ドスグロ団地

インタビュー一周目

202号男性Gへのインタビューを終えて

事件当日、パトカーが到着した時にG氏は101号室にいたのだろう。

あの動揺は間違いない。有給を取って101号室のB氏宅で過ごしていた事になる。

単身赴任のG氏はB氏と不倫関係にあった…？

B氏は内職していて子供を管理人に預けていたと言っていた。

それは嘘になる。G氏と2人で内職するわけがない。

201号のＦ氏が言っていた「売春でもしているんじゃないか」と言う言葉が頭に浮かぶ。

ニイサカは知らない土地を歩きながら、これまでのインタビューを整理していた。

もうベンチでキュウリをかじるほど落ち着いてはいられなかった。

ここの住人達はそれぞれに背景が濃すぎる。

人間誰にも色々な事情や、他人に知られたくない事はあるだろう。しかしここの住人はそれが複雑に絡み合っている。

もうこの団地の取材を割り当てられた時のハズレ感は無くなっていた。

むしろ絡み合う糸を少しずつ紐解いている実感に興奮していた。

B氏とG氏はあの日会っていた事をインタビューでは隠している。

C氏は亡くなったＩ氏とは会釈程度しかしたことがないと嘘をついた。

それは管理人も同様だ。

ここの住人は何かを隠している。

それが大きな1つの嘘なのか、それぞれの小さな嘘なのかはまだ分からない。

散々歩いていたら、川辺についてしまった。

ニイサカは足元の平べったい石を1枚握る。

「ニイサカさん、貴方はどこまで何を知ってるの？」

G氏が言った言葉を噛みしめる。

警告とも取れるような内容だが、逆に真実に近付いているのだ。

川に向けて投げた石は一度も水を切る事無く沈んでしまった。

次はH氏へのインタビュー。

彼は一番Ｉ氏に近い存在だった。この事件のキーパーソンになりうる存在だ。

「よし」

ニイサカは額の汗を拭い、団地へと体を向き直した。