと使えるんだよ」
 使えないくせに何言ってんだ。

「まずは呪文だよね。呪文がないと、イメージ膨らまないよね」
 ちょっと逆らってみた。どうせ適当に言ってるんだろう。

「呪文に気を取られすぎると、イメージが壊れるぞ。構造を理解したら、呪文なんて適当でいいんだよ」
 ほら、やっぱ適当だ。適当な呪文で魔法が使えたら苦労はしない。

「私は呪文かな。魔法の基礎だし」
「お前は、そんなことに拘ってるから、魔法が苦手なんだよ。どうせ、一言一句暗記してるタイプだろ」
 一言一句の何が悪いんだ!
 しかも、ずっとお前、お前って。

「もう、お前って言わないでよ」
 あ、と思ったときにはもう遅かった。図星を突かれて本心を言ってしまった。
 本音と建前を使い分けるのが私の特技なのに。

「ミアだ!」
 突然、イズルが大声を出す。

「そうだ、ミアだ。よし、これからは、ちゃんとミアと呼ぶぞ」
 しまった。名前で呼ばれるなんて、ちょっと距離が縮まった感がある。

 しかも呼び捨て。さん付けくらいしろや。
 これはまずい。やっぱり、「お前」で良かったかな。

「ミア、何のためにこの瞑想広場があると思う?」
 イズルは宙を仰ぎ、周囲を見渡した。
 木々に覆われ、枝が風にそよぎ、小川のせせらぎが聞こえる。

 それより、名前の呼び捨てを連発して、距離が近くなった感を出すのはやめてくれ。私とお前はそんなに親しくないからな。
 大事なところだぞ。距離感を考えろよ。

「瞑想広場はイメージを養う力を鍛えるためにあるんだよね」
「瞑想広場は自然の流れを感じるためにある。言葉なんていらない。肌で感じろ」
「はいはい、感じた感じた。さあ、呪文の暗記でもしようっと」
「態度が段々、雑になってきたな」
「雑な人には、雑な態度で十分でしょ」
「そりゃそうだ」

 何が受けたのかイズルは楽しそうに笑った。

 ああ、また言ってしもた。
 本音と建前のバランスが崩れてる。私は人に気を使いながら話す人間なのに。ペースを乱しやがって。こいつは一体何者なんだ。

「よし、ミアにはもっといいところへ案内してやる」
 笑い終わったイズルが私の手を取って引っ張る。

 何だ、こいつ!
 何で、いきなり手を握るんだよ!

 離せや!
 私は男の子と手をつないだことなんてないんだぞ。手をつなぐのは、王子様との特別な場面だって昔から決めてるんだよ。
 お前は私の王子様じゃない!

「ちょっと離して。どうして手を握るの」
 もういいや。足踏んじゃえ。蹴りつけるが、イズルは離さない。

 おい、シバキ倒すぞ。
 とは、さすがに言えない。

 走り出した瞳が、あまりにも無邪気だったから。
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