神堕ちのランドスケープ ～魔王の第２王女は澱みなく～

第１話 「禁断の出会い」

　魔王城は、朝露に濡れた漆黒の石壁が太陽の光でキラキラと輝く、幻想的な風景を持っていた。その城の中心には巨大な塔がそびえ立ち、魔物たちが空を飛び交っていた。城の周りには緑豊かな森が広がり、風が木々の葉を揺らし
ていた。

　エスデスは、その塔の最上階の部屋で目を覚ました。

　彼女の目の前には、魔法の火が灯るランタンと、部屋の隅には魔物たちの像や絵画が飾られていた。

　彼女は深紅のローブに身を包み、黒髪を振り乱しながら窓辺に近づいた。

「また新しい一日が始まったわ。」

　彼女は小さくつぶやいた。その声は、まるで鈴の音のように清らかだった。

　その時、部屋の扉が静かに開かれ、侍女が入ってきた。

「魔王様がお呼びです、エスデス様。」

　エスデスは侍女の言葉を聞いて、少し緊張した表情をした。

「わかりました。」


　魔王の間へと向かうエスデス。彼女はその途中、多くの魔物たちと挨拶を交わした。彼女は魔王の二女であり、城内では非常に人気があったのだ。

　魔王の間に到着すると、大きな玉座に座る魔王と、その横に立つ若き人間の男性が目に入った。魔王は長い白髪を後ろで束ね、深い黒のローブに身を包んでいた。その目は知恵と経験を感じさせるもので、一度見たら忘れることができない瞳だった。

　部屋の隅には、エスデスの異母姉、シルフィーヌが立っていた。彼女はエスデスとは対照的に、銀髪に青い瞳を持っていた。常に冷静で、魔王城では彼女の知略を恐れる者も多かった。

　男性は金髪に碧眼、高貴な雰囲気を持っていた。

「人間の王子？」エスデスは驚きの声を上げた。

　王子、レオンは微笑みながら一歩前に出てきた。
「初めまして、エスデス様。私はレオン、ラグリアの国の王子です。」

　エスデスは、彼の瞳に引き込まれるように見つめ返した。
「ラグリアの王子が、どうしてここに？」

　その声をさえぎる様にシルフィーヌが一歩前に踏み出し、冷たい目を王子に向けた。
「確かに和平のためだとしても、簡単に信用するわけにはいきません。あなたの真意を詳しく聞かせてもらいたい。」


　レオンは少し緊張しながらも、自信を持って言った。
「私の国も長い間、この争いに疲れています。真心から和平を望んでいます。」

　エスデスはシルフィーヌの手を取り、柔らかく微笑んだ。
「お姉さま、彼の言葉には真実があるように感じます。私たちで話を進めてみましょう。」

　その言葉を聞いたシルフィーヌの瞳には、嫌悪とも恐怖ともとれるどこかいびつなものがあった事に、この時のエスデスは気付いていなかった。