ビアンカ・レートは、逃げ出したいⅠ ~ 首が飛んだら、聖女になっていました ~

悠月 星花

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中庭でのひととき

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 王宮での散策など、飽きるほどしているだろう。セプトの手をひき、中庭を歩く。
 穏やかな日差しの中、外を歩き回るのは、実に気持ちのいいものであった。

 何も言わず、花を愛で、ぼんやりしている時間が、過ぎていく。
 セプトも私に付き合い、何も言わない。

 ふと振り返る。
 そこには侍女がいるのだが、私の知る侍女が一人いなかった。


「アリエルはどうしたの?」


 私の質問に、セプトは戸惑った顔をしたが、すぐに微笑みに変えてしまった。


「アリエルは、今日、休みを取ってもらった。ビアンカがいるときにいられると、どうも妙な緊張感がはしるから……」
「そう、じゃあ、私が鳥籠に帰れば、戻ってくるのね?」
「あぁ、話し合いの場をもうけてある。アリエルの今後については、俺では面倒が見れないから」


 わからないようにしているが、寂しそうにしているセプト。
 そんなに別れが辛いなら、私でなくアリエルを選べばよかったのだ。
 貴族令嬢であるアリエルなら、セプトを支えることは可能であろう。
 爵位は低いかもしれないが、きっちりお父様が後ろ盾になってくれるに違いない。私を側に置くより、ずっとかセプトのためになる。


「どうしてアリエルを選ばなかったの?」
「えっ?」
「アリエルを妃に選ぶという選択肢もあったはずだよね?って思って。仕草を見ればわかるけど、伯爵位以上の令嬢でしょ?」
「あぁ、そう言われればそうだな。選択肢として、アリエルを妃にと考えたことがなかった」
「それは、ひどい話ね?」


 セプトの手を離し、私は歩き始める。
 考え込んでいるのか止まったままのセプトは置いて、トコトコと一人歩いた。
 動こうとしないセプトをチラチラとみながら、中庭をぐるっと一周回って、また、隣に立った。


「……ひどい話だな。あんなに献身的に支えてくれていたのに……全く、考えもしなかった」


 セプトの顔を覗き込む。なんとも言えない顔をしていたので、何も言わず、抱きしめる。


「……今からでも、遅くはないよ?」


 返事はなかったが、抱きついている私をぎゅっと抱きしめてくる。


「もう、遅い。今は、ビアンカがいる」
「私がいても、他に……」
「いらないんだ。ビアンカがいてくれれば」


 少し体を離して顔を見上げると、泣きそうだった。何かこだわりがあるのだろうか?王子であれば、側妃は迎えられるのに、ずっと拒んでいた。


「お母様のこと?」
「えっ?」
「お母様のことがあるから、側妃は迎えないの?」
「……まぁ、そう言うことにしておいてくれ」
「わからないわ」
「ビアンカは、側妃を迎えてもいいと思っていないのだろ?なら、何故、アリエルを側妃にとこだわる?」
「こだわってはないし、アリエルと仲良くしてくれって、セプトに言われてもまっぴらごめんだけど……セプトがそんな辛そうな顔をするならと思っただけよ?」


 両頬に手をあてがい、私を見るようにした。
 泣き笑いのような顔をしているのが、わからないのだろうか?


「ここまでで、いいわ。あとは、一人で帰るから!」


 スルッとセプトの腕の中から逃げるように背を向け歩き始めた。
 すると、左手を掴まれる。驚いていたら、抱きしめられていた。


「どこにも行かないでくれ」


 絞り出すような悲痛な声に胸が痛んだ。そっと、言葉をかける。


「どこにも行かないわ。セプトが用意した鳥籠で、あなたが来るのをずっと待っているから」


 迎えにきてね?と声をかけると頷く。


「一緒に行く」


 子どものように、甘えた声で言われれば、拒否はできない。
 行きましょうかといい、左手を握ると今度は私が手を引かれて鳥籠まで歩いた。
 無言のまま、手をひかれ、道が悪い中、私に気遣いながら歩いてくれる。


 部屋に入れるのは、私、セプト、ニーア、カイン。扉を開いたとき、目の前にいる赤ちゃん言葉で植物に語りかけているミントだ。
 何も思うところがなければ、侍女たちもミントのように入れるのだが、みな、もしものことを考えて外で待っていた。


「はぁ……安定な感じがして落ち着くわ!」
「むっ、それは私のことですか?」
「他に誰がいるの?」


 キョロキョロと見渡すミントだが、その部屋にいたのは、自分だけであったことに気がついてくれたようでなによりだ。


「今日は早いお帰りなんですね?ビアンカ様」
「えぇ、元々、今日はこちらに戻ってくる予定だったから。やっぱり、ここは、落ち着くわね!」
「当たり前です!こんなに可愛らしい子たちがいるのに。私が、ここに住み着きたいくらいですよ!」


 私はから笑いした。奇妙なミントさえいなければ、本当に完璧な空間なのにと。


「さすがに、それは許可しない!」
「何故ですか!この可愛いレディたちと一緒のひとときを!」
「ミントにとってのレディはそっちでも、ここは俺の婚約者の部屋だ!大体、何故、部屋に入り込んでいる?住人が出て行っているのに!」


 セプトとミントが言い合いを始めたので、私とカインは我関せずと自分の好きな場所へと移動する。


「ニーア、お茶の用意をしてくれるかしら?」


 かしこまりましたと用意を始める。ミントの分も合わせて4つ。
 言い合いも終わったのか、セプトが少々荒い息を整えながらいつもの場所へと座った。


「適当にしていて!あの様子じゃ、ミントは、まだ、来ないでしょうし……ニーア、こちらにお茶をくれるかしら?」
「はい、ただいま!」


 席は譲るわとカインに言い、私はいつもの窓際に座る。温かな日差しでのんびりとしたい。


「ビアンカ様は、そこがいいのですか?」
「えぇ、植物と同じで、ひだまりで過ごしやすいのよ」
「確かに……みな、すくすくと成長していますね!」
「ここらへんは、もう、収穫できるかしらね?」


 花や葉を手に取り触って、ミントにいうと、明日入れ物を持ってきますと答えたくれた。これで、また、新しい薬を作れる。
 ミントに今度はどんな薬を作るの?と聞くと、解毒剤が欲しいそうだ。


「解毒剤って何に使うの?」
「いえ、隣国に出たという魔獣が、毒を吐くものらしく……それならば、いつ、こちらに来るかわからないので、準備はしておきたいと思いまして!」
「そうなの?どんな毒なのかわかるかしら?」
「それが、よくわからないのです……文献を見ながら当たりを探しているのですが……ビアンカ様は何かご存じですか?」
「私も魔獣と対峙したことはないから……わからないけど……解毒剤なら、1つ作れるものがあるわ!それが、効果があるかどうかはわからないけど……」
「実験あるのみですね!」
「なんだか……嫌な予感がするわね?ミント、毒なんて、飲んじゃダメだからね!」
「わかっています。それより、明日、答え合わせをしたいので、その文献もお持ちしますね!」
「お願いね!あと、他に鎮痛剤を作りたいの」
「鎮痛剤ですか?」
「えぇ……ここの薬草にはないから、少しだけ回してもらうことはできないかしら?」
「構いませんよ!明日、一緒に持ってきます!」


 ありがとうとミントと話をしていると、視線が痛い。セプトとカイン、ニーアがこちらを見ている。


「どうかして?」


 私とミントが同じ方向に首を傾げると、笑いだしたのだった。
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