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和歌の記憶

ヘブンズフォール

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「仕事行ってくる。昼はいらない」

「わかった!いってらっしゃい!」

清々しい気持ちで彼を見送った。
これが晶と交わした最後の言葉だった。

昨日、私は晶に夢を語った。
中学卒業したら調理師の資格を取って店を出したい。
晶が人を殺さず働く場所を作りたい。

晶はにっこり笑って、夢を叶えなきゃな!と言ってくれた。
私の夢を笑わないでいてくれて嬉しかった!
昨日の朝言ったことは本気だったんだと!

凄くご機嫌ななか、インターホンが鳴る。
オートロックのモニターに映る人あれ?あの人は…

「晶くんの依頼主の 山田 です。今すぐあけてくれ」

嫌な予感がした。
私は急いで山田を招き入れる。

花家…いや!いま山田って…
なぜ!なんで私の居るとこ知ってるの?

ガチャリ
扉をあけると、どう見ても 花家 だった。

「久しぶり」

花家さんは笑うが目は笑っていない。

「和歌ちゃん、今すぐ晶くんと和歌ちゃんの大事な荷物まとめて、ここを出るんだ。」

私は目を白黒する。

「どういう…事ですか?」

「晶くんは卒業したら君と籍を入れるために 旅 にでた。
暫くは戻らない。
和歌ちゃんはこれから 大久保 の名字に戻る。
色々障害が出る。
君にも 旅 に出てもらう。
君を守るように彼から頼まれた!
警察からみても重要参考人だ!私達が必ず守る!」

「え…突然すぎて訳がわからない!」

「いまはわからなくていい!私も手伝う!急ごう!」

「え…やだ!私!晶と一緒にいく!」

私が取り乱すと、花家さんは 落ち着け! 怒鳴る。

「晶くんの気持ちを無駄にするな!彼は本気だ!信じてあげるんだ!」

「わかりました…」

私は泣きながら荷物を詰める。
住基カード、印鑑証明、パスポート
私の分はあるけど晶のはない。

ああ…いつでも覚悟してるんだな。
そう思った。

あとは買ってくれたものをすべて詰め込もうとする。
参考書を詰め込む時、

「おや、ずいぶん難しいのを持ってるね」

花家さんは山川倫理を手にした。

「はい、晶が一番必要なものと言ってかってくれました。まだ難しい漢字よめなくてわかりませんが…」

花家さんはにっこり笑って

「大丈夫だ、晶くんが戻るときには読めるように返してあげるよ。中学もいける、大丈夫。」

そう言うと花家さんはボストンバッグに山川倫理をしまう。

「まって!」

私は出る前に、初めて買ってくれた
マリアージュフレールのバビロニアの瓶を抱える。

「急ごう!さあ行くよ、此処は引き払う。お別れだ」

「…さよなら。」

たった数週間だったけど、一番幸せでした。
さようなら、私の楽園

私は天国から堕ちた。
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