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◇大恋愛がしたいのに⑦

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「毎日は無理だけど、できるだけ俺が家まで送り届けるから。警察へ行くなら付き添ってあげる」

 棚野さんも心配そうな顔をしてそう言ってくれた。
 こうして騒がせてしまうと想像がついていたから、話さないでおこうと思っていたのに。
 私がうっかり棚野さんに喋ったせいで、みんなにバレてしまった。大ごとにはしたくなかったが仕方ない。
 
 棚野さんは仕事の途中だったので、いったん会社に戻っていき、宣言どおり私が遅番で仕事を終えるころに車で迎えに来てくれた。


「わざわざ送ってもらうなんて、すみません」
「いいんだ。俺がしたくてしてるんだから。あ、どこかでご飯食べる? でも遅くなったらいけないから今日は近くの店で」

 それには素直に「はい」とうなずいた。どうせ家に帰っても冷蔵庫にはなにもない。
 帰りにコンビニか二十四時間営業のスーパーに寄ろうと思っていたくらいだ。
 ここで棚野さんの申し出を断ってお弁当を買って帰るのは、さすがに失礼だからできない。
 ファミレスでいいですよと言うと、棚野さんは運転しながら偶然見つけた店の駐車場へと車を停めた。

 店内は空いていて、すぐにテーブル席に案内される。
 私はミートドリアとサラダのセット、棚野さんはハンバーグセットを注文した。

「明日は、早番? 遅番?」
「早番です」
「良かったら今出てるシフト表をメールで俺に送っておいてよ。遅番の日はできるだけ迎えに行くから」

 棚野さんが運ばれてきたハンバーグを頬張りながら、さも当然かのようにそんな提案をしてくれた。
 シフトを教えるのは別に嫌ではない。だけど私は素直にうなずけなかった。

「棚野さん、本当に大丈夫ですから。明日店長に相談して、しばらくの間だけでも遅番は減らしてもらいます。だから家まで送ってもらうのは……」

 棚野さんだって決して暇ではないのだ。さすがに申し訳がなさすぎる。
 恋人でもない私を家まで送るためだけに頻繁に迎えにくるなんて大げさだ。
 おずおずと私が断りの文句を口にすると、棚野さんのやさしい笑顔がだんだん落胆へと変わっていく。

「ごめん。迷惑だったかな」
「あ、いえ……」
「不審者って、なにをしてくるかわからないからね。もしも襲われるようなことがあったらと思うと心配で……」

 苦笑いする棚野さんを見ていると、それはそれで申し訳なくなってくる。
 ただ単に彼は私を気遣ってくれただけだとわかっている。その純粋な気持ちを踏みにじるつもりは毛頭ないのだけど。

「シフトを組みなおしてもらうなら大丈夫かな。……ごめん。窪田先輩があんなことを言うから触発されたみたいだ」
「え……あんなことって?」
「もたもたしてると誰かに先を越されるぞ? って発言」

 一瞬、なんの話だったかなと思ったけれど、昼間に窪田さんがそう言っていたのを思い出した。
 まさか窪田さんの冗談を棚野さんは真に受けたのだろうか。

「でもまぁ、先輩の言うとおりだよ。このままいつまでもはっきりしないのは男らしくないと俺自身もわかってる」

 そこまで言うと棚野さんはグラスの水を飲み、ピンと背筋を伸ばした。
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