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第2章 訓練の日々

訓練の日々 34

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 不思議な時間だった。
 サンタンは「自分は吟遊詩人として各国を歩き回っていた」と言った。しかし、レイにはピンとこなかった。吟遊詩人と言うと喋りのうまい陽気で明るい者を想像した。しかしサンタンのイメージは全く逆だ。サンタンは陽気に何かを話すわけではなく、何かを進めてくるわけでもなかったが、その音楽を聴いていると、不思議といろいろこちらから話しを聞いてもらいたくなるのだ。

 いろんなことを伝えるよりも、いろんなことを受け止める、そんな不思議な吟遊詩人だった。
 


 レイは風呂の時間、湯船に浸かりながら、その感想をサンタンに伝えた。

「吟遊詩人だっていろんな奴がいるよ。ま、自分は、レイの言うように向いてないのかもしれないけどね」

 サンタンはそう言うと軽く笑った。

「それはないだろ。あれだけの演奏ができるのに」
「いや、自分は純粋に音楽を愛したいだけだよ」
「だったら、今までの様に吟遊詩人をしていた方が」
「そんなに甘くないよ吟遊詩人の仕事は。そして、食べていくためにではなく音楽をしたいって言ったら、笑うかい?」
「えっ?」
 
 レイには、サンタンの言いたいことが良くわからなかった。

「いや……」そう言うとサンタンは、また少し笑った。
「どうした?」
「いや、何だかおかしくてね」

 サンタンはどっぷり肩まで浸かり上を向いた。
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