ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
136 / 142

運動方法は、領地に帰ってから考えましょう。

しおりを挟む

「……もう、ダメ。……こんなに……坂道を歩くなんて、……思ってもみなかった」

 ベンチに倒れこむように寝転ぶセバス。体力がないと、しばしばナタリーに言われていたが、少しの移動だけでも、ダメだったらしい。ぜぇぜぇという息は、しばらくは整いそうにない。私は、そんなセバスを見下ろし、「大丈夫?」と声をかけた。首を横に振るセバスに、先ほど買った水を渡すと、一気に飲み干してしまった。よほど、喉が渇いていたのだろう。浅い呼吸だったので、喉も乾燥しているようだ。

「あとどれくらいかしら?」
「店主に教えてもらった木は、近くに見えるようになりましたけど……まだ、もう少しかかりそうですよね」
「……馬車とか……ないよね」

 私と護衛が話をしていると、セバスが話に入ってきた。よほど、ここまでの道のりが辛かったのだろう。未だに座ることも出来ずにいた。私は、隣に座り、背中をさすってあげる。いくら体力がないとはいえ、まさか、セバスが道半ばでへばってしまうとは考えていなかったので、私は困ったなと周りをみていた。

「アンナリーゼ様は、お水を飲まれますか?」

 護衛に渡してあった水を私は受け取り、一口飲んだ。ここまでの道のりで、私も喉が渇いていたらしく、喉を通り抜ける水が心地よく感じる。

「あなたたちも、水分補給はしなさいね」
「わかりました」

 それぞれが、水を飲んでいる。二人とも、それほど歩いていないのに、起き上がれないほどのセバスを見ながら、何やら話している。私は、セバスの息が整うようにと「吐いて~吸って~」と声をかけていた。私の声に合わせて、少しずつ深く息が吸えるようになってきたのか、呼吸が安定してきた。ただ、呼吸は安定したとしても、体力は、別問題。こちらも、回復しそうにない。

「セバス、座れるかしら?」

 声をかけると、のそのそと起き上がり、寝そべっている状態から、座れるようになった。

「……だいぶ、息は楽になったよ。ありがとう」
「どういたしまして。でも、もう少し、体力はつけないといけないわね。ダリアとの間に子どもができたら、振り回されることになるわよ?」
「……アンジェラ様やジョージ様には、十分振り回されていますよ」
「他人の子と自分の子とは、また、別物よ。あの子たち、あれでも、セバスに気を使って、走り回らないようにしているのだから」
「……子どもに気を使われているなんて……教えてくれてありがとう」

 落ち込むセバスに、「簡単な運動は、健康寿命を延ばすし、老後も体力をつけておかないと、ダリアに迷惑が掛かるわよ」と追い打ちをかけておいた。さすがに、今回の歩くだけで、ダメな自分を知ったセバスは、「それだけは避けたい」と、領地に戻ったら、少し体を動かすと約束をしてくれる。

「運動方法は、領地に帰ってから考えましょう。机に齧りついて仕事をすることが多いのですも。その場でできる運動の方がいいわよね」
「……なるべく優しいのを考えてくれると嬉しいんだけど」
「そうね。初めから運動量が多くても続かないから、ダリアと一緒に続けられる運動を提案することにするわ。散歩をするだけでも、体には変化があると思うのよね。ダリアとの時間をあまり作らせていない私も悪いのだけど、一緒に屋敷の周りを散策することを提案するわ!」
「ダリアと一緒なら、続けられそうな気がするよ」
「そのためにも、規則正しい生活をしないといけないわね」
「……アンナリーゼ様は、本当に、ご婦人ですか?」
「もちろん、そうよ!ナタリーもだけど、他の貴族婦人とは違って、体力はある方だと思うけど……それでも、それなりの努力はしているわ。ハニーアンバー店の広告塔でもあるから、私もナタリーも体形を崩すわけにはいかないもの」
「アンナリーゼ様は、服の上から見ても、とても美しい姿勢ですよね」

 護衛が私に話しかけてくるので、頷いた。剣を扱うので、姿勢をよくしたり、筋力が落ちないようにしたりと、それなりに、努力を積み重ねている。そんなふうに言ってくれるものがいることは、嬉しかった。

「ありがとう。でも、私だから許すけど、他の女性には、あまり言わない方がいいわ。体形は、どんなに美しくてもそうだとは思わない女性が一定数いるから。体のバランスが取れているにも関わらず、痩せたいんだと病的なまでに体重を減らす女性が少なからずいるから。やせ細っているより、ほどよくお肉がついている方が、私は美しいと思うのだけど……」
「人の感性なんて、それぞれだよ」
「そうなのだけどね……心配になる人もいるでしょ? アンバー領みたいな田舎だと、力仕事が多いから、女性も骨太さんが多いから、あまり痩せることを考えていないわよね」
「土地柄、食料不足もあったから、やせ細るよりはって感じだね。畑仕事が多いから、僕より筋肉がついたご婦人もよく見かけるしね」
「体力勝負だからね。特に、農業をしている人は。領地にもいろいろな女性がいるけど、みんな技術を付けたい、独り立ちしたいって意欲ある女性がおおいせいか、必然的に強いお姉様が多い気がするわ」

 私たちは、領地のご婦人たちを思い浮かべ、セバスの細い腕を見つめる。

「……僕も鍛えないと……」

 セバスも自分の腕を見たらしく、大きなため息をついた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

愛されない王妃は、お飾りでいたい

夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。  クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。  そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。 「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」  クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!? 「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ・オルターナ エレインたちの父親 シルベス・オルターナ  パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(前皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

処理中です...