乙女ゲームに転生したモブの僕は最悪ルート(ハピエン)に爆進した悪役令嬢の義理の兄になったので、可愛い義妹を溺愛したい!

悠月 星花

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第5話 帰るって、いったいどこに? 家……? 城じゃねぇーか!

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 馬車が止まれば外から侍従が「おかえりなさいませ」と馬車の扉を開けてくれる。先ほどまで、拳を突き上げていたの僕だが、羞恥でサッと引っ込め居住まいを正す。一拍置いたのち、冷静になって考えた。

 ……帰る? 帰るって、いったいどこに? 僕の予想が正しければ……、ここ、異世界。ここ、乙女ゲームの中。なにより……、僕は僕がよく知っている引きこもりで妹にキモオタと言われている現世の僕じゃない! 帰る家、この世界の果てまで行っても、どこにも無くないか?
 そもそも、僕の家って、父が建てた残ローン17年築18年の普通のごくごくありふれた安物建材で建てられた一般的な田舎の庭付き小畑付き一軒家ですけどぉ?????????

 叫び出したい衝動を押さえようと両手で頭をガッと掴み、フルフルと激しく横に振りまくる。馬車に乗っている時点でおかしいはずなのに、今更なことを考え固まった。チラリとアルメリアの方を見れば、当然のように微笑みながらエスコートをと手を出してくるので、一旦、今の僕のことは何処かへぽいっと置いてはおけないけど頭の片隅へと追いやって、その白く小さな手を取りアルメリアを馬車から降ろす。
 降り立った場所で、ぽかんと口を大きく開け、その大きく美しい建物を見上げた。

 ――これが、僕の、……家? イ・エ? 家じゃないっ! 家じゃなぁーいっ! この大きさ、細部まで美しい装飾、見事な左右対称の建築物っ! 個人が住む家のレベルをはるかに超えてる!
 家ってあれだろ? 30年ローン組んで、退職金でやっとこさ全額ローン返済して……。でも、そのころにはボロで……リフォームして……みたいな?
 これ、もう、城っ! どっからどう見ても、城じゃねぇーか! あの外国にあるような、何々王のためにとか王侯貴族の愛人の何々夫人のために建てられたとかの。O・SHI・RO! ッッッ! 
 ねぇ? 白馬の王子様とか出てきたりしない? 王・子・様っ! あっ、さっきバカ王太子はいたか。あれは、……さすがに残念過ぎる。じゃ、じゃあ、ここには白馬の王子様はでてこないのか? いやいや、出てきそうだぞ? この雰囲気。
 ほら、その……屋敷の……か、ど……からとかぁ? って、角、とおっ! 我が家を中心に考えて左右に電柱5つ分くらいの広さがあるんですけどぉ? 僕の住んでた田舎の一軒家、いくつ入るんだよ! この城に。

 立派すぎる屋敷の端から端を右に左にと首をせわしなく振り振り見ていると、僕の挙動がおかしいことにアルメリアは気が付いたようだ。不思議そうに眉を顰め声をかけてくれる。

「お義兄様? どうかなさって?」
「……すごく大きな屋敷だから驚いてしまって」
「……驚いて? ここは、お義兄様や私たち家族の屋敷ですよ? クスっ、変なことを。まるで、お義兄様がこの屋敷へ初めて来たときのようですわ」

 先に玄関へと進んでいたアルメリアが僕の前に戻ってきた。当時のことを思い浮かべたようで懐かしそうに目を細め、ぼんやりとしていた僕の手を握って優しく微笑んでいる。

「お義兄様……。ねぇ、あの日のことを覚えていますか?」

 ……あぁ、さっきも思ったけど、アルメリアの顔ちっさ! メッチャ可愛い! 美人すぎるぅぅぅ!
 あの日のことね、あの日。……どの日のことだろう?

 少し考えていると、アルメリアが言った日のことが脳裏に浮かんだ。今より幼いアルメリアが幼いころの記憶がなく不安定だった僕をこの屋敷に迎えてくれたことや、無感情な僕に「お義兄様ができて嬉しい」とアルメリアが優しい笑顔を向けこの手を握ってくれたこと、僕の世界が色づき動き始めた日のことを。

「……大丈夫ですか? 今日はあんなこともありましたから、疲れてしまいましたか?」
「いや、違うよ。可愛いアリアに見惚れていただけだよ。えぇーっと……、ここへ来た日のことだね? もちろん覚えている。まだ、こんなに小さかった天使のようなアリアが僕を迎えに来てくれたんだ」

 僕の記憶じゃないものではあるはずなのに、頭の中に浮かぶ幼いアルメリアとの思い出。そのどれもこれもが宝石のように輝き、おもわず口元が緩みそうだ。
 ただ、アルメリアに迎えられた覚えはあっても、どこからこの屋敷へ来たのかは、はっきりとはせず、あいまいで記憶になかった。

「もう、そんなに小さくはありませんわ! お義兄様がこの屋敷に来たときは、私もデビュタント間際だったのですから!」
「そうだったかなぁ? 僕にとっては、あの頃と変らず、いつまでも可愛いアルメリアだよ!」
「こんなときだけ、名前で……ずるいですわ!」

 名を呼ばれたのが恥ずかしかったようで、プイっと顔を背け、握っていた手を離して足早に玄関へ向かってしまう。呼び止めるようにもう一度名を呼んだ。

「アルメリア!」

 たった五文字、それも義妹の名を呼ぶだけなのに、とても特別な言葉のように感じ、愛おしさがこみ上げるようだ。

「……どうかされましたか?」

 少し怒ったような拗ねたような顔を見せてくれるアルメリアは、幼いころと変わらず愛らしい。思わず、鳥カゴに閉じ込めて、ずっと見つめていたくなるほどに。

 アリアのこんな表情は、僕以外が見ることは出来ないのだろうな。外では完璧な淑女であろうとしているのだから。あの元婚約者のレオナルドでさえ、見たことはないに違いない。むしろ、頼りないレオナルドにアルメリアが素を見せるはずもないだろう。

「待ってくれ、僕も中へ行くから!」
「……そんなに見つめられたら、恥ずかしいですわ」

 アルメリアに駆け寄っていくと、ボソッと何かを呟いた。アルメリアの言葉は聞き漏らさないと決めているのに聞き取れなかった。

「なんて言ったの?」
「なんでもないです! ほら、お義兄様。早くしてください。今から、お父様と今日の夜会でのことと今後のことを話しあわないといけませんから! お義兄様ももちろん、私の味方をしてくださいますよね?」

 自信なさげにモジモジとしているアルメリアの隣に並んで玄関へと向かう。いつもは堂々としているアルメリアが僕の答えを待って少し弱気になっている姿はいじらしく、誰も知らないだろう。僕だけに見せる特別な表情に嬉しいと心が弾むようだ。
 屋敷へと先を促すように、そっと腰に手を添え、玄関ホールへ入った。

「もちろんだよ! 僕がアリアの味方じゃなかった日なんて、過去も現在も未来もずぅーっと先でもありはしないのだから!」
「嬉しいわ! 大好きよ、お義兄様!」

 玄関に入った瞬間に抱きつかれドギマギしていると、「はしたないですよ!」と女性の声がホールに響く。「ごめんなさい」と謝り、僕の腕の中から飛び出してしまったアルメリアの後ろ姿を見て、名残惜しいと感じた。

「おかえりなさい、ジャス、アリー」
「ただいま戻りました、養母上」
「ただいま、お母様」
「夜会はどうだったかしら?」

 夜会帰りにしては、馬車がいつもよりずいぶんと早かったので、僕たちのことが心配だったのか見に来てくれたのだろう。養母は眉尻を下げて僕らを観察していた。

「……今日の夜会は散々だったわ。今からお父様のところへ行って、報告をするつもりよ!」
「そう。大変だったわね?」
「本当に災難な夜だったわ」

 少し肩を落としてアルメリアは養母に訴えかけている。養父に報告するというアルメリアを見て、養母は何か察したであろうが口にはしなかった。政治的な何かを感じたからこそ、養父に任せるつもりらしい。

「夜も遅いのだから、ほどほどになさいね?」
「えぇ、おやすみなさい。お義兄様はご一緒に行ってくださるでしょ?」

「もちろん!」とはしゃぐアルメリアの手を取り、養母に挨拶をして養父の執務室へ向かった。二階から微かなため息が聞こえてきたが、養母が僕らのことを心配してくれていることは、先程の表情を見ればわかった。

 隣を見れば、どういうわけか、養父への報告をとても楽しみにしていようなアルメリア。馬車の中での憂いは一切なく、何かに吹っ切れたような表情をしている。僕が思っていたよりずっと晴れやかで、婚約破棄を言われたばかりの令嬢とは思えないくらい、廊下をスキップしそうなほど浮かれていた。

 そんなアルメリアを見ていると、どうも、今晩は、とても長い長い夜になりそうだと予感した。
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