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第2章 訓練の日々

訓練の日々 39

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 ある日の練習後、グレーンから「皆、よく耐えた」と一言あったあと叙任式に関しての話が伝えられた。総長、副総長ともに、ロヴァンヌ王国の王都に出向いて不在のため、軍務長モンペリからシエンナ騎士団への叙任がなされるらしい。そして、シエンナ騎士団としての衣服や道具、防具が配られ、最後に配属が伝えられるそうだ。 



 その日の食堂には香ばしい揚げ物と、トマトソースの香りが漂っていた。たたいて薄くのばした肉に、衣をつけ揚げ焼きにしたカツレツに、モーラとノアのテンションがあがる。目を輝かせ食べる二人とは対照的に、席にてトーブがしんみりと呟いた。

「みんな別々のところに行くんだな」

 向いで食事を取っていたレイが手をとめトーブに答える。

「散り散りバラバラじゃないし、またどこかで会うさ」
「でも、俺だけは ……どうせ一人だ」
「?」
「この前、採寸があっただろ。俺だけやっぱり別だっただろ。そう言う事だろ」
「……」
「魔法使いってそんなもんさ。レイ」
 
 レイは叙任式にむけて、皆が工房で受けた採寸を思いだした。確かに、トーブは一人、別のところに連れていかれていた。

「……なるほど」

 レイはその言葉を噛み締め少し思案したあと、トーブの皿に自分のカツレツを大きく切取って乗せた。

「な、なんだよレイ」
「トーブも好きだろ、カツレツ」
「あ、ああ、まあ」
「迷いは、食って、寝て、忘れろ」
「……」
「そう、ノアに、教わった」
「……」
「あと、居残り訓練があればいつでも呼べ。一緒にやる。どこでも行ってやるから」
「……レイ」

 トーブはナイフをテーブルに置いて俯いた。
 そして、そのまましばらく動かなかった。

「さ、食べようぜ」とレイがうながす。
  
「なになに? 私よんだ? 名前聞こえたけど」

 とノアが、食べ終わった食器を持ってやってきた。そして、「どうしたのトーブ? 食欲ないの?」と声をかける。

「こんなにカツレツ残ってる! 食べてあげよっか? あ、それで私? 任せて!!」

 というとノアは、レイのあげたカツレツをつかみ、かぶりついた。
 レイは「アッ」と言う間もなく、トーブと共に口を開けてノアを見つめた。
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