乙女ゲームに転生したモブの僕は最悪ルート(ハピエン)に爆進した悪役令嬢の義理の兄になったので、可愛い義妹を溺愛したい!

悠月 星花

文字の大きさ
14 / 31

第14話 ……いいのだろうか?

しおりを挟む
「お、にぃ……」

『お義兄様』と呼ぼうとしたアルメリアの可愛らしい唇に人差し指をあてる。それ以上は言わせないようにと。

「アリア。お願いだよ?」

 話せないアルメリアは、何も言わず視線で会話を進めてくる。

「いい子だ。これからは、僕のことを名で呼んでほしい。それが、僕の願いだ」

 アルメリアの唇に当てていた人差し指を取ると、抗議をするかのように口を開いたが言葉にならなかった。

「これも、すぐじゃなくていい。一生『お義兄様』でもかまわないけど、名を呼んでくれると嬉しいよ」

 これ以上、アルメリアをこの屋敷にとどめることは出来ない。どう歌えばいいのか忘れてしまった小鳥のように、止まってしまったアルメリアを公爵家の屋敷へ帰らせることにする。

「グレン」
「はい、何でしょうか? ジャスティス様」
「アルメリアを公爵家へ送って行ってやってくれ。じきに暗くなる」
「かしこまりました。アルメリアお嬢様、こちらへ」
「……いやっ! 離してグレン」
「アルメリアお嬢様」
「アリア、いうことをききなさい。もう、帰る時間だ」
「……そうやって、お義兄……ジャ……は、私を遠ざけるおつもりですか?」
「そういうわけじゃない。アリアの外聞が悪くなる。婚約破棄をしたばかりのアリアを悪い噂から守るためだよ? ここには、来てはいけない」
「でも、ここには、おにぃ……ジャスティ……まが、いるではないですか?」
「ここが、本来の僕の屋敷だからね。僕がこの屋敷の主だ。今までは、養父上が管理していてくれたけど、その時間も終わったんだよ」

 めいっぱい目を見開くアルメリアは、驚いているのだろう。ここの屋敷は、公爵家の別宅として扱われていたが、本来は王族の別宅。第二妃など、側室がお忍びなどで使うように、昔々に建てられたものだ。
 この国の第一王子である僕は、本来なら城に住んでいるはずだったが、昏睡していたためこの屋敷を与えられ、今の今までティーリング公爵に匿われていたのだ。

「グレン」
「……アルメリアお嬢様、お屋敷に送ります。ジャスティス様は、こうして話していますが、まだ、本調子ではありませんから……少し、休ませてあげてくださいませ」
「……また、来てもいいですか?」

 ドレスをギュっと掴み、唇を噛みしめながら震える。そのいじらしい姿を見て、「いいよ」と答えそうになる。

 どうして、こんなに可愛いことをしてくれるんだろう……。そんな姿を見ては、追い返すこともダメだということも、僕にできるわけがないのに。

 アルメリアの手首を掴み、抱き寄せる。ふわっと鼻をくするぐるのは、僕があげた薔薇の香油の香りだった。

「唇を噛みしめるだなんて……切れてしまうじゃないか」
「お義兄様」
「可愛いアリア」

 そっと囁くと、瞼を閉じた。

 ……いいのだろうか? アリアは、寂しいだけで、僕を受け入れようとしているんじゃないのだろうか?

 柔らかい頬に触れる。手に伝わる温もり、さっきまで噛みしめていた唇は、少しだけ赤くなっていた。親指の腹で、唇を優しくなぞったあと、そっとキスをする。

 ……僕の理性。ここまでだね。

 抱き寄せていたアルメリアを離し、グレンに頷けば、渋々というふうに部屋から出ていこうとする。扉の前に立ったとき、アルメリアが振り返る。

「お義兄様、いままで、ありがとうございました。私の我儘もたくさん聞いてくださり、支えてくださいました。次、会うときは、別の形で、お義兄様と。ごきげんよう、さようなら……お義兄様」
「あぁ、さようなら。気を付けて帰るんだよ?」

「はいっ!」と笑うアルメリアを見て頷いた。

 大丈夫そうだね。これで、義兄としての役目も終わりだ。

 グレンに促され出ていくアルメリア。寝室の扉が、静かに閉まった。

「さようなら、僕の初恋。アルメリア。次は僕から必ず会いに行くから」

 扉を見つめていたら、頬を一筋伝うものがあった。



 ベッドでアルメリアが焼いたというクッキーを食べていた。程よい甘さのそれは、アルメリアの「思いやり」が入っているようで優しい味がする。

「ただいま戻りました」
「無事、送り届けてくれたんだね? ありがとう、グレン」
「いえ、当然のことですから。それより、よかったのですか?」
「何がだい?」

 少し言いにくそうにしているグレン。すべての事情を知っているとはいえ、今までの僕らを一番近くで見守っていたからか、心配してくれているのだろう。

「……ここに住むこともですが、何よりアルメリアお嬢様と離れ離れになっても」
「いいわけはないけどさ? それに、離れ離れといっても、アリアも学園へ行ったり、僕が街へ出歩いていることもあったから、四六時中一緒ってわけでもなかったんだし、今更じゃない?」
「そうですけど、アルメリアお嬢様は、ジャスティス様のことをとても頼りにされていたので……馬車の中のアルメリアお嬢様は、見ていられませんでした」
「……そうか、そうかもね。僕もアリアもお互いに依存していたからね。兄妹として。今後を思えば、離れるのはちょうどいいのかもしれない。兄妹の距離に戻れるかもしれないし……」

「ジャスティス様……」と、神妙な声で呼びかけられたので、グレンに苦笑いする。

 僕は、拒絶されたわけじゃないんだ。義兄として、支えてきた中で、アリアとの信頼はあった。それを今度は、一人の男として向けてほしいと、本来のジャスティスの望みを言っただけだ。
 判断をするのは、僕ではなく……アルメリアでなくてはならない。選ばれたいのだ。『アルメリア・ティーリング』に、この僕が。
 例え、選ばれなかったとしても、僕の、僕たちの気持ちは知っておいて欲しかった。昨日の今日で、たくさんのことが起こって、アルメリア自身も混乱しているだろうけど……。

 クスっと笑うと、グレンが訝しむ。クッキーに合いそうなお茶を淹れてくれたようで、カップをもらい口をつけるととても美味しかった。

「ありがとう、グレン。いつも、僕の側にいてくれて……」
「私は、ティーリング公爵家に仕えているわけではありませんから、何なりとお申し付けください。できる限り、主の意向は、叶えさせていただきます」
「頼もしいな、本当に。それじゃあ、さっそく頼みたいことがあるんだ」

「何でございましょうか?」と、ベッド近くへやってくるので、頭を下げる。

「何をなさっているのですか!」
「頼む、1ヶ月以内に、この国の王子らしくなれるよう協力してくれ。第一王位継承者として、アリアとレオナルドの婚約破棄パーティーへ乗り込むから!」
「それは……よろしいのですか?」
「アリアからの返事待ちではあるけどね……それでも、義兄としても、アリアの雄姿は見届けたいと思っているんだよ。例え、アリアに振られたとしても、僕は行くつもりだから」
「かしこまりました。明日より、私めにお任せくださいませ。ティーリング公爵が、9割方ジャスティス様を王族として、また、一国の王子として、いつでも擁立できるよう育ててまいりましたから、それほど時間はかからないでしょう」
「そうか……よかった」
「ただ……」

  グレンの視線が厳しいものとなる。身を引き締めるつもりだったが、尋ね返す。

「ただ?」
「公爵家の一員として育ってきたジャスティス様には、少々王族として覇気が足りませんので、そちらを磨いていただく必要があります。それが、1番大変なことだとは思いますが……」

 グレンに言われた意味が分からず、首を傾げる。

「百聞は一見に如かずです。明日から、毎日、王宮へ向かいましょう。王族とはこういうものだというのをご自身で感じ取ってください。もちろん、レオナルド様のことではございませんよ? あれは、手本としては、最悪なものですからね?」
「……言われなくても、それはわかっている。なら、誰がいいだろうか?」
「……そうですね。王弟ダグラス様にお会いになられるといいでしょう」
「ダグラス……、わかった」

「手筈は整えておきます」とグレンにいわれ、今日はもう休むことにした。山のようにあったクッキーのおかげで、腹も満たされたので、ゆっくり眠れそうだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。 しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。 破滅を回避するために決めたことはただ一つ―― 嫌われないように生きること。 原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、 なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、 気づけば全員から溺愛される状況に……? 世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、 無自覚のまま運命と恋を変えていく、 溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

処理中です...