BLACK DiVA

宵衣子

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42.女王の想い

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頭に次々と流れてくるのはBLACKDiVAの女王の記憶と想いだった。
BLACKDiVAの住む国は小国で、そんなに裕福な国では無かったが国民が皆、幸せそうで笑顔の絶えない素晴らしい国だった。
そしてその国の女王、ヤエカも慈愛に溢れ、臣下や国民からの信頼もあつく、素晴らしい女王だった。
しかし、そんな穏やかな生活も突然一変する。

地球からやってきた人間…地球人によって。
BLACKDiVAと地球人の戦争が始まるのにそう時間はかからなかった。
最初、彼らはBLACKDiVA達が使う特殊な力によって怯んでいた。
しかし数ではBLACKDiVAよりも圧倒していた地球人は徐々に優位に立ち始め、そしてBLACKDiVAは敗戦した。
BLACKDiVAの女王の目の前で仲間たちを殺され、国民を殺された…地球人はBLACKDiVAの力を恐れ戦争が終わった後もBLACKDiVAを殺す、BLACKDiVA狩りを続けた。
BLACKDiVAの女王ヤエカの地球人に対する憎悪は凄まじいものだった。強い強い憎しみ。強い強い怨み。強い強い殺意。そして何より国民を守りきれなかった悔しさ、悲しさ…色々なドロドロとした感情が琴子の中に流れ込んできた。

「私達が何をしたというの?ただ慎ましく生きていただけ…それなのに突然現れた地球人が何もかもめちゃくちゃにして奪っていった。許さない…死んでも許さない………全部壊してやる。殺してやる。生きとし生けるもの全て!!!」

地球人によって女王は喉を潰されていた。そのあまりにもむごい姿に琴子は目を逸らしたくなる。
だけど頭の中に勝手に流れ込んでくるので目をそらす事は出来ない。
それから女王は投獄され、食事なんて十分に与えられず、男達の慰みものにされ……それはそれは残酷な最期を迎えた。

女王ヤエカ様の憎しみは琴子にダイレクトに伝わる。

「……………」

王冠に触れて1分くらい経っただろうか、突然琴子が項垂れピクリとも動かなくなった。
少し離れたところで見守っていた玲音は琴子の様子がおかしい事に気づきすぐさま駆け寄る。

ポタリ…

琴子の足元に涙が落ちる。
玲音は訳が分からず心配そうに琴子を見つめた。

「大丈夫か…?」

「……憎い………地球人が憎い!!!」

瞬間、琴子は玲音に向けて拳を振った。
玲音はそれをひょいっとかわし、額に冷や汗をかく。

「地球人…?琴子!!」

琴子は悲痛な表情で泣いていた。
玲音は琴子との距離をつめると殴られようが、暴れていようがお構い無しに彼女を抱きしめた。
ギュッと力強く抱き締めた。

「琴子…大丈夫だよ。大丈夫。」

「隊長…?っつ!!!ごめんなさい!!!」

我に返った琴子はバッ!!と玲音から離れた。
その顔は真っ赤だった。
玲音がいなかったら危うく女王の感情にのみこまれるところだった、と琴子は胸をなで下ろした。
そしてもう一度、王冠に手をかざそうとして自分の手が震えてる事に気がついた。

「…っ」

この王冠から流れ込んでくる記憶は目を背けたい程辛い記憶ばかりだ。
琴子は記憶を見るのが怖くなってしまった。
でも、怖いけど知りたいと思うのも事実で…
葛藤する琴子の震える手を玲音はそっと握りしめた。

「隊長?」

「大丈夫。俺がついてる」

そう言って玲音は太陽のように温かい笑みを琴子に向けた。
琴子は大好きなその笑顔に安心する。
そして2人は手を繋いで、琴子はまた王冠に手をかざした。
すると流れ込んできたのは記憶じゃなくて…
辺り一面に真っ赤な彼岸花が咲く場所に琴子は立っていた。
そこには石でできたお墓があった。
そしてその前に佇むのは…長い黒髪に真っ赤な瞳の女性だった。
その女性は悲しげに微笑む。

「貴女は…ヤエカ様…ですか?」

琴子の問いかけに彼女は静かに頷いた。

「ねぇ、私を解放して。もう疲れたのよ。静かに眠りたいの…」

「それは…どういう意味ですか?」

「私は辛くて苦しくて負の感情だけ切り離したの。そしたら安らかになれると思ったから…」

でもそうじゃなかった…と続ける。

「切り離したはずの負の感情の声が聞こえるの…雑音よ…うるさくて休まらない。これなら切り離さなければ良かった。いや…切り離すべきじゃなかったのよね…また1つに戻りたいの。」

どうやら舞衣の中にいるヤエカ様は本人が切り離した負の感情らしい。

「中途半端な私じゃ神様の元へは行けないみたい」

そう言って女王は力なく笑った。
酷く疲れきっている様子だった。

「私の…最後のお願いよ。どうか…どうかお願いね…」

その言葉を最後に琴子は現実に引き戻された。
彼岸花の場所で見た女王ヤエカは記憶で見た王としての威厳は無く、どこか弱々しかった。

「ヤエカ様には会えた?」

そう聞いてきたのはアデラだった。

「はい。アデラさんも会ったんですか?」

「ええ。疲れきっている様子だったでしょう?負の感情を切り離した事によって魂がこの王冠に縛り付けられてしまったらしいわ。私は…彼女に安らかな眠りについて欲しいの。彼女の最期は不幸なものだったわ…もう十分でしょう。」

そう言ってアデラは悲痛な表情をした。

「そうですね…女王様にはもう、休んで欲しいです」

あんな強い憎悪…自分の中から無くなって欲しいと思ってもおかしくない。あんな感情苦しくて辛い…。
ふと琴子の頭に來之衛が過ぎる。

「(來之衛も…あんな風に憎しみを抱いているのかな…)」

自分の身を焦がす様な…自分で自分を締め付けているような…だけど逃れられなくて…復讐を果たせばそんな感情も無くなって穏やかになるのだろうか…?

琴子はヤエカ様の記憶と感情が頭に流れ込んだ事によってヤエカ様の憎しみを疑似体験した。だが、今はもう何も感じない。あれは自分の感情じゃなくヤエカ様の感情だと割り切れる。あんなに心が乱されたのに不思議なものだ。

「(でも…私もいざ希空の仇を目の前にしたら、あんな気持ちになるのかな…)」

憎しみに囚われて自分が自分じゃ無くなってしまうのかもしれない。ふとそんな事を思って琴子は首を振った。

「(何言ってるの!!私が來之衛と同じ、復讐者になったら來之衛を止められないじゃない!しっかりしなきゃ…)」

今頃…來之衛は何処で何をしているんだろう…?

琴子の瞳が憂いを帯びる。
その瞳を見て玲音は声をかける。

「考え事?」

「あ…はい。大切な幼なじみの事を考えてしまって…」

「それって男?」

「はい…そうですけど…?」

どうして玲音がそんな事を聞いてくるのか琴子には全く見当も付かなかった。しかもなんだか不機嫌そうな顔をしているし…。

「へぇ~俺と手をつなぎながら他の男の事考えてるんだ?」

そう言って玲音は繋いでる手を琴子の目の前にチラつかせて悪戯っぽく笑った。
そこで手を繋いでいる事を思い出した琴子は顔を真っ赤にさせて慌てる。

「っつ!!!!」

玲音は冗談だよ、と言って笑うと琴子の手を離し少し離れた所に待機している照幸と紅葉の元へ行ってしまった。
琴子はさっきまで玲音と繋いでいた手を見つめる。

「(もう少し繋いでいたかったな…)」

頬を染めながら熱っぽい瞳で玲音見つめる。
琴子の心の中は一瞬で玲音でいっぱいになったのだった。
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