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10.元気の無い森
しおりを挟むバンパイア事件から一週間後、イヴァンとディアーナはあの後、ガーディアン一同に礼を言うと忽然と姿を消した。
バンパイアの残党狩りも無事に終わりまた平穏な日常が戻ってきた。
そしてここはガーディアン本部、第1部隊のフロア。
淡い桃色の髪をツインテールにしたライトグリーンの瞳の少女、花凜はそーっと働く琴子を見ている。
今回のバンパイア事件。かなり大変な任務だったみたいだ。そう同じ時期に入隊して彼女は重要任務につき、私は…巡回止まり。
「才能無いのかな…」
ボソリと呟いた声は誰にも聞かれることは無かった。
「お?なんだシケたツラしてんな!」
ふと頭上から声がしてきて花凜は顔を上げると、そこには紺色の髪に金色の瞳の大柄な青年が人懐っこそうな笑みで花凜を見ていた。
「(誰???)」
そう思ったのもつかの間、その青年は他の隊員達に話しかけられる。
「副隊長!帰ってきたんですね!!」
「今度はどこを攻略してきたんですか??」
あっという間に副隊長と呼ばれた青年は他の隊員達に囲まれてしまった。
「(今副隊長って呼ばれてた???)」
疑問に首を捻る花凜を他所に隊員達の話もそこそこに、紺色の髪の青年は花凜の腕を引っ張り、更に琴子も引っ張りがしっと2人の肩に腕を乗せると玲音ににっと笑みを向けた。
「んじゃ、隊長!新人2人、しばらく借りてくわ」
「また、唐突だな…」
少し困ったように玲音は笑う。
「どうせ今動けるの新人2人しかいないだろ?まぁ、俺に任せろ」
確かに彼の言う通り現在、比較的手が空いてるのは新人2人しかいなかった。
2人の事は俺が守るから、と紺色の髪の青年は言い放った。
そんな青年に玲音も渋々頷いたのだった。
そうして琴子と花凜はわけも分からず紺色の髪の青年…副隊長に連れてかれるのだった。
連れていかれたのは郊外の草木が生い茂る森だった。
なんだか瑞々しさがなくどこか元気がない、活気がないように見える森だった。
「なんだか…元気の無い森…ですね?」
琴子は不安げな顔をした。
「その通り、元気がないんだよこの森…生き物ももう僅かしか生息していないこのままだとこの森は…もう時期死ぬ」
副隊長の言葉に琴子と花凜は息を飲んだ。
一体この森で何が起こってるというのか…。
「そう言えば自己紹介がまだだったな、俺は朱凰要。一応、第1部隊の副隊長だ、よろしくな!琴子に花凜!」
そう言ってにっと笑った。
それから3人は元気の無い森に入っていく。活気のない森は薄暗くどこか不気味で肌寒く感じた。
花凜はそんな雰囲気に呑まれてしまってるのか心做しかブルブル震えている。
「花凜ちゃん、寒いの?」
一方の琴子は随分と落ち着いていた。
これが経験の違いか…と花凜は卑屈になる。
「…別に」
なんだか悔しくて冷たくあしらってしまった。
そんな花凜を不思議に思いながらも琴子はそっか、とだけ返事をし副隊長に着いていく。
「よし、この辺りでいいか?」
そう言って要は適当なところで立ち止まった。
「花凜…お前の能力はそれなりに把握しているつもりだ。索敵頼む」
「は、はい!」
花凛は目を瞑り集中する。
すると花凛の周りから光る糸のようなもよが無数に伸びていき、それは次第に広がっていった。
「ずっと奥に大きな花の化け物が…います。そいつが森の養分をたくさん…たくさん…吸い上げてる…」
「おし!魔物退治始めますか!!」
案内頼むな!と要は二っと笑った。
暫く森を歩いていると吊り橋を発見した。
花凜が震える。だって今にも崩れ落ちそうだったから…。
そんな事も気にせず要は吊り橋の上を歩いていく。
立ち止まっている花凜を琴子が心配そうに気にかける。
「花凜ちゃん…大丈夫?」
そんな琴子の余裕ある言葉に少しむっとしながらも、大丈夫とだけ素っ気なく伝え琴子を通り過ぎていく。
「………」
そんな花凜を琴子はどこか寂しそうに見つめていたが花凜が気付くことは無かった。
要が吊り橋を渡切り、花凜がもう少しで渡りきりそうになった時、突然大きな鳥の魔物が攻撃を仕掛けてきた。
「きゃっ!」
その鳥の魔物の風を切る風圧で橋が大きく揺れる。
そのせいで花凜がバランスを崩してしりもちを着く。
「花凜ちゃんっ!!」
琴子は花凜の元に近寄りたいのに風がそれを許さない。
「あっ!」
すると吊り橋を止めている太いロープが解れている事に気付く。
このままでは橋はもたない。
「《風早の扇!!》」
琴子がそう言うと2つの鉄扇が両手に現れる。
それからその鉄扇を花凜に向かって振ると突風が吹き花凜は飛ばされて向こう岸までたどり着いた。
ふわりと下ろされ、振り向くとそこに吊り橋と琴子の姿は無く…花凜はぎょっとした。
琴子は花凜を助けてくれたのだ。
「嘘…琴子ちゃんっ!!!」
絶望する花凜を通り過ぎ要は大きな魔物の鳥に拳をぶつけた。しかし魔物はまだ元気だ。
「花凜!まずはあの魔物をなんとかしよう!!」
「はいっ!!」
花凜は涙を拭い立ち上がった。
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