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第16話 ……おうむ返しやめて。
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「ジャスティス殿下、申し訳ありませんでした」
馬車に乗るなり、グレンは頭を下げる。僕は、グレンが何に対して謝っているのかわからず、「ん? 何のこと?」と聞き返した。伏目がちにしているグレンは、心底申し訳ないと思っているようで、僕には理解できなかった。
「ダグラス様のことです。ジャスティス殿下のことなら、協力をしてくださるという言葉を鵜呑みにして……」
「あぁ、そのこと? グレンが悪いわけじゃないから、気にしないで」
「でも、」
「ダグラス様が僕の叔父と言っても、僕は初めて会うわけだし……」
そう、僕は生まれてからずっと、15年もの間、昏睡状態だった。目覚めてからも城外のティーリング公爵家で僕という存在を隠すように育った。たぶん、養父にも考えがあって、そのように振る舞っていたに違いないし、両親も僕の親族もそれで納得をしていたのだろう。
おかげで、僕自身の親族というの全く知らずに生きており、今日初めて、叔父というものを見て、血の繋がりを感じただけだ。城仕えのグレンのように、使命のような何かを感じることはない。
僕の反応が思ったものと違うことに、グレンも戸惑っているようだ。
「それに、もしかしたら、ダグラス様も僕のことを試していたのかもしれないしさ。それこそ、叔父と言っても僕とは面識がないし、戸惑ったかもしれない。今回のことで、養父からの要求で、いきなり『王太子』になるとか言われても、公爵家の陰謀ではないかと王族であれば、警戒するのは普通のことだろう?」
「……それはそうですけど、それでも、王位継承権は確かにジャスティス殿下にはありますから!」
「それはそれ、これはこれね。王宮でのしきたりも考え方も僕は何も知らないで生きてきたんだ。その点だけは、レオナルド以下の存在なわけだし、警戒するのは当たり前だし、手放しで受け入れられるより信頼できるよ」
「でも、ジャスティス殿下のこれまでの功績は、ダグラス様にお伝えしてあります!」
「そういうことではないんだ。グレン、気にしてくれてありがとう。ダグラス様に見限られたと考え、他の手立ても考えよう。どのみち、僕には王宮でのことも、王族についての知識も情報も少なすぎるから」
グレンに笑いかけると、申し訳なさそうにするが、そんな気持ちにさせるつもりはない。僕は考え、グレンに王宮で他に繋がりが持てそうな人はいないか探ってくれるよう頼んだ。家系図があれば、僕も商売の繋がり等で役に立てるかもしれないと、次の一手を出し合いながら屋敷へ戻る。
……どうせ、屋敷に戻ってもすることなんて何もないのだから、いろいろと今後のことを考える時間にあててもいいだろう。
『王太子』なんて、僕が生まれた日本にはそんな制度も位もなかったし、想像の中の偶像だ。あとは、ゲームや小説、漫画の中の白タイツ! 最近は、白タイツは見かけないけど……やたらキラキラしたあのバカのような『王太子』が多い。
近しいのかわからないが、天皇陛下の子息とか……? 『皇太子』しか思い浮かばないし、ニコニコ笑って国民へ手を振っているイメージしかないんだよなぁ。実際、テレビからの情報として外交のときの映像で見るくらいしかわからない。具体的にどんな役割や仕事をしているのか……、知らないな。
こっちの世界も元の世界も、『王太子』に対しての知識が全くない状態か。
馬車の車窓を見ながら、窓の外に向かって手を振ってみる。いわゆる……『お手振り』だ。
手の閉じ具合、振るスピードと角度はこんなもんか? あとは、微笑みを作って……と。
同じ馬車に乗っているグレンは僕の行動に渋い表情だったし、窓の外なんて、何の反応もない。
「何をなさっているのですか?」
「『お手振り』だよ。こうやって、車から国民に手を振るんだ」
「それにどんな意味があるのですか?」
もっともな質問をされ、よい言葉が思い当たらなくて振っていた手は空で止まった。その手を見て僕は微笑みも引っ込める。
文化が違いすぎるな。手詰まりかも?
「んー、どう説明すればいいのか。国民へ対するいろんな意味が込められているらしい」
「国民へ対するいろんな意味が込められているらしい?」
「……おうむ返しやめて。僕もよく知らないから。まぁ、いいや。それで、屋敷に戻ったらさ、少し調べ物をするから……」
「かしこまりました。こちらも他の方との調整もありますので」
「じゃあ、それまで自由時間ってことで」
僕自身が知らないことがたくさんありすぎて、グレンの話にさえついていけないところもある。ジャスティスの記憶や知識を元に想像はできるが、どこか借りものという感覚が拭えず気持ち悪かった。
……時間ができたから、片っ端から今の王について調べてみよう。一応、進学校へ行っていた頭は健在だろうし、現代の知識も多少はある。僕と本物のジャスティスを繋げる作業だと思えばいいだろう。
僕の行動に責任が伴うなら、今の僕ととことん向き合うしかない。もう、ジャスティスの声は一切聞こえないんだから。
それに、アリアに恥をかかせるわけにはいかないだろ?
うんと頷いたとき、屋敷に着いた。僕はグレンに教えてもらったとおり、そのまま屋敷の図書室なるものへ向かう。
玄関でグレンとは別れ、僕は図書室で大量の本に囲まれる2日間となった。
馬車に乗るなり、グレンは頭を下げる。僕は、グレンが何に対して謝っているのかわからず、「ん? 何のこと?」と聞き返した。伏目がちにしているグレンは、心底申し訳ないと思っているようで、僕には理解できなかった。
「ダグラス様のことです。ジャスティス殿下のことなら、協力をしてくださるという言葉を鵜呑みにして……」
「あぁ、そのこと? グレンが悪いわけじゃないから、気にしないで」
「でも、」
「ダグラス様が僕の叔父と言っても、僕は初めて会うわけだし……」
そう、僕は生まれてからずっと、15年もの間、昏睡状態だった。目覚めてからも城外のティーリング公爵家で僕という存在を隠すように育った。たぶん、養父にも考えがあって、そのように振る舞っていたに違いないし、両親も僕の親族もそれで納得をしていたのだろう。
おかげで、僕自身の親族というの全く知らずに生きており、今日初めて、叔父というものを見て、血の繋がりを感じただけだ。城仕えのグレンのように、使命のような何かを感じることはない。
僕の反応が思ったものと違うことに、グレンも戸惑っているようだ。
「それに、もしかしたら、ダグラス様も僕のことを試していたのかもしれないしさ。それこそ、叔父と言っても僕とは面識がないし、戸惑ったかもしれない。今回のことで、養父からの要求で、いきなり『王太子』になるとか言われても、公爵家の陰謀ではないかと王族であれば、警戒するのは普通のことだろう?」
「……それはそうですけど、それでも、王位継承権は確かにジャスティス殿下にはありますから!」
「それはそれ、これはこれね。王宮でのしきたりも考え方も僕は何も知らないで生きてきたんだ。その点だけは、レオナルド以下の存在なわけだし、警戒するのは当たり前だし、手放しで受け入れられるより信頼できるよ」
「でも、ジャスティス殿下のこれまでの功績は、ダグラス様にお伝えしてあります!」
「そういうことではないんだ。グレン、気にしてくれてありがとう。ダグラス様に見限られたと考え、他の手立ても考えよう。どのみち、僕には王宮でのことも、王族についての知識も情報も少なすぎるから」
グレンに笑いかけると、申し訳なさそうにするが、そんな気持ちにさせるつもりはない。僕は考え、グレンに王宮で他に繋がりが持てそうな人はいないか探ってくれるよう頼んだ。家系図があれば、僕も商売の繋がり等で役に立てるかもしれないと、次の一手を出し合いながら屋敷へ戻る。
……どうせ、屋敷に戻ってもすることなんて何もないのだから、いろいろと今後のことを考える時間にあててもいいだろう。
『王太子』なんて、僕が生まれた日本にはそんな制度も位もなかったし、想像の中の偶像だ。あとは、ゲームや小説、漫画の中の白タイツ! 最近は、白タイツは見かけないけど……やたらキラキラしたあのバカのような『王太子』が多い。
近しいのかわからないが、天皇陛下の子息とか……? 『皇太子』しか思い浮かばないし、ニコニコ笑って国民へ手を振っているイメージしかないんだよなぁ。実際、テレビからの情報として外交のときの映像で見るくらいしかわからない。具体的にどんな役割や仕事をしているのか……、知らないな。
こっちの世界も元の世界も、『王太子』に対しての知識が全くない状態か。
馬車の車窓を見ながら、窓の外に向かって手を振ってみる。いわゆる……『お手振り』だ。
手の閉じ具合、振るスピードと角度はこんなもんか? あとは、微笑みを作って……と。
同じ馬車に乗っているグレンは僕の行動に渋い表情だったし、窓の外なんて、何の反応もない。
「何をなさっているのですか?」
「『お手振り』だよ。こうやって、車から国民に手を振るんだ」
「それにどんな意味があるのですか?」
もっともな質問をされ、よい言葉が思い当たらなくて振っていた手は空で止まった。その手を見て僕は微笑みも引っ込める。
文化が違いすぎるな。手詰まりかも?
「んー、どう説明すればいいのか。国民へ対するいろんな意味が込められているらしい」
「国民へ対するいろんな意味が込められているらしい?」
「……おうむ返しやめて。僕もよく知らないから。まぁ、いいや。それで、屋敷に戻ったらさ、少し調べ物をするから……」
「かしこまりました。こちらも他の方との調整もありますので」
「じゃあ、それまで自由時間ってことで」
僕自身が知らないことがたくさんありすぎて、グレンの話にさえついていけないところもある。ジャスティスの記憶や知識を元に想像はできるが、どこか借りものという感覚が拭えず気持ち悪かった。
……時間ができたから、片っ端から今の王について調べてみよう。一応、進学校へ行っていた頭は健在だろうし、現代の知識も多少はある。僕と本物のジャスティスを繋げる作業だと思えばいいだろう。
僕の行動に責任が伴うなら、今の僕ととことん向き合うしかない。もう、ジャスティスの声は一切聞こえないんだから。
それに、アリアに恥をかかせるわけにはいかないだろ?
うんと頷いたとき、屋敷に着いた。僕はグレンに教えてもらったとおり、そのまま屋敷の図書室なるものへ向かう。
玄関でグレンとは別れ、僕は図書室で大量の本に囲まれる2日間となった。
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