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第3章 特別任務

特別任務 19

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 コーブ農園からの道は小高い丘をいくつも越えて続いていた。半日も進んだ頃、遠くに雪化粧をした山々が見え始め、その麓に広大な森林が広がっているのが分かった。東の大街道から脇道に入りその森林へと向かうと、やがて石造りの建物が密集したカルハイムの街が見えて来た。

「あれだ」とディックが皆に告げた。

 レイは山を背にした広大な森林の出現に身が引き締まった。かつて似たような場所で傭兵の仕事をした時に、熊退治に駆り出されたことがあったのだ。その時は十数人もの手練れで向かい退治したが、その圧倒的なパワーと凶暴さから、こちらにも多数の負傷者がでたのを思い出した。幸いにもレイは後方支援で、その時は怪我をしなかったが、肉が削げ落ちた負傷者の痛々しい姿が脳裏に焼き付いていた。

「ノアは熊退治をしたことはあるか?」
「ないよ。というか熊よく知らない。私、南の海辺出身だし」
「そうか。侮るなよ。あのパワーはまさに化け物」

 トーブが近づいて来て自信ありげに「俺に任せろ!」と言ってきた。

「獣なんて目じゃねえ。俺の炎でやっつけてやるよ」

 そういうと、右手の平で炎を燻らした。



 カルハイムの街は、シエンナ城塞都市のオレンジ色と見比べると、なんとも薄暗く地味に見えた。しかし、夕暮れの街中に入るとその印象は一変した。夕食なのかシチューか何かの良い香りがただよい、窓や戸口から漏れる光は明るく、こぼれる湯気はとても暖かな雰囲気を作り出していた。どことなくノースレオウィルに似ているとレイは思った。
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