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第1章
1 ウルティメットドラゴンを討伐せよ。
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戦闘に入ってすぐに黒魔導士の英島は『暗闇魔法』で
ウルティメットドラゴンの視界を奪った。
目の見えなくなったウルティメットドラゴンはその場で大きな尻尾を振り回し、
すさまじい音を立てて地面を踏み鳴らしていた。
足を踏ん張っていないとその場で倒れてしまうレベルだ。
こちら側は攻撃しても大したダメージを与えられないのは明白なので、
全員でウルティメットドラゴンが暴れまわるのを見物している状態だ。
攻撃してこないのを不思議に思ったのか、ウルティメットドラゴンが
話しかけてきた。
「我は竜王 名は無いがウルティメットドラゴンである。
弱き者よ。なにゆえ我に勝負を挑む。」
意外なことに会話をする知能はあるようで俺たちに話しかけてきた。
「ぷっ!竜王、竜王って何?あんた雑魚じゃん!」
英島は思わず噴きだしながらこう続けた、
「ねえあんた、ポップするってわかる?ボスモンスターは
ポップしないけど、あんたの変わりはいくらでも
沸いて出て来るんだよ。」
ウルティメットドラゴンは
自尊心を傷つけられたのだろう、猛り怒り狂っていた。
相手の力量もはかれるらしく、とても極龍に挑むような
パーティではない。どう見ても「ちんけな低レベルパーティー」
である。
だから英島の発言に同意することはできなかった。
(そりゃそうだろ、どんな勇者や賢者でもこんなのに
けんか売らないよ。)
おれらのヒットポイント『30』とか
だぜ、このドラゴン、最大レベルならヒットポイント
100万超えるって聞くし、やばすぎるだろ。
「なあ、米原、テイムした場合、経験値とか入るのか?」
何気なく露原が聞いてきた。「入るよ、ドロップも金貨も
倒したときと同じ。」
「それならさ、こいつをテイムしない?モンスターって
会話するやつっていないでしょ。次、ポップするやつが
会話できるかわからないし。」
「なるほど、レアっぽいね。」
俺は深呼吸をしてウルティメットドラゴンに大声で話しかけた。
「私のしもべの暴言許していただきたい。」
内心は怖くて逃げたかったが今後の付き合いもあるだろうこう言った。
「この黒魔導士 英島豊は氷魔法には自信を持っており
勝負したいと申しています。もし私たちが勝利した暁には
仲間になっていただきたい。」
「よかろう、だが我が弱者に従うことはない!」
ウルティメットドラゴンはそう吼えるとゆっくりと動きを止め、
魔性の詠唱を始めた。聞いていた通りの最大級全体氷魔法だ。
周囲10キロメートルに巨大な球形の魔法陣が浮かび上がり、
具現化していった。
ウルティメットドラゴンは圧倒的戦力差からこちらの挑発にわざと乗った。
万が一にもこちらに勝機があるとは思っていないのだろう。
愚かな氷魔法勝負だ。10キロメートル以内にいれば確実に死ぬ。
おれはクレインを呼び出し、スライムの数を調整してその時を待った。
ドラゴンが即死せず、ヒットポイントが1割以下になるダメージを
与えるために。
「召喚・クレインA クレインB スライムABC」
ウルティメットドラゴンの最大級全体氷結魔法が放たれたのは
その直後だった。ウルティメットドラゴンの魔法は周囲10キロメートルを
氷漬けにしたが、俺らのパーティーに反射され
9割以上のヒットポイントを持っていかれ自身が氷の彫像と
成り果てていた。
~時間をさかのぼること1か月~
「高いなー、とても買えないよ。」
マーケットの掲示板を見た露原は振り返ると
俺に愚痴をこぼした。
俺はさすがに毎日薬草採集だと飽きてくるので、
「薬草採集しても戦闘スキル上がらないし、飽きてきたんだけど」
露原も同じ思いであろうが、それに同意することはない。
「宿屋1泊、10金貨だぞ。スライムはドロップアイテムが無い、
倒しても1銅貨だ、どうやって暮らしていくんだ?」
ウインドウショッピングもいいが、いいかげん自分の装備が嫌になる。
高レベルになったプレイヤーがいらなくなった装備を投げ売りしていたら
安く購入するため、毎日通っている。
この世界にはNPCという存在はなく職人が生産した物品がマーケットに並ぶ。
「お前のその服装はどう見ても乞食だ、一緒にいると私まで恥ずかしい。」
露原はそう言うと、俺から離れて前方を歩いていく。
俺は露原とパーティーを組んでいる。助けた人間が翌日スライムに殺されていたら
寝覚めが悪いらしい。しかしゲームだというのに残酷だ。
貨幣価値がどんどん下がっていく、しかしモンスターのドロップは一定だ。
いわゆる、『スタグフレーション』スライム1匹が落とすのが銅貨1枚、
このゲームは中世のヨーロッパをモデルにした世界観らしく、
金貨1枚が銀貨12枚、銅貨144枚に相当する。
1人が宿屋に1泊するのにスライム1440匹倒さなければならない。
高レベルプレイヤーが高レベルモンスターを乱獲し、
貨幣が暴落しまくったせいだ。
中央銀行がお金を刷りまくってハイパーインフレになるよりひどい状況で
初心者ゾーンに留まる俺らのパーティーはスライムなど狩っていては徒労だ。
今は様々な薬草を採集してマーケットで売っている。
薬草自体は固定値の回復なのだが、高レベルのプレイヤーは
錬金術でポーションにできるらしく、飛ぶように売れる。
薬草から作られるポーションはパーセンテージ回復なので
上級プレイヤーが頻繁に購入する。
ちなみに、薬草1枚が金貨1枚だ。
たいていの奴はレベルが上がると、薬草採集などせず、
戦闘で稼ぐ。
露原も物価高騰で初心者の救済が難しくなってきているのは
理解しているらしく、野宿をしながら悩んでいた。
しかし日々の努力は実り、俺はレベル5になっていた。
もちろんおれが生きていられるのは露原のおかげだ、
スライムを狩って死にかけるという体験もなくなった。
俺一人ならそっくに草原で野垂れ死にだろう。
ある日いつものように薬草を採集していると、
俺の持っていた卵からピンク色のスライムが出てきた。
レベルはまだ1だがパーティーが2匹と1匹になるのは助かる。
俺はピンク色のスライムに『スラリン』という名前を付けた。
スキルに回復魔法を取得していた。薬草採集の経験値のみで
卵を孵したためだろう。
露原は、名前に少し不満げだったが、俺のペットなので
スラリンで押し通した。スラリンの感覚は調教師であるおれと共有
されるようだ。スラリンはムスメスライムで縦横10センチの
肉まんのような形だ。非常にかわいい。
露原はぬいぐるみのように毎日抱いて寝ている。
始まりの村、正式には『ビギニングビレッジ』のメイン通りを歩いていると
真っ黒い姿をした、一見して黒魔導士だとわかる人物に声をかけられた。
ドスの利いた声で話しかけているが、おそらく女性だろう。
『そこのキミ、珍しいものを連れているね。」
突然話しかけられて動揺するおれを横目に、露原は
「こいつはテイマーなんだ。」と返答していた。
「ほう。良ければ一緒に食事などどうかな?」
露原は怪しげな人物を見るように訝しんでいた。
こんな、初心者且つ子供のパーティーに何の用かは知らないが
話くらいは聞いてもよさそうだ。
「まあ、ただ飯が食えるなら良いんじゃないか?」
どうやら酒場に来てほしいようだ。ただ飯が食えるのなら
たとえ火の中水の中だ。喜んでついていくことにした。
連れていかれたのは、この街で最も安い酒場だった。
「おいひい~、久しぶりの肉だ。」そういうと露原は肉にかぶりついていた。
未成年 おれ 米原 和(13歳)、露原いつき(10歳)
当然飲酒はできない。
飲むと毒耐性が付いて、さらに最大HPが上がるらしいのだが、
俺たちは飲めない。どうやら薬草をちびちび食べながら飲むのがよいらしい。
俺たちが空腹を満たし、1服すると食事をおごっているホスト
『英島 豊』がおもむろに尋ねてきた。
「君は調教師?モンスターを仲間にできるの?」
そう聞いてきたのはやはり女性であった。『ゆたか』ではなく
『とよ』と読むらしい。年齢は20歳前後だろう。
俺は自分の所有しているペットがモンスターと呼べるかはともかく
「はい、まぁ」と一応同意しておいた。
そのほうが話がスムーズに運ぶだろう。
「へぇ、どんなモンスターをテイムしたの?」
豊さんは俺の従えているモンスターを知りたいようだった。
「話をする前にここで出してくれない?」
「こいつが初級回復魔法と初級状態異常回復を使用できるスライム
『スラリン』です。」
唯一のペット『スラリン』を見て英島さんは興味深そうだった。
「回復魔法?それはレアだな。本当にレアだ。」
回復魔法を持っているペットというのは見たことが無いらしく
マーケットで売り飛ばせば大金になるといわれたが、
スラリンは俺の嫁なので丁重にお断りした。
「レベル15とレベル5か、かなり不安だね。あんたみたいなの
雇うの嫌だけど、調教師って稀少だからね。」
稀少と言われおれは問い返していた。
「うん、この世界に基本職の転職システムはないし、たいていは
火力の出せて、ソロでも戦える戦士系や魔術師系がほとんど、
パーティーってモンスターの敵意を引き受けて盾になって見方を守る『タンク』、
モンスターにダメージを与えて倒す『アタッカー』
敵にデバフ、味方にバフをかけて補助する『バッファー』
傷ついた味方を癒す『ヒーラー』で構成されているけど、
『テイマー』ってどれにも当てはまらない。」
役に立たないといわれてしょんぼりするおれに英島は言った。
「まあ、生産職の鍛冶屋や縫製屋とおなじでペット屋だと思えばいいでしょ。
調教師ってコストパフォーマンスがいいだけで、お金にならないからね。」
挨拶が済んだからか本題を持ってきた。
「あなたたち、ウルティメットドラゴンって聞いたことある?」
「いえ、ないです。」2人そろって首を振った。
「最強の雑魚でね、レベルは250台、ヒットポイントは80万以上
体長は最小でも50メートル以上、ジャンボジェットみたいな大きさの
巨大な竜。」
「それが僕らとどう関係があるのですか?」
「もしかして倒すとか?」冗談半分でこう言うと
英島豊は軽く首を振るとこう言った。
「倒すんじゃあなく乱獲する。何万匹と狩り殺す。」
「いやいや、無理でしょう」
こいつ頭おかしいのかマジで、と思いつつ話を聞いていた。
「まあ、そいつを倒した奴はまだ誰もいなくてね。
でも普通に動き回って元の位置にリポップするから
種類的には雑魚だと思うよ。と言っても普通に戦ったら
ラスボスより少し弱いくらい。話にならない。」
英島はビールをあおると興奮気味に魅力について説明しだした。
「まず、膨大な経験値が入る。超レアアイテムを落とす可能性も高い、
そして金貨も相当入るはず。」
英島は最底辺の職業 調教師であるおれを見ながら微笑んだ。
「そして、もしテイムできたら君は最強のテイマーになれる。」
「最強のテイマーには興味ありますが、どうやって倒すんですか?」
英島は最近ウルティメットドラゴンの生息域に行ったらしく、
「私はかなり修行して。中級魔法を取得したから
一度威力を試そうと思って、ウルティメットドラゴンは氷結魔法使うから
弱点は火炎属性かなと思って攻撃したら、真逆で氷結属性が弱点だった。」
「えっ、戦ったんですか?」おれはこいつ頭おかしい、
勇敢な馬鹿か、賢い自殺志願者だと思った。
「それはすごいですが、どうやって倒すのですか?乱獲以前に
1匹も倒すことできないと思いますよ。」
俺は英島さんの言っている意味が分からなかったし、
俺とどう関係あるかわからなかった。
「そこで君の出番よ。」
英島はビールを飲み切ると言った。
「どういうことですか?」
俺は意味が分からなくて質問しかできなかった。
「この町の近くの森に、魔法常時反射の精霊『カーバンクル』が
住みついているわ。あんたがスライム10匹出した状態で魔法反射すれば
ウルティメットドラゴン自身の最上級氷魔法が10倍になって反射する。
大ダメージを与えられるはずよ。」
英島は興奮気味に語った。
あまりの荒唐無稽さに俺があきれていると露原が立ち上がりこう叫んだ。
「よし、やろう。」
金欠で元気のない露原が珍しくやる気満々だ。
「おい、どうした。お前も頭がおかしくなったのか?」
俺はそう声をかけた。
「私は竜騎士だ。そうだろう!乗るべき竜を探すのは当然だ。
和仁、ウルティメットドラゴンをテイムしてくれ!」
露原は目をらんらんと輝かせ、謎の雄たけびを上げた。
初心者で浅学のみであるおれでも、明らかに不可能だと思えるし、
実在の確認されていない報酬のために命を懸ける気はない。
しかし露原はものすごく乗り気だ。
命の恩人で、今まで生活の面倒を見てもらっていたのだ、
断ることは難しいだろう。
露原イツキが『槍戦士ではなく竜騎士』だからだ。
「なぜ、そこまでドラゴンにこだわるんだ!」
「私は生まれおちた時、竜騎士という職業だった。
だが相棒であるはずの竜はどこにもいなかった!」
ああ、騎乗用のドラゴンが付いてくると思ったのですね。
「しかし、ドラキチは親に売り払われてしまった!」
ああ、騎乗用のドラゴンはいたのですね。売られたのですか。
それは悲しいですね。
「すみません、質問をいいですか?英島さん。」
「あぃ、いいよ。なんだい?」
「カーバンクルってすごく便利そうに見えるのですが、今まで誰も
テイムしなかったのはなぜですか?」
「フム、それはもっともな質問だな。」
「私も詳しいわけではないけれど、聞いた話では、
この世界にテイマーが現れて生き残ったのは
君を含めて100人もいない。何もないところからスタートするんだ
街まで来るのが難しい。この街も経験を積んだものはすぐに
次の街に行くから初心者以外は過疎気味だしな。
わたしもウルティメットドラゴンの生息域がここでなければ、
とっくにおさらばしていたよ。」
「おっと話がそれたな。知っている通りテイムするには、対象を
最大ヒットポイントの1割以下にしなければならない。
だが、カーバンクルの最大ヒットポイントは1だ。」
ビールのお代わりをもらうと英島は続けた。
「先駆者は、一時的に最大HPを増加させるポーションや
毒や回復、混乱、睡眠、誘惑、いろいろやったが、成功しなかった。
そもそも、我々のように明確な目標『ウルティメットドラゴンを倒す。」
などと思っていないため、全力で傾注する理由もない。
すぐにあきらめてしまったらしい。」
英島さんの考えた方法は、カーバンクルの最大HPを毒を飲ませて
回復させて最大HPを十一以上にして死なないようにしてから、
テイムするというものだ。
その日俺たちは、『カーバンクル』の住むという近くの森に向かった。
ウルティメットドラゴンの視界を奪った。
目の見えなくなったウルティメットドラゴンはその場で大きな尻尾を振り回し、
すさまじい音を立てて地面を踏み鳴らしていた。
足を踏ん張っていないとその場で倒れてしまうレベルだ。
こちら側は攻撃しても大したダメージを与えられないのは明白なので、
全員でウルティメットドラゴンが暴れまわるのを見物している状態だ。
攻撃してこないのを不思議に思ったのか、ウルティメットドラゴンが
話しかけてきた。
「我は竜王 名は無いがウルティメットドラゴンである。
弱き者よ。なにゆえ我に勝負を挑む。」
意外なことに会話をする知能はあるようで俺たちに話しかけてきた。
「ぷっ!竜王、竜王って何?あんた雑魚じゃん!」
英島は思わず噴きだしながらこう続けた、
「ねえあんた、ポップするってわかる?ボスモンスターは
ポップしないけど、あんたの変わりはいくらでも
沸いて出て来るんだよ。」
ウルティメットドラゴンは
自尊心を傷つけられたのだろう、猛り怒り狂っていた。
相手の力量もはかれるらしく、とても極龍に挑むような
パーティではない。どう見ても「ちんけな低レベルパーティー」
である。
だから英島の発言に同意することはできなかった。
(そりゃそうだろ、どんな勇者や賢者でもこんなのに
けんか売らないよ。)
おれらのヒットポイント『30』とか
だぜ、このドラゴン、最大レベルならヒットポイント
100万超えるって聞くし、やばすぎるだろ。
「なあ、米原、テイムした場合、経験値とか入るのか?」
何気なく露原が聞いてきた。「入るよ、ドロップも金貨も
倒したときと同じ。」
「それならさ、こいつをテイムしない?モンスターって
会話するやつっていないでしょ。次、ポップするやつが
会話できるかわからないし。」
「なるほど、レアっぽいね。」
俺は深呼吸をしてウルティメットドラゴンに大声で話しかけた。
「私のしもべの暴言許していただきたい。」
内心は怖くて逃げたかったが今後の付き合いもあるだろうこう言った。
「この黒魔導士 英島豊は氷魔法には自信を持っており
勝負したいと申しています。もし私たちが勝利した暁には
仲間になっていただきたい。」
「よかろう、だが我が弱者に従うことはない!」
ウルティメットドラゴンはそう吼えるとゆっくりと動きを止め、
魔性の詠唱を始めた。聞いていた通りの最大級全体氷魔法だ。
周囲10キロメートルに巨大な球形の魔法陣が浮かび上がり、
具現化していった。
ウルティメットドラゴンは圧倒的戦力差からこちらの挑発にわざと乗った。
万が一にもこちらに勝機があるとは思っていないのだろう。
愚かな氷魔法勝負だ。10キロメートル以内にいれば確実に死ぬ。
おれはクレインを呼び出し、スライムの数を調整してその時を待った。
ドラゴンが即死せず、ヒットポイントが1割以下になるダメージを
与えるために。
「召喚・クレインA クレインB スライムABC」
ウルティメットドラゴンの最大級全体氷結魔法が放たれたのは
その直後だった。ウルティメットドラゴンの魔法は周囲10キロメートルを
氷漬けにしたが、俺らのパーティーに反射され
9割以上のヒットポイントを持っていかれ自身が氷の彫像と
成り果てていた。
~時間をさかのぼること1か月~
「高いなー、とても買えないよ。」
マーケットの掲示板を見た露原は振り返ると
俺に愚痴をこぼした。
俺はさすがに毎日薬草採集だと飽きてくるので、
「薬草採集しても戦闘スキル上がらないし、飽きてきたんだけど」
露原も同じ思いであろうが、それに同意することはない。
「宿屋1泊、10金貨だぞ。スライムはドロップアイテムが無い、
倒しても1銅貨だ、どうやって暮らしていくんだ?」
ウインドウショッピングもいいが、いいかげん自分の装備が嫌になる。
高レベルになったプレイヤーがいらなくなった装備を投げ売りしていたら
安く購入するため、毎日通っている。
この世界にはNPCという存在はなく職人が生産した物品がマーケットに並ぶ。
「お前のその服装はどう見ても乞食だ、一緒にいると私まで恥ずかしい。」
露原はそう言うと、俺から離れて前方を歩いていく。
俺は露原とパーティーを組んでいる。助けた人間が翌日スライムに殺されていたら
寝覚めが悪いらしい。しかしゲームだというのに残酷だ。
貨幣価値がどんどん下がっていく、しかしモンスターのドロップは一定だ。
いわゆる、『スタグフレーション』スライム1匹が落とすのが銅貨1枚、
このゲームは中世のヨーロッパをモデルにした世界観らしく、
金貨1枚が銀貨12枚、銅貨144枚に相当する。
1人が宿屋に1泊するのにスライム1440匹倒さなければならない。
高レベルプレイヤーが高レベルモンスターを乱獲し、
貨幣が暴落しまくったせいだ。
中央銀行がお金を刷りまくってハイパーインフレになるよりひどい状況で
初心者ゾーンに留まる俺らのパーティーはスライムなど狩っていては徒労だ。
今は様々な薬草を採集してマーケットで売っている。
薬草自体は固定値の回復なのだが、高レベルのプレイヤーは
錬金術でポーションにできるらしく、飛ぶように売れる。
薬草から作られるポーションはパーセンテージ回復なので
上級プレイヤーが頻繁に購入する。
ちなみに、薬草1枚が金貨1枚だ。
たいていの奴はレベルが上がると、薬草採集などせず、
戦闘で稼ぐ。
露原も物価高騰で初心者の救済が難しくなってきているのは
理解しているらしく、野宿をしながら悩んでいた。
しかし日々の努力は実り、俺はレベル5になっていた。
もちろんおれが生きていられるのは露原のおかげだ、
スライムを狩って死にかけるという体験もなくなった。
俺一人ならそっくに草原で野垂れ死にだろう。
ある日いつものように薬草を採集していると、
俺の持っていた卵からピンク色のスライムが出てきた。
レベルはまだ1だがパーティーが2匹と1匹になるのは助かる。
俺はピンク色のスライムに『スラリン』という名前を付けた。
スキルに回復魔法を取得していた。薬草採集の経験値のみで
卵を孵したためだろう。
露原は、名前に少し不満げだったが、俺のペットなので
スラリンで押し通した。スラリンの感覚は調教師であるおれと共有
されるようだ。スラリンはムスメスライムで縦横10センチの
肉まんのような形だ。非常にかわいい。
露原はぬいぐるみのように毎日抱いて寝ている。
始まりの村、正式には『ビギニングビレッジ』のメイン通りを歩いていると
真っ黒い姿をした、一見して黒魔導士だとわかる人物に声をかけられた。
ドスの利いた声で話しかけているが、おそらく女性だろう。
『そこのキミ、珍しいものを連れているね。」
突然話しかけられて動揺するおれを横目に、露原は
「こいつはテイマーなんだ。」と返答していた。
「ほう。良ければ一緒に食事などどうかな?」
露原は怪しげな人物を見るように訝しんでいた。
こんな、初心者且つ子供のパーティーに何の用かは知らないが
話くらいは聞いてもよさそうだ。
「まあ、ただ飯が食えるなら良いんじゃないか?」
どうやら酒場に来てほしいようだ。ただ飯が食えるのなら
たとえ火の中水の中だ。喜んでついていくことにした。
連れていかれたのは、この街で最も安い酒場だった。
「おいひい~、久しぶりの肉だ。」そういうと露原は肉にかぶりついていた。
未成年 おれ 米原 和(13歳)、露原いつき(10歳)
当然飲酒はできない。
飲むと毒耐性が付いて、さらに最大HPが上がるらしいのだが、
俺たちは飲めない。どうやら薬草をちびちび食べながら飲むのがよいらしい。
俺たちが空腹を満たし、1服すると食事をおごっているホスト
『英島 豊』がおもむろに尋ねてきた。
「君は調教師?モンスターを仲間にできるの?」
そう聞いてきたのはやはり女性であった。『ゆたか』ではなく
『とよ』と読むらしい。年齢は20歳前後だろう。
俺は自分の所有しているペットがモンスターと呼べるかはともかく
「はい、まぁ」と一応同意しておいた。
そのほうが話がスムーズに運ぶだろう。
「へぇ、どんなモンスターをテイムしたの?」
豊さんは俺の従えているモンスターを知りたいようだった。
「話をする前にここで出してくれない?」
「こいつが初級回復魔法と初級状態異常回復を使用できるスライム
『スラリン』です。」
唯一のペット『スラリン』を見て英島さんは興味深そうだった。
「回復魔法?それはレアだな。本当にレアだ。」
回復魔法を持っているペットというのは見たことが無いらしく
マーケットで売り飛ばせば大金になるといわれたが、
スラリンは俺の嫁なので丁重にお断りした。
「レベル15とレベル5か、かなり不安だね。あんたみたいなの
雇うの嫌だけど、調教師って稀少だからね。」
稀少と言われおれは問い返していた。
「うん、この世界に基本職の転職システムはないし、たいていは
火力の出せて、ソロでも戦える戦士系や魔術師系がほとんど、
パーティーってモンスターの敵意を引き受けて盾になって見方を守る『タンク』、
モンスターにダメージを与えて倒す『アタッカー』
敵にデバフ、味方にバフをかけて補助する『バッファー』
傷ついた味方を癒す『ヒーラー』で構成されているけど、
『テイマー』ってどれにも当てはまらない。」
役に立たないといわれてしょんぼりするおれに英島は言った。
「まあ、生産職の鍛冶屋や縫製屋とおなじでペット屋だと思えばいいでしょ。
調教師ってコストパフォーマンスがいいだけで、お金にならないからね。」
挨拶が済んだからか本題を持ってきた。
「あなたたち、ウルティメットドラゴンって聞いたことある?」
「いえ、ないです。」2人そろって首を振った。
「最強の雑魚でね、レベルは250台、ヒットポイントは80万以上
体長は最小でも50メートル以上、ジャンボジェットみたいな大きさの
巨大な竜。」
「それが僕らとどう関係があるのですか?」
「もしかして倒すとか?」冗談半分でこう言うと
英島豊は軽く首を振るとこう言った。
「倒すんじゃあなく乱獲する。何万匹と狩り殺す。」
「いやいや、無理でしょう」
こいつ頭おかしいのかマジで、と思いつつ話を聞いていた。
「まあ、そいつを倒した奴はまだ誰もいなくてね。
でも普通に動き回って元の位置にリポップするから
種類的には雑魚だと思うよ。と言っても普通に戦ったら
ラスボスより少し弱いくらい。話にならない。」
英島はビールをあおると興奮気味に魅力について説明しだした。
「まず、膨大な経験値が入る。超レアアイテムを落とす可能性も高い、
そして金貨も相当入るはず。」
英島は最底辺の職業 調教師であるおれを見ながら微笑んだ。
「そして、もしテイムできたら君は最強のテイマーになれる。」
「最強のテイマーには興味ありますが、どうやって倒すんですか?」
英島は最近ウルティメットドラゴンの生息域に行ったらしく、
「私はかなり修行して。中級魔法を取得したから
一度威力を試そうと思って、ウルティメットドラゴンは氷結魔法使うから
弱点は火炎属性かなと思って攻撃したら、真逆で氷結属性が弱点だった。」
「えっ、戦ったんですか?」おれはこいつ頭おかしい、
勇敢な馬鹿か、賢い自殺志願者だと思った。
「それはすごいですが、どうやって倒すのですか?乱獲以前に
1匹も倒すことできないと思いますよ。」
俺は英島さんの言っている意味が分からなかったし、
俺とどう関係あるかわからなかった。
「そこで君の出番よ。」
英島はビールを飲み切ると言った。
「どういうことですか?」
俺は意味が分からなくて質問しかできなかった。
「この町の近くの森に、魔法常時反射の精霊『カーバンクル』が
住みついているわ。あんたがスライム10匹出した状態で魔法反射すれば
ウルティメットドラゴン自身の最上級氷魔法が10倍になって反射する。
大ダメージを与えられるはずよ。」
英島は興奮気味に語った。
あまりの荒唐無稽さに俺があきれていると露原が立ち上がりこう叫んだ。
「よし、やろう。」
金欠で元気のない露原が珍しくやる気満々だ。
「おい、どうした。お前も頭がおかしくなったのか?」
俺はそう声をかけた。
「私は竜騎士だ。そうだろう!乗るべき竜を探すのは当然だ。
和仁、ウルティメットドラゴンをテイムしてくれ!」
露原は目をらんらんと輝かせ、謎の雄たけびを上げた。
初心者で浅学のみであるおれでも、明らかに不可能だと思えるし、
実在の確認されていない報酬のために命を懸ける気はない。
しかし露原はものすごく乗り気だ。
命の恩人で、今まで生活の面倒を見てもらっていたのだ、
断ることは難しいだろう。
露原イツキが『槍戦士ではなく竜騎士』だからだ。
「なぜ、そこまでドラゴンにこだわるんだ!」
「私は生まれおちた時、竜騎士という職業だった。
だが相棒であるはずの竜はどこにもいなかった!」
ああ、騎乗用のドラゴンが付いてくると思ったのですね。
「しかし、ドラキチは親に売り払われてしまった!」
ああ、騎乗用のドラゴンはいたのですね。売られたのですか。
それは悲しいですね。
「すみません、質問をいいですか?英島さん。」
「あぃ、いいよ。なんだい?」
「カーバンクルってすごく便利そうに見えるのですが、今まで誰も
テイムしなかったのはなぜですか?」
「フム、それはもっともな質問だな。」
「私も詳しいわけではないけれど、聞いた話では、
この世界にテイマーが現れて生き残ったのは
君を含めて100人もいない。何もないところからスタートするんだ
街まで来るのが難しい。この街も経験を積んだものはすぐに
次の街に行くから初心者以外は過疎気味だしな。
わたしもウルティメットドラゴンの生息域がここでなければ、
とっくにおさらばしていたよ。」
「おっと話がそれたな。知っている通りテイムするには、対象を
最大ヒットポイントの1割以下にしなければならない。
だが、カーバンクルの最大ヒットポイントは1だ。」
ビールのお代わりをもらうと英島は続けた。
「先駆者は、一時的に最大HPを増加させるポーションや
毒や回復、混乱、睡眠、誘惑、いろいろやったが、成功しなかった。
そもそも、我々のように明確な目標『ウルティメットドラゴンを倒す。」
などと思っていないため、全力で傾注する理由もない。
すぐにあきらめてしまったらしい。」
英島さんの考えた方法は、カーバンクルの最大HPを毒を飲ませて
回復させて最大HPを十一以上にして死なないようにしてから、
テイムするというものだ。
その日俺たちは、『カーバンクル』の住むという近くの森に向かった。
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前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
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それとも――自由か。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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