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第2章 黒い宝石 13-
13
しおりを挟む新大陸 南東部 アウグスタン
「ウバ、早くしなさい。」
トーマス・ダンカン・ハミルトンはとても優しい男だと思われていた。
あの人、奴隷の荷物を持っているわよ。それに歩く速度を
奴隷に合わせるなんて、なんて寛大な紳士。
正直、オラバ族のウバ・サウルは内心怒り心頭だった。
これでは、まるで奴隷が旅行に連れまわされているようには見えない。
残念なことに、いや、幸いなことに、主人トーマスはスペイン語を話せない。
ウバはスペイン語、フランス語、英国語、ラテン語、アラビア語は
読み書きはできる。発音はともかく、内容を正確に伝えると言う意味では、
ほぼ完璧に話せるので、トーマスの通訳をしていた。
アウグスタンからイングランド領の中心地ボストンまでは遠い
。
現在なら航空機や高速鉄道もあるが、この時代は馬車だ。
もちろん、9000ポンド以上の財産があるので、郵便馬車などではなく
貸切のそれなりの良い馬車だ。
それなりの、と言うのは何年かかるかわからないので、ウバが馬車の質を
ケチったためだ。黒人海賊、偽者アンボニー一味はいざとなれば助けてくれるだろう。
しかし、9000ポンドあるとはいえ、それは生活するのに困らない。と言う意味で
何か大きな事態が起これば足りなくなる可能性がある。ゆえに、ウバは慎重だった。
トーマスは家族を全員殺され、死にかけていたところを、黒人海賊のラッカムに
助けられたらしく、年齢のせいもあるが天涯孤独の身の上だ。
ラッカムもアンボニーもそれも計算に入れているのだろう。
トーマスはまだ10歳のウバをわが子のように思っているようだ。
新大陸は荒野そのもので、時折見かける、原住民のインド人にはらはらしていた。
ウバは生き別れになった父から教わっていたので、弓は得意だが、
こちらの弓は少し練習したが、故郷のものほどなじんでいない。
トーマスも元海賊だけ会って、それなりに強いが、インド人の大群にあえば
何をされるかわかったものではない。
新大陸は、大英帝国本土から重税をかけられ、やせた土地で食料も少なく
飢えていた。ただでさえ食うに困っているのに、大英帝国本国は
監獄船に寿司詰めにして白人奴隷を送り込んでくる。
森林では木を切り、掘り起こし、開墾しなければならない。
荒野でも、土地が肥えるまで時間がかかる。
それが何を起こすかと言うと、原住民を襲い土地と畑を奪い取るのだ。
もちろん黒人奴隷は、人間ではなく道具なので何も望めないが、
白人は成功すれば、奴隷から農場主に大出世だ。
ウバよりもトーマスのほうが心配だ。
原住民のインド人に会えば確実に殺されるだろう。
そもそも、何語を話すかすらわからないので、交渉も無理だろう。
3日ほど馬車に揺られていると、行く手を白人の女性が
さえぎっていた。まだ幼さの残るその白人は奴隷のようだった。
何より着ているものが粗末でみすぼらしい。
特に鎖などで拘束されている様子はなく、現地に溶け込んでいた。
御者は、どうしますかとトーマスに尋ねてきた。
トーマスがウバに聞き、その後トーマスが御者に命令すると
不自然だが、わざと英語の話せないスペイン出身の御者を
雇ったのだ。ウバは意思を伝える。
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