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◇彼の正体と土砂降りの雨①

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 翌日、店長に事情を話してシフトを調整してもらい、しばらくは早番だけにしてもらった。
 それから一週間が経過したが、以降アパート近くに不審者が現れることはなくてホッとしている。
 このまま終息してくれればと、今は願うしかないのだろう。

 それよりも……棚野さんからの告白はどうしたものかと未だに悩み中だ。
『考えて』と言われて日にちが経ったけれど、未だに自分の中で答えが出せていない。
 同僚だったから、棚野さんの人柄はよく知っているつもり。
 しかし私の気持ちがはっきりしないのに、とりあえず付き合うのはどうなのだろうかと、そこが引っかかっているのだ。
 好きになれると思って付き合ったけれどやっぱり無理、というパターンも考えられる。そうなると棚野さんを傷つけてしまう。

 いい加減な気持ちでは付き合えないな。
 考えあぐねた結果、それが私の答えになりつつある。
 棚野さんだって年齢的に結婚を意識しているかもしれないし、そこを考慮するとなおさらだ。

 それとも、臆病風に吹かれて最初の一歩を踏み出せない私がダメなだけなのだろうか。
 いや………付き合うとなるとスキンシップなど、それ相応の恋人らしい行為も覚悟しなければいけない。
 愛情たっぷりのキスをしたり、それ以上のことも。

「ひなたさーん、なんで百面相してるんですか~?」
「うわぁっ!」

 お昼休憩の時間にスタッフルームで妄想を繰り広げていると、萌奈ちゃんに突然話しかけられて驚いてしまった。

「顔、赤いですよ?」
「な、なんでもないから」

 私が棚野さんとそういうシチュエーションになっているところを、妄想していただなどと言えるわけがない。

 正直、私は本当にそうなったら、できるのだろうか。
 はっきりと好きではないからできないかも……というより、してはいけないと思う。

 悶々と考えながらサンドイッチを頬張っていると、萌奈ちゃんが目の前のテーブルに例の雑誌をバサリと置いた。
 以前に窪田さんがレジカウンターに持って来て見せてくれたビジネス雑誌だ。
 窪田さんは今日はお休みなのだけれど、萌奈ちゃんはその雑誌を借りて読んだのか、当該ページを開いて私のほうへ差し向けた。

 やっぱりカッコいい。本当にモデルみたい。
 なんとなく冷淡な感じはするものの、全体が整っていて綺麗な顔立ちをしている。
 特に顎から耳にかけての輪郭のラインがシャープで、私好みの弧を描いている。紙面なのに何度目にしても素敵な男性だ。

「ひなたさんに残念なお知らせがあります」

 うっかり雑誌の写真に見惚れてしまっていて気づくのが遅れたけれど、隣に座る萌奈ちゃんが柄にもなくシュンと肩を落としている。

「どうしたの?」

 笑顔が消えた仏頂面の彼女に率直に尋ねてみた。
 しかも、私にとって残念なお知らせとはなんだろう?
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