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運動方法は、領地に帰ってから考えましょう。
しおりを挟む「……もう、ダメ。……こんなに……坂道を歩くなんて、……思ってもみなかった」
ベンチに倒れこむように寝転ぶセバス。体力がないと、しばしばナタリーに言われていたが、少しの移動だけでも、ダメだったらしい。ぜぇぜぇという息は、しばらくは整いそうにない。私は、そんなセバスを見下ろし、「大丈夫?」と声をかけた。首を横に振るセバスに、先ほど買った水を渡すと、一気に飲み干してしまった。よほど、喉が渇いていたのだろう。浅い呼吸だったので、喉も乾燥しているようだ。
「あとどれくらいかしら?」
「店主に教えてもらった木は、近くに見えるようになりましたけど……まだ、もう少しかかりそうですよね」
「……馬車とか……ないよね」
私と護衛が話をしていると、セバスが話に入ってきた。よほど、ここまでの道のりが辛かったのだろう。未だに座ることも出来ずにいた。私は、隣に座り、背中をさすってあげる。いくら体力がないとはいえ、まさか、セバスが道半ばでへばってしまうとは考えていなかったので、私は困ったなと周りをみていた。
「アンナリーゼ様は、お水を飲まれますか?」
護衛に渡してあった水を私は受け取り、一口飲んだ。ここまでの道のりで、私も喉が渇いていたらしく、喉を通り抜ける水が心地よく感じる。
「あなたたちも、水分補給はしなさいね」
「わかりました」
それぞれが、水を飲んでいる。二人とも、それほど歩いていないのに、起き上がれないほどのセバスを見ながら、何やら話している。私は、セバスの息が整うようにと「吐いて~吸って~」と声をかけていた。私の声に合わせて、少しずつ深く息が吸えるようになってきたのか、呼吸が安定してきた。ただ、呼吸は安定したとしても、体力は、別問題。こちらも、回復しそうにない。
「セバス、座れるかしら?」
声をかけると、のそのそと起き上がり、寝そべっている状態から、座れるようになった。
「……だいぶ、息は楽になったよ。ありがとう」
「どういたしまして。でも、もう少し、体力はつけないといけないわね。ダリアとの間に子どもができたら、振り回されることになるわよ?」
「……アンジェラ様やジョージ様には、十分振り回されていますよ」
「他人の子と自分の子とは、また、別物よ。あの子たち、あれでも、セバスに気を使って、走り回らないようにしているのだから」
「……子どもに気を使われているなんて……教えてくれてありがとう」
落ち込むセバスに、「簡単な運動は、健康寿命を延ばすし、老後も体力をつけておかないと、ダリアに迷惑が掛かるわよ」と追い打ちをかけておいた。さすがに、今回の歩くだけで、ダメな自分を知ったセバスは、「それだけは避けたい」と、領地に戻ったら、少し体を動かすと約束をしてくれる。
「運動方法は、領地に帰ってから考えましょう。机に齧りついて仕事をすることが多いのですも。その場でできる運動の方がいいわよね」
「……なるべく優しいのを考えてくれると嬉しいんだけど」
「そうね。初めから運動量が多くても続かないから、ダリアと一緒に続けられる運動を提案することにするわ。散歩をするだけでも、体には変化があると思うのよね。ダリアとの時間をあまり作らせていない私も悪いのだけど、一緒に屋敷の周りを散策することを提案するわ!」
「ダリアと一緒なら、続けられそうな気がするよ」
「そのためにも、規則正しい生活をしないといけないわね」
「……アンナリーゼ様は、本当に、ご婦人ですか?」
「もちろん、そうよ!ナタリーもだけど、他の貴族婦人とは違って、体力はある方だと思うけど……それでも、それなりの努力はしているわ。ハニーアンバー店の広告塔でもあるから、私もナタリーも体形を崩すわけにはいかないもの」
「アンナリーゼ様は、服の上から見ても、とても美しい姿勢ですよね」
護衛が私に話しかけてくるので、頷いた。剣を扱うので、姿勢をよくしたり、筋力が落ちないようにしたりと、それなりに、努力を積み重ねている。そんなふうに言ってくれるものがいることは、嬉しかった。
「ありがとう。でも、私だから許すけど、他の女性には、あまり言わない方がいいわ。体形は、どんなに美しくてもそうだとは思わない女性が一定数いるから。体のバランスが取れているにも関わらず、痩せたいんだと病的なまでに体重を減らす女性が少なからずいるから。やせ細っているより、ほどよくお肉がついている方が、私は美しいと思うのだけど……」
「人の感性なんて、それぞれだよ」
「そうなのだけどね……心配になる人もいるでしょ? アンバー領みたいな田舎だと、力仕事が多いから、女性も骨太さんが多いから、あまり痩せることを考えていないわよね」
「土地柄、食料不足もあったから、やせ細るよりはって感じだね。畑仕事が多いから、僕より筋肉がついたご婦人もよく見かけるしね」
「体力勝負だからね。特に、農業をしている人は。領地にもいろいろな女性がいるけど、みんな技術を付けたい、独り立ちしたいって意欲ある女性がおおいせいか、必然的に強いお姉様が多い気がするわ」
私たちは、領地のご婦人たちを思い浮かべ、セバスの細い腕を見つめる。
「……僕も鍛えないと……」
セバスも自分の腕を見たらしく、大きなため息をついた。
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