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06.イヴァンの願い
しおりを挟むここはガーディアン本部、第1部隊のフロア。もう深夜なのでフロアに人は誰もいない。
玲音は琴子をフロアの一角にあるソファに寝かせた。
「今日はもう休んでろ」
そう一言告げると玲音は任務に戻るべくフロアを後にした。
…………
朝日が差し込んできて琴子は目覚める。
そしてここが第1部隊のフロアの広間だと気づいて慌てる。
リボンをバンパイアに解かれていることを思い出したからだ。
「っつ!!!」
勢いよく起きると2階の休憩室まで走り急いで中に入ると鏡の前に立った。
「こ、れは!!」
結果的にリボンは琴子の髪についていた。
なんとも不器用にリボンは髪に結ばれていた。
「ふふ」
昨夜助けに来てくれたのは隊長だ。
きっとこのリボンも隊長が結び直してくれたんだろう。
慣れない事に四苦八苦しながら結んでくれた気遣いに心が温かくなった。
思わず顔が綻んだ琴子だった。
数時間前、謎のバンパイアディアーナとイヴァンは今夜も荒らされたホテルの一室にやってきていた。
「このクソガキっ!」
そう叫んだのはイヴァンに腕を後ろに捕まれ彼を睨みつける女のバンパイアだった。
「………」
そんな女をイヴァンは冷たく睨みつける。
そしてその女に歩み寄るのはディアーナだ。
「質問に答えて。長老はどこに隠れてるの?」
「長老?私が知るわけないじゃない…」
そんな女にディアーナは銀の細剣を首筋にあてた。
「これが何だか分かるわよね?正直に答えなさい…次の集会はいつかしら?」
「……っ」
女のバンパイアは突きつけられた細剣にごくりと生唾をのむ。
銀製の細剣だ。
こんなもので斬られたら一溜りもないだろう。
その時だった。
どこから現れたのか第三者がイヴァンに向かって銃を撃った。
イヴァンは咄嗟に掴んでいた女を抱え込み盾にし、ディアーナの前に立つ。
そして銃弾が飛んできた方に目を向けた。
そこには銀の髪に血色の瞳のバンパイアの男が拳銃を向けて立っていた。
すらっとした佇まいに端正な顔をしている。
「やはり、あなた達ですか。同胞殺し…」
そう男が口を開く。
「アーヴィング様!」
女が縋るように声を出した。
アーヴィングの名にディアーナは反応する。
「アーヴィング…」
アーヴィングとは確か長老の側近の1人だ。
「あまり面倒をかけないで下さいよ。長老様から貴女を連れてくるように申しつけられています。」
そう言いながら近づいてくるアーヴィングにイヴァンは女を前に突き出す。
イヴァンは冷や汗を流す。
アーヴィングからひしひしと伝わってくるのは今まで相手をした誰よりも強いプレッシャーと殺気。きっと物凄く強いのだろう。
「止まれ。それ以上近づくな」
そんなイヴァンの静止も聞かず近付いてくる。
イヴァンは女の首にナイフを突き立てる。
しかしアーヴィングは気にした様子もなく、そして冷たい笑みを浮かべた。
「そんなもの…邪魔でしょう?」
その言葉と同時にアーヴィングは銃を撃った。
近距離からの射撃だ。
その弾丸は女を貫きイヴァンをも貫いた。
「くっ!!」
「アーヴィング…様………っ」
そのまま女は絶命する。
そしてディアーナに拳銃を向けた。
「さて、お終いですね」
引き金を引こうとした瞬間、イヴァンがその拳銃を蹴り落とした。
「ディアーナから離れろっ!」
「おや…頑丈ですね」
血を滴らせながら尚もディアーナの前にたち続けるイヴァン。
「(やっぱり銀製の銃弾か…傷が塞がらねぇ…)」
「イヴァン下がってて!」
ディアーナはそう言うと細剣を手にアーヴィングに向かっていく。
しかし動きはアーヴィングの方が速い。ディアーナの攻撃は全てかわされ、後ろを取られてしまう。
「っつ!」
そしてまるで流水のように流れるようにディアーナから細剣を奪うとそれをディアーナの首筋にあてた。
「あなたの処分は長老様が決めます。しかし彼の処分は…」
そう言って楽しそうに顔を歪めるアーヴィング。
「大人しく着いていくわ。だから…彼だけは…」
「仕方ないですね…このまま消してもいいのですが長老様からの呼び出しですし…」
そう言って端末を見るアーヴィング。
それからイヴァンに冷たく笑いかける。
「それでは失礼。」
「ぐっ」
出血が多くてイヴァンは動けない。
「ディアーナっ!!!」
霞む視界でディアーナが何かを落とす。イヴァンはそれを握りしめ意識を手放した。
…………
琴子は今、ガラス張りの外から丸見えの部屋に玲音とやってきたいた。
ここはガーディアン本部の医療フロアの一角にある拘束者を治療する部屋だ。
そこにいたのはバンパイアと思われる青年、イヴァンだ。
もう1人の女のバンパイアは見当たらない。
昨夜、騒ぎがあったホテルに向かったら彼が倒れていたのだと琴子は玲音から話を聞いたのだ。
部屋に入るとイヴァンは琴子と玲音を見つめた。
「あんた達にお願いがある…」
その瞳は複雑そうに揺れる。
「ディアーナを助けて欲しい…」
「ちょっと待ってくれ…話が見えてこない…説明してくれないか?」
そんなイヴァンに玲音は問いかけた。
そしてイヴァンは自分たちが何を目的としているのかを話し出した。
ディアーナはバンパイアでその中でも人に血を分け与えることでバンパイアにしてしまう十二血族の1人らしく、その十二血族を片っ端から狩っているのだという。
そしてイヴァンは死にかけのところをディアーナに助けられたバンパイアと人のハーフである事も告げた。
「バンパイアは人の血を求めすぎて人を殺してしまう。ディアーナは必要最低限の血だけを貰うように長老達に呼びかけたんだ…だけど長老達は聞きもしてくれなかった。そしてディアーナは一族の裏切り者として追放されたんだ。バンパイアの中には人の血を飲み、人を殺す事に快楽を得ている者も少なくない。だから止められない。この連鎖を止めるには…」
そこまで言ってイヴァンは俯く。
「そんな事情があったのか。」
「ディアーナは十二血族の1人に連れていかれた。それも血族最強の男に。彼は長老よりも強い。今まで会ったどの血族よりも…俺だけじゃディアーナを助けられない」
イヴァンは懇願するように玲音と琴子を見る。
「分かった。ディアーナさんを助けよう」
玲音の言葉に琴子は頷いた。
玲音と琴子が部屋から出ていったあとディアーナが落としていったものを見る。
小さな小瓶に赤い液体…恐らくこれは…
「血だ…それも魔女の血。」
イヴァンはそれを眺める。
ディアーナが昔話していた事を思い出す。
「あなたを十二血族殺しに巻き込んでしまって申し訳なく思う。本当にごめんなさい。だからせめて貴方だけは人に戻れるようにしてあげるからね。」
そう言って心底申し訳なさそうにイヴァンを眺める。
「魔女の血があれば…」
「魔女の血?」
「そうよ。魔女の血を飲めば私達バンパイアはその力を失い人になると言われているわ。」
「…そうなんだ」
正直イヴァンは人に戻りたいなんて思っていなかった。
このままディアーナと十二血族殺しを達成し…そして自分はその戦いの中でディアーナのために死ぬと思っている。
その覚悟もある。
「魔女の血なんて必要ないよ。俺はずっとディアーナのそばに居る。最後の時まで。」
そう言ってイヴァンはディアーナを抱きしめた。
そんな昔の事を思い出し、ディアーナに対して怒りも湧いてきた。
「…………」
この血をイヴァンに渡したということは人に戻って生きろ、と言うディアーナからのメッセージだ。
でもそれは彼女の押しつけだ。
「俺は生きたいんじゃない。覚悟ならとっくに出来てる。1人で生きろなんて…随分と酷いじゃないか」
小瓶をギュッと握りしめる。
「死ぬのも生きるのも一緒だ。」
死ぬ時も、生きる時も彼女と一緒に、それがイヴァンの願いなのだ。
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