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37.憂いを帯びる停滞者
しおりを挟む伊咲凪が猛毒で昏睡状態に陥ってから数日、玲音は憂いを帯びた表情で1人、ガーディアン本部の中庭のベンチに座っていた。
その様子を他の隊の女の人達や通りすがりの女性などがうっとりと見惚れている。
何人かの女子達がヒソヒソと話している。
「第1部隊の隊長さんだ…相変わらずイケメン」
「あの憂いを帯びた表情…堪らないわ」
「なんだか思い詰めていそうね…何かあったのかしら?」
など思い思いの事を囁いている。
そんな風に玲音を見ている女子達を他所に、琴子は深刻そうな顔で玲音見つめた。
玲音が憂いを帯びた表情を浮かべているのは何故なのかを知らなかったら琴子もこの女子達と一緒に黄色い視線を向けていたことだろう。彼はただベンチに座っているだけで絵になるのだ。
そして今の玲音は落ち込んでいるのだ。友を救うためにどうしたら良いのかを思い悩んでいるに違いない…。
「(舞衣さんを呼び覚ます事が出来れば…)」
だがそれは、間違いなく危ない橋を渡る事になる。
どっちにしろ、覚悟を決めなければいけない。
「(確か舞衣さんは皇帝預かりになっていて、接触するには皇帝の許可が必要って言っていた…まずは許可が降りるかどうか…)」
皇帝の許可が降りるかどうか…そこが最初の難関なのかもしれない。なぜなら皇帝が一介のナイトのために危険を冒してまで接触を許可するとは思えないからだ。
「舞衣さんの意識を引き出せると証明できれば…」
舞衣の意識を100%引き出せると証明できれば少しは可能性が出てくるかもしれないと琴子は思った。
そうして琴子はゆっくりと憂いを帯びた表情を浮かべている玲音の元へと歩いていく。
「隊長」
目の前にくるまで気づかないくらい考え事をしていたのか、琴子に呼ばれて初めて玲音は顔を上げた。
琴子は玲音に微笑みながら缶ジュースを渡す。
「お、さんきゅ!」
さっきの憂いを帯びた表情から一転、玲音も琴子に笑顔を向けた。琴子も少し開けて隣にベンチに腰掛ける。
それを見ていた女達が悲鳴を上げたような気がしたが、琴子はきっと気の所為だろう…と思う事にした。
「考え事ですか?」
琴子は玲音に問いかける。玲音は手元の缶ジュースを見ながら頷いた。
「伊咲凪にかけた停滞の力はあと2週間くらいしかもたないんだ。その間に解毒薬ができなければ…伊咲凪は死ぬ」
深刻な顔で玲音は言った。
時間が無いのだ。
「珍しく隊長らしくないですね。」
琴子の優しげな口調に玲音は顔を上げた。
そこには不安そうにしながらも、それでも玲音を励まそうと笑みを向ける琴子がいた。
「時間が無いなら、やる事は1つ…ですよね?」
やらない後悔より、まず行動を。
「方法は今、1つしかありません。舞衣さんに月城さんの解毒をしてもらうしか無いんです。」
「だが、それには皇帝の許可がいる。まず許可は降りないと思う…」
「舞衣さんの意識を100%引き出せると証明できればどうですか?」
「それならいけるかもしれない…が、どうするんだ?」
「黒の教団…に近付いてみるのはどうでしょう?」
「なるほど…確か教祖はBLACKDiVAという噂があるな。」
「はい。私は舞衣さんも救いたい。舞衣さんから狂気姫を引き剥がす方法を探ろうと思うんです」
狂気姫を引き剥がす事なんて本当に出来るのだろうか?舞衣を救うために玲音なりに模索はしてきた。だけど、どうしても解決策は見いだせなくて、引き剥がすと言う発想より、狂気姫の意識を抑える方向で考えていた。
琴子が言うのは引き剥がすという事。もしその方法が見つかれば、根本から解決できる事になる。
でも、それもやはり懸けになるだろう。
必ず方法があると言う保障は無い。限りなく可能性は低いだろう。
そんな風にまた玲音が考え込んでいると、琴子の歌声が聞こえてきた。
「~♪」
それは玲音に勇気をくれる、励ましの歌だった。
その綺麗な、透き通るような歌声に周囲にいた女子達も聞き入る。女子達は僻んでいたのがどうでも良くなるくらい素晴らしい歌声に聞き入っていた。
琴子は歌いながら既視感を感じた。
こんな風に歌っていた事が昔にもあったような気がしたのだ。ずっと昔、まだ子供だった頃。
満天の星空の元で、白金の髪に左目の下に泣きボクロ…そこまで思い出して琴子はハッとする。
「(嘘…っ。星の王子さまって……隊長??)」
どうして…今まで思い出せなかったのか…。
時期が希空が亡くなった時と被っていたから、思い出したくなくて記憶がぼけてしまっていたのかもしれない。
「(大切な思い出の人…)」
名前すら知らなかったし、顔だって今の今まで思い出せなかったのだ。
また会えるなんて思ってもみなかった。
まるで運命かのような巡り合わせに琴子の心は高鳴る。
そんな琴子を他所に、
「たしかに…らしくなかったかもな、うじうじ悩むなんて。よし、そうと決まれば黒の教団に乗り込もう」
玲音はいつもの様に太陽の様な温かい笑顔を向けた。
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