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第2章 訓練の日々

訓練の日々 52

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「ディック?」
「入団試験でわざと負けてやったのはわかってるな?」
「……」
「俺の本当の強さを教えといてやろう。本気出せば、お前もランスも目じゃねえ」

 ブロードソードを構え、やる気満々のディックの目が燃えているのがわかった。

 「ディック!」とグレーンの鋭い声が飛ぶ。

「レイとやりたければ。私を倒してからだ、今、中央に立っているのは私だ、こい!」

 ディックが、「クッ」とレイから目を離し中央に歩みを進めた。

 ノアがレイの元にやってくる。

「ディックってあんなやつだったんだな」
「ああ。出来るぞ」
「ふーん。でもグレーン隊長とどっちが上だろ」
 


  広間の片隅ではそんな様子を見ているヴィベールとアヌシビがいた。

「どうしたアヌシビ。浮かぬ顔しておるな」
「隠密の部隊に楽しい事などありませんので。そして面倒臭い仕事が……」
「危険な仕事か?」
「いえ、危険はまずないかと。しかし、14の子供に紛れ学校に潜入し、ある貴族の子の護衛をせねばなりません」
「お金はもらえるのか?」
「そちらは問題なく。ヴィベール殿」
「では人選か?」
「ディックを教師として行かそうかと思っておりましたが……」

 グレーンと試合をし、熱くなっているディックを見て言い淀む。

「教師役がつとまるかどうか? それに、教師では授業中以外の護衛がしづらく……」 
「生徒ねえ、うちにも子供っぽい奴がいるがな」

 とノアをアゴで示した。

「男子校ですの」とアヌシビが返す。
「男みたいだがな」

 その時、ハッとアヌシビが顔をあげ、目がキランと光った。

「あ、わし、余計なこと言ってしまったかな?」

 とヴィベールが呟いた時にはもう、アヌシビはノアに声をかけ、体のサイズを測りに行っていた。
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