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女子高生、異世界へ行く。

お客さんとお店5

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いきなりの大声に反射的に振り向くと黒ずくめの男性が立っていた。
黒ずくめと言っても某探偵ものに出てくる人達ではなく、真っ黒な髪をオールバックにした真っ黒なマントを着た病的なまでに肌が白い吸血鬼に近い見た目のひょろりとした細身の人だ。四白眼の白目の部分が赤いのも人外感に拍車をかけている。
「なんだ、雷鳴のもおるではないか、久しいな。何年ぶりだ?」
つかつかと歩く度に細い布を何枚も螺旋状に纏っているかのようなマントの端がピラピラと好き勝手に揺れる。ヒールを履いているのか、カツカツという音と共にこちらへ近寄ってくる。
「久しいも何も、三年前だぞ?最後に貴様と会ったのは」
「ふむ、こちらではその程度なのか。いや、あの後すぐにシャドウレルムへ潜ったものでな、時間の流れがいまいち掴めんのだ。許せ」
話を止めることなく、その人はダレンさんの隣に座る。そしてやっとそこで私に気がついたのか、まじまじと見た後に「異邦人と見えるな、吾輩の事はミスターナイトメアとでもミスターとでも好きな方で呼ぶがいい」と言った。
彼方さんは慣れた様子で普通にチョコレートパフェを作っていた。
ミスターナイトメア、略してミスターは見た目通り人ではないらしい。かと言って吸血鬼でもなく、本人曰く「夜の住人」だと言う。この世にははっきりとした分類のできないものも数多く存在すると本にあったので多分その「分類のできないもの」の一部なのだろう。
ミスターは三年程シャドウレルムと呼ばれる場所を渡り歩いていたのだという。シャドウレルムというのは箱庭のようなもので、上位存在(と便宜上呼ばれているもの達)がかなりの力を使って作ったものなのだそうだ。シャドウレルムに関しては極端に事例も調べたという話も少ないらしく、知らない土地に迷い込み、戻ってきたらかなりの時間が経っていた……なんて言う浦島太郎な話は大体このシャドウレルムに迷い込んだ人の話らしい。上位存在に関しては資料にすら二行ほどの記述しかなく、よくわからなかった。
「しかし、何故またこんないきなり帰ってきたんだ?」
チョコレートパフェの上に乗っている生チョコをスプーンで掬いながら、ダレンさんがミスターに聞く。聞かれた方はレアチーズケーキをフォークで切り分けながら話に応じる。
「あまり良くないものが動き始めたように見えたからな。三年前と同じ様に、だ。同じものでは無いが、吾輩は約束は違わぬ男だからな」
「成程。お前さんの話ならば間違いはなかろうな」
話についていけない私はやはり黙って見ているだけだ。
「それにしても、ヒトの成長とは早いものだな。能力制御さえままならんかった子供が三年で……なぁ。身長も伸びたか?」
「ミスター、私ももう十五ですよ。もうすぐ十六だ。そりゃあ大きくもなるに決まってるじゃないですか」
コーヒーを飲みながらそう言う彼方さんに思わず私はストップをかけた。
「ちょ、ちょちょちょ待ってください!十五って十五歳?!」
驚く私と真反対の反応の彼女は「そうだけど?」と一言。
「ここでの成人は十三。その後学校に行くも仕事をするも何もかも本人の選択だって渡してあった本にも書いてあったろ?」
「いやありましたけど、年下……?めっちゃ同じか少し上だと思ってたんですけども」
二十歳で成人と認められる世界の人間であるか故か、知識として理解はできても感情でこの世界では成人だとは理解できない自分がいるのもまた事実。
認識はそう簡単に改められるものでは無いと実感した瞬間だった。
ミスターはレアチーズケーキとコーヒーを嗜んだあと、もう少し色々と調べてみると言い残して霞になって消えた。再度確認したがやはり吸血鬼ではないらしい。でもまぁ確かに招かれなくても普通に店に入ってきたしな……と複雑な気持ちになる。
「それとさ」
「ん?なんです?」
「魔術の練習したいだろ」
「めっちゃしたいです」
「ジジイのとこで三週間修行ね」
「はい?」
なんか修行とか聞こえた気がすると思い聞き返したが「必要物品は最低限の着替えと身支度整える物があればいいだろうから三十分以内に持ってくること。はいスタート」と流された。なんなら早くしろと急かされた。必要最低限の服を肩掛けの布でできたバッグに詰め込み、筆記用具とメモ帳、ハードカバーのA3サイズのノートを何とか突っ込む。支度を終えた私を彼方さんは「三週間後迎え行ってやるからそれまで魔術の練習してきな」と流れる動きでダレンさんのところに修行に出したのだった。
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