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第2章 訓練の日々

訓練の日々 51

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 最初の一撃を繰り出したのはランスだった。レイは素早い上段の攻撃を盾で受ける。しかし瞬時に牽制だと言うことが分かったので、すぐに連続で打ち込まれる下方への打ち下ろしに盾を合わせ、そのまま組み合った。盾に重い衝撃が加わるが、以前のレイのようによろめきはしなかった。そのまま相手を押し込み、ランスの引き際に鋭い一撃を繰り出した。

 ランスは体制を崩しながらもその剣を盾で弾くと、鞭のように体をしならせ、下段から気合の乗せた剣を摺り上げた。レイは流星のごとく振り下ろした剣でその剣を受け止めたが、手に激しい衝撃を感じる間もなく、気づくと岩がぶつかるが如くランスの突撃を受けていた。その突進を受け体勢を崩す。しかしそれでも、ランスの脇腹に向け線を残すような鋭い一撃をはなった。

 ランスは身をひるがえし、その一撃を避けると鋭い一撃を振り下ろす。
 レイは辛うじてその唸りをあげる一撃かわして間合いを取った。

 全身から汗が噴き出していた。それからも、一進一退の攻防が続き5回組み打ちをしても勝負はつかなかった。

 「そこまで!」とグレーンが試合を止める。

「両者引き分け!」

 ランスがレイに近づき声をかけてきた。

「レイ。ありがとう。いい試合だった」
「こちらこそ剣技に励む昔を思い出した ……ランス、向こうに行っても元気で」

 レイはそう言うと、右の拳をランスに向けた。
 
「ノースレオウィルでは拳と拳をあてて、思いを繋ぐ」

 ランスは拳を握りしめるとレイの拳に当てた。

「ああ、また会おう」

 全ての力を使い果たしたレイは、何とか場外まで出ると座り込み、甲冑を外し始めた。

「甲冑脱がなくていいぜ。次の相手は俺だ!」

 レイが見上げると、甲冑をまとったディックが立っていた。そこにいたのは、あの入団試験の1回戦でレイが剣を叩き落とした剣術初心者のような男ではなく、自信に満ち溢れた戦士そのものだった。
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