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第1章 監獄の住人17-30
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しおりを挟むすると、シオンと同じような年恰好の女性が顔を出した。
「バウアーの指示で、案内させていただく事になりました。
イライザと申します。」
慌てふためいても、仕事はきっちりしているようだ。
そもそも、この人が案内する予定だったのかも。
ハイヤーハムシェルは顔を真っ赤にして、息を切らせて
ハッペンハイムの使用人を急きょ集めた。
「水タバコを探し出せ。今日中だ。」
使用人の一人が言った。
「ここはイスラムではありません。通常の方法では入手できないのと思います。
モーセス様にご助力いただいたほうが良いのでは。」
「だめだ、町中を探せ。」
ハイヤーハムシェルはあわてていたためひとつ忘れていた。
ゲットーの中に水タバコなどと言う、高級品が売っているはずが無いと。
ハイヤーハムシェルはあっさりと騙された。
水タバコは見つかった。だが明らかにゲットーの
外に出られないと言ううそがばれてしまった。
ヨーロッパ大陸において日曜にゲットーから出られないと言うのは常識だ。
だが、ここは大英帝国なのだ。
「公女殿下 あまりお急ぎにならないほうがよろしいのでは。」
ハイヤーアムシェルは路にある水溜りが、水や雨ではなく
小便であると言うことを知らせるか迷った。だが知っておくべきだ。
「なぜですの。」
シオンは不思議そうに聞いた。
ハイヤーハムシェルは慎重に、だが真剣に言った。
「路の真ん中を歩けば馬車に轢かれます。しかし端のほうを歩くと
窓から、トイレの中身が降り注いできます。」
「そのため、すさまじい悪臭が漂っており、ハーブのマスクなしで歩くのは
不可能です。」
ハイヤーは必死に傘を差しながら早口で説明した。
オスマン帝国から来た貴族は歩くのが速かった。
ついていくのに必死だ。殿下が頭から糞尿を被ったら。
そう思ったら気が気でなかった。
シオンは貴族ではあるが、イスラム教徒ではないので
身分制度そのものから外れており、ユダヤ人の代表と言う位置だった。
しかも、その次女。どこかのユダヤ貴族の嫁に行くだけだ。
それに先ほどの服や建物、寛容で裕福だと言う大英帝国でこれだ。
ヨーロッパ大陸はどのようなところなのだろう。
「こちらには、午後の紅茶と言うのがあるらしいですね。
ぜひ経験してみたいです。高級店はいやですよ。」
シオンは紅茶よりコーヒー党だが
オスマンにはない英国のお菓子に興味があった。
それを聞いたハッペンハイム使用人の団体が大急ぎで探しに行った。
はあはあと息を切らせながら使用人の一人が店を見つけてきた。
ハイヤーは使用人をにらみつけた。思いっきり庶民の店だ。
「ぶしつけな質問ですが、ユダヤ人はハノーヴァ王朝において
開放されたのですよね。なのに大半の人々はゲットーに住んでいる。
なぜですか」
少し迷ったが、また嘘を言って、怒らせるとまずい。
物理的に首が飛ぶのはいやだ。ここからはすべて正直に行こう。
ハイヤーハムシェルはそう心に決めた。
「元々、物乞いやスリ、乞食や売春を生業としてきた我々
と言うより、一般のユダヤ民衆は資金がほとんどありません。」
「それに住み慣れた我が家と申しましょうか、ゲットー
それ自体がユダヤ人を閉じ込めておく牢獄であると同時に
身を守るための城でもあるのです。」
ハイヤーはひとつだけ聞きたい事があった。
幼少に両親が殺され、8歳でオッペンハイム家に出仕した為、
記憶はおぼろげだが、毎日のように借金を踏み倒すため
暴徒が襲い、キリスト教徒の虐殺や強姦が日常茶飯事
ゲットーの門に豚の絵が書かれており、
賄賂を持たないものは リンチされ殺されていた。
それゆえ、キリスト教徒である大英帝国がこれほどまで
ユダヤ人に寛容なのか、それなりに権力に食い込み
地位もコネもあるハイヤーハムシェルでも知らない。
それゆえ、尊敬と親愛を持ってこう聞くのだ。
「なぜ、この国は我々、ユダヤ人に良くして下さるのですか。。」
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