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第2章 訓練の日々

訓練の日々 18

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 隣国エクス=アン=ディーヌで恐れられた暗殺者「死鳥」、その者は羽の様なナイフを使い、軌道を変え飛ばしてくると聞いたことがある。クレテイスが「死鳥」なのかはわからないが、やっかいなナイフだ。ラクフは痛みに耐えながら考えを巡らせた。 ……もう1本2本受けるのは仕方ない。覚悟を決めるか。
 
 ラクフは急所を隠し、勢い良く飛び込んだ。チャンスは一瞬、一撃。仕込み靴のナイフ、これでケリをつけてやる!

 クレテイスはナイフを投げると、ふわりと身を躱し突っ込んでくるラクフを避けた。

「皆、そうやって的になる」

 ラクフは一撃を繰り出すことができなかった。その両手、両足に無数のナイフが突き刺さり動かす事が出来なかったからだ。

 そのラクフを、後方より音もなく近づいていたディックが取り押さえた。
 クレテイスがラクフに近づいて声をかけた。

「腹は治ったのか?」
「……クッ」
「私を甘く見るなと言ったはずだ」

 また歩廊に強い風が吹いてクレテイスの栗色の髪がなびいた。
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