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女子高生、異世界へ行く。

魔術師と一般人2

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魔術と一言に言ってもバリエーションは沢山あるらしい。
というのも、詠唱や魔方陣など、使う人によって一番使いやすいもので魔術を行うためだ。冒険者に多いのは詠唱と杖の合わせ技らしい。確かに咄嗟の事態が起きた時に魔方陣描いてる暇ないよな。
ちなみに、ダレンさんも杖と詠唱を主にしている。本人曰く、魔方陣も使えるけど描くのがめんどくさいとの事。
なんなら詠唱すらショートカットして魔術を使うこともあるらしい。その場合、威力は落ちる為あまりコスパは良くないとも言っていた。
魔術を使うにはロジックが必要らしい。
ある人は言った。
ロジックは言葉だ。
またある人は言った。
ロジックは自然を騙す巧みな嘘だ。

実際のところ、自然を騙すために使う巧みな言葉による嘘なのだろう。
「陽炎、散らし火、火の粉を起こせ」
午後の庭。私はハナガエル達に囲まれながら魔術の練習をしていた。ハナガエル達はとても人懐こく、草木の水やりや魔術の練習をしていると寄ってくる。水やりの時は単に水をかけて欲しくて寄ってきているようだが、魔術の練習を見に来るのは興味からの様だ。
「陽炎、散らし火、火の粉を起こせ」
杖の先からボトッと線香花火の火球が落ちるように火の玉が地面に落ちた。
「うーわー……難しいなぁ……」
独りごちてため息をつくと足元で見ていたハナガエルの幼体が真似るようにしてため息をつく。
この魔術は上手くいくと綺麗な火花が出る。線香花火、序盤か散るかという感じの魔術だ。一般的によく見かける「ファイア!」とか言って放つタイプの魔術は力加減が難しい。この魔術も力加減は難しいが、失敗した時の規模が違う。全焼事件など起こしたくない。故に力加減を覚えるために線香花火を再現すべく躍起になっているのだ。
今私が使っている杖は一日かけて自分で作った。
庭の木もだが、この迷宮には杖の素材に使う原料となる木が何種類か自生している。
そう、これから何をどうするかの説明を受けた夕暮れ、既に夕焼けの時間であるにもかかわらずあろう事かあの爺さんは私を連れて迷宮の中をお散歩(語弊)し始めたのだ。
普通にきつかった。
迷宮内は本当に自然にできたんか?と思いたくなる様な罠のようなものや、冒険者達が開通したであろうショートカット小道など色んな物があった。本来ならばこの階層には居ないはずの巨大な毒蜥蜴が彷徨いていて、その先にある木に用事のあった我々。ダレンさんが正面突破しようとするのを必死に止めていたらこの毒蜥蜴の討伐依頼を受けたという冒険者パーティに出会ったりした。結果としては彼らのおかげで進めたし、お目当てのものは手に入った。
その時手に入れた木の枝は今こうして私の杖としてここに存在するのだが。

本当にそれはいきなりだった。
ダレンさんは説明を終えるなり「さて、うかうかしておれんぞ。出かけねばならん」と言うなり、壁にかけてあった革の鞄を肩にかけ、私にも横掛けのカバンを持たせ、そのままズルズルと引き摺られて迷宮に入る事となった。
いや、既に迷宮の中ではあるのだが。
冒険自体は魅力的だと思う。大好きに決まってる。
でも丸腰で走り回る趣味は無いのだ。
「ダレンさんこれ私何かあったら即死ですよね!?」
「大丈夫大丈夫、死なんどきゃ良い話だ」
「んな無茶苦茶な」
結論から言うとダレンさんは強かった。背中に鰭がある四足歩行の大きなトカゲや人ほどのサイズもあるイノシシを危なげなく単語詠唱で薙ぎ払っていく。基本的には魔除の鈴を付けているのであちらから避けてくらしいのだが、それでも向かってくるものはいる。そんな魔物を青白い電流が蹴散らしていく。
そしてきちんと素材を剥ぎ取るのは忘れない。四足歩行のトカゲ(ミツリントカゲと言うらしい)は鱗のついた皮と背鰭を、イノシシ(こちらはそのままイノシシだった)は牙と皮を剥ぎ、肉を切り出すのだが、肉は野生だからなのか筋肉質さ等が相まってそこまで沢山は取れなかった。
流石住んでいるだけあって、色んな抜け道を知っている様で、魔術師は道無き道、岩と岩の間、草花の茂みの間へとひょいひょいと入っていく。
ついて行く私はほうほうの体である。
目的の場所に着いたとしても木や鉱石を採取するとすぐに別の場所への移動を始めてしまう。とんだ健脚爺である。
時には「ちょいとそこで止まっとけ」と言われて止まると急ぎ足で前に進む。ダレンさんの足が離れると同時か少し後にそこに広がっていた葉がバチン!と音をさせて閉じた。そしてそこには何もないと分かるとまた先程のように葉を広げる。
「オロカモノという名前の草だ。はやく通れば問題ない」
全力で走り抜けたのは言うまでもない。
迷宮と言えど、魔物のみならず動物は存在する。運が良ければ鳥や鹿、犬や猫もこの辺で見ることが出来るのだとダレンさんは言った。今回は見ることは出来なかったが。
もう何ヶ所を回ったのか、日が暮れてきてそろそろ暗くなりそうだという時分の頃だった。前を歩いていたダレンさんが止まる。しかし彼はめぼしい物を探している様子ではなく、こちらを振り向くとそっと木陰に身を隠すようジェスチャーをしてきた。
言われるように身を隠し、指さす方をこっそりと覗く。
そこに居たのは四足歩行の大きなトカゲだった。
しかし、先程まで見てきたものと違い、顔はどことなくツノのあるカメレオン、ジャクソンカメレオンと呼ばれる種に似ており、とても明るい山吹色にオレンジや緑の斑点模様が付いている。カメレオンとの違いは木の上で暮らすカメレオンと違い、しっかりとした象のような脚で徘徊している事だろうか。
「彼奴の息には毒があるからな、あまり顔を出すんじゃないぞ。あれは本来ならばこの階層には居らんはずなんだがなぁ」
さて、どうしたものか。と考えるダレンさん。冒険者組合に依頼を出すか、別に倒せんことは無いし、今日のうちに素材は揃えたいしなぁと独り言を言いながら徘徊する毒蜥蜴を眺めている。
「とりあえずちと撤退するか。近くに冒険者達が使うキャンプ場がある。そこで考えるとしよう」
そう言うとすぐ近くの低木の間にガサガサと入っていく。私は慌ててそれについて行く。迷宮内には大昔からあるという大きな扉が有るのだが、こんな調子でずっと抜け道ばかり使うので遠目に見るだけで扉を使うことすらない。
確かにすぐ近くにキャンプ場はあった。木葉まみれになりながら抜け道、また抜け道としばらく歩いた先、開けた場所に急に出てきたのだ。目の前には焚き火の明かり。
「あれ、誰かと思ったら爺さん。そっちのは孫?」
ピンク色の髪を肩より少し上で切り揃えた細身の青年だった。青年だと判断した理由は声のトーンが低めだった事と胸がない事位で、若草色の瞳も、全身繋ぎの長袖のオシャレつなぎみたいな服を着た身体の華奢さも女性と言われても納得できそうな感じだ。
口元はバツ印のついたマスクのようなもので覆っているので見えない。
「なんだ、黒玄のか。これは孫じゃねぇ。頼まれて世話することになったんだよ」
彼はその言葉を聞くと「そっかぁ」とどこか気の抜けた返事をして私の方を向いた。
「エニシ、黒玄ってギルドで冒険者やってるんだ。よろしくね」
「あ、よろしくお願いします……」
エニシさんの他にも三人この場には居た。
アラビアンナイトとかで踊り子してそうなジャラジャラとした飾りをつけた金髪長身に碧眼のお兄さんはヤクモさん。見た目に反して凄く面倒見のいい人の様で先程から食事の支度をしたりしている。
どこか日本人感のある童顔に近い黒髪黒目のお兄さんはヒカミさん。メディックという中衛職で基本は回復を担当しているとのこと。
銀髪の顔色が青白く、黒いマントをつけた少年はミヤくん。開口一言目から「は?」と言われたので仲良くなれる気がしない。
「ちょうど良かった。ちと頼まれ事をせんか?」
「爺さんの頼み事ってなんだよ、珍しい」
鍋のスープをかき混ぜながらヤクモさんはダレンさんにそう返す。
「いや、この階層には居らんはずの徘徊する毒蜥蜴がおってな。儂は奴が縄張りにしようとしとる場所の先にある、ネムノキの花がついた枝が欲しい」
すると、次はヒカミさんが、
「おや、実は僕達もそいつに用事があったんですよ。ギルドの方で討伐依頼が出てまして、ここは初心者の冒険者も多く来ますし、被害があっては困るので」
と。
どうやら、この魔術師が忙しさで駆けずり回っている間に既に依頼が出ていたようだ。
「ほう、そうだったか。それにしてもお前さん達が受けるとはなぁ」
「いやぁ、最近見付かった迷宮の探索がひと段落したので。それにそろそろ金銭的なアレも必要でしたからね」
「こやつらはこうしとるがな、北の大地に到達した冒険者だ」
「北の大地ってあの?」
この世界には幾つかの大地があり、その中でも北の大地は未開の地だ。というのも、北の果てには世界樹が存在しており、それを守るかのように北へ行けば行くほど魔物は強くなる。
北の大地へたどり着いたというのはそれだけでも、冒険者としてかなりのレベルであると言える。
「まぁ、そんな事より、あの毒蜥蜴を討伐するのが先です。本当は明日朝挑もうかと思ってたんですが、ちょうどいいので今狩ってしまいましょう」
さらりと言うヒカミさん。
「今から?!そんな、こっちの都合に合わせなくても良いんですよ?明日なら私待てますし!ね!ダレンさん!」
「儂の立ち回りは?」
「あっダメだこれ」
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