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第3章 特別任務

特別任務 20

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 中央に走る敷石の通りをゆっくり馬を歩ませると、10分ほどで街の端にあるシエンナ騎士団の詰所までたどりついた。詰所の中には3名の騎士しかいない。二人は濃い髭が特徴的な年配の騎士で、もう一人はゆったりとチュニックを着ている恰幅の良い女性だった。簡単な挨拶を済ませ、食堂兼、会議室のような場所で現状報告を受ける。丸いアーチ状の暖炉の中で木がはぜた。

「4人だけか?」

 カルハイム隊の隊長と紹介されたブレスという男が訊いてきた。

「そうです」とディック。
 
 ブレスという男は深いため息をついた。

「ルドンとワールがやられたのは訊いてるな」
「ええ。容態はどうですか」
「ルドンは死んだ。ワールも重体だ。病院にいるが……」 

 ブレスは手を振ると悲しそうな顔をした。

「気をつけろ。普通の熊じゃない。ワールが言うには背丈はゆうに4m、そして腕が熊にしては異様に長かったそうだ」
「分かりました。では、さっそく」
「まあ待てディック。今日はゆっくり休め。体力勝負だ。この広いラウドの森を捜索せねばならん」
「……はい」
「今晩は2つの班が捜索をおこなっておる。普段2名1組のところ4名にしているから、そう広くは探せんが地道にやっていくしかあるまい」

 その後はラウドの森の地図を見ながら説明を受けた。山の麓にひろがる広大な森林。とても1日2日で回れるような広さではなかった。明日は街道沿いを警備しながら、森の中にある小屋を目指し、晩にそこからいくつかの出没地点に行くこととなった。薄明薄暮性のこの辺の他の熊と違い真夜中に活動を行なっているらしい。

「ディック、もう少し騎士をつけるか。二人ぐらいならここからも騎士を出せるだろう」
「いえ。大丈夫です。こいつらは優秀なんで」
「……そうか」

 その晩は、温かいシチューをいただき早めの就寝となった。

 早朝まだ暗いうちに目が覚めたレイは、夜警から戻って来た騎士が「ディックかー」「ディックを班長に4人だけだってよ。どんなけ人材不足なんだよ」と言うのを訊いてしまった。レイは胸が悪くなり苦苦しく目をつぶった。
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