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◇大恋愛がしたいのに⑧

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「もう気づいていると思うけど……俺、一緒に働いてたころからひなたちゃんが好きだった。実は丹沢さんが口説いてるときも」

 私はその発言を聞いてさすがに目を丸くする。
 いったいこの人はどれだけ前から私にそんな気持ちを抱いてくれていたのだろう、と。

 仲の良い元同僚。
 そんな気楽な関係でい続けたいと思っているのかなと、私はずっと勘違いをしていたのだ。鈍感すぎて申し訳なくなってくる。

「俺のこと、考えてみてくれないかな? 職場の元先輩じゃなくて彼氏として」
「………」
「あ。窪田先輩みたいに、俺の女になれ! って言うのはむずかしいもんだね」

 そう言って棚野さんは最後に力なく笑ってみせた。

 窪田さんと違って温厚な人だから、強引で俺様な言葉は似合わない。
 だけど今は彼らしく、自分の言葉で私に気持ちを伝えてくれた。
 今度は私が返事をする番だけれど……どうしたいのかすぐに答えが出ない。

「ひなたちゃんってさ、もしかして恋愛に興味ない、とか?」

 なにも言えずにうつむいて押し黙っていると、下から覗き込むようにしてそう問われた。
 私は咄嗟にブンブンと首を横に振って否定をする。

「そんなことはないです……」

 私だって恋愛できるものならしたいと前々から思ってる。
 どうせなら皆がうらやむくらいの大恋愛がしたい。

「じゃあ、返事はまたでいいから俺とのことを考えてみてよ」

 きっと……私にはわかるような気がしている。
 キラキラとしたオーラをまとって光り輝いているとまでは言わないけれど、大恋愛ができる運命の相手と出会えたら、この人だとわかると思う。
 だけど未だにその相手は見つかっていない。
 本当はもう出会っているのに、私が鈍感すぎて気づいていないだけなのかな?
 その相手は、棚野さんだったりするのだろうか。

 気がつけばもうアラサーだ。誕生日がくると私は二十八歳になる。
 若くして結婚した友達の子供は今年六歳になっていて、来年から小学校に上がるらしい。
 そういう話を聞くと、どうしても置いていかれた感じがして焦りが出てくる。

 恋愛も結婚も人それぞれだ。人生設計だって違う。
 どういう人生を歩むか人によって選択が違うことは理解しているものの、結婚や出産どころか、その前提である恋愛すらまともにできない自分が不甲斐なくて嫌になる。

 私はもしかしたら恋愛不適合者なのかもしれない。
 ふつふつとそんなことを考えながら、棚野さんにアパートの前まで送ってもらい、家路についた。
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