【完結】再会の記念日はあの場所で

夏目若葉

文字の大きさ
1 / 4

1.

しおりを挟む
***

 あれからもう一年経った。
 長かったような、あっという間だったような。

 今日はアイツと付き合って四年目、別れて一年目の記念日だ。
 去年の今頃も、私はお台場にあるこの高級ホテルにいた。
 一年前は洒落たダイニングバーで食事をし、きらびやかな夜景を眺めながらアイツと仲良くお酒を楽しんだ……そんな記憶が戻ってくる。

 そうだ。アイツにも一応、文哉ふみやという名前があった。
 もう一年会っていないから、名前すら忘れそう……というのは、精一杯の強がりだ。
 すぐに忘れられたのなら、こんなにモヤモヤと引きずらなくて済んだのに。

 あのダイニングバーはどうなっているだろうと、なんとなく気になって足を運んだ。
 去年はテーブル席に案内されたけれど、今年はひとりなので端っこのカウンター席に陣取りつつ、チラチラと窓からの夜景を眺める。その景色は以前と変わらずに綺麗だった。

 だんだんとお酒がまわってきたのか、一年前のことが鮮明によみがえってきた。
 あの日、私と文哉は部屋に戻って飲み直し、ふたりきりで恋人気分を味わっていた。

「こんな豪華な部屋、よく取れたね」
夏穂かほは夜景が好きだから、このホテルがいいと思って奮発したんだ。さっきのバーとは違う方角の夜景もいいだろ?」

 このホテルは東西南北でそれぞれの方角の夜景が楽しめるらしく、そんな理由で文哉はこのホテルを選んだのだそうだ。
 交際三年目の記念日に泊ろうと、文哉が予約してくれたのは東京の空を飛び交う飛行機が見える南側の部屋で、本当にうれしくて感動した。

「来年は逆の北側の部屋もいいな。レインボーブリッジや東京タワーが見えて、それも綺麗だぞ?」
「うん。そうしよ!」

 文哉に後ろからハグをされて軽くキスを交わす。恋人との甘い時間が流れ、私はこのとき幸せに浸っていた。

「じゃ、決まり! 来年の記念日も俺たちはここで過ごす」

 来年もこの夜景の綺麗なホテルで一緒に……
 それが、私たちが交わした約束だ。

「あのさ夏穂、話があるんだけど……」

 文哉が歯切れ悪く話し始めたところで、テーブルに置いてあった文哉のスマホが短く着信を告げた。メッセージアプリの通知のようだ。
 ソファーに座ってそれを確認する文哉が、ゆるい笑みを浮かべていて。
 気になった私は隣にくっついて、彼の手元のスマホを横から覗いた。

「どうしたの?」
「バーベキューのときの写真」

 先週、文哉が職場の人たちと何人かでバーベキューに行ったのは知っている。
 そのときに撮った写真が何枚も送られてきていたのだけれど、みんな仲良さそうに楽しんでいて、それだけでなんだか妬けてきてしまう。

「これ、なに?」

 送られてきた写真を文哉が親指でスライドさせていると、肩を寄せ合った男女がスマホに写し出された。
 ひとりは文哉で、もうひとりは知らない女性だが、女性のほうは文哉に顔を寄せているように見える。

「顔、近すぎる!」
「誤解するなよ。ただの同僚だから。酔ってるからふざけてて……」
「彼女、絶対文哉のこと好きだよ」

 根拠はない。これは女の勘だ。
 もしかしたら今だって、私たちが記念日のデート中だとわかっていて送ってきたのかもしれない。そんなふうに考える私は性悪しょうわるだろうか。

「どうしてこんな写真撮るの?! 勢いでキスできちゃう距離でしょ!」
「そんなことしないし、落ち着けよ」

 文哉がそっと私の肩に手を添えようとしたが、私は怒りにまかせてその手を払いのけた。

「最悪。なんでこんな気持ちにならなきゃいけないのよ」
「悪かったよ。夏穂……」
「もういい。帰る!」
「待てって!」
 
 記念日を祝うムードではなくなり、私は一緒にいたくなくなってそのままホテルを飛び出した。
 本当はふたりで泊まる予定にしていたのに。
 文哉がひとりで泊まればいい。せっかく苦労して予約した部屋なのだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

一途な恋

凛子
恋愛
貴方だけ見つめてる……

優しい彼

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の彼は優しい。 ……うん、優しいのだ。 王子様のように優しげな風貌。 社内では王子様で通っている。 風貌だけじゃなく、性格も優しいから。 私にだって、いつも優しい。 男とふたりで飲みに行くっていっても、「行っておいで」だし。 私に怒ったことなんて一度もない。 でもその優しさは。 ……無関心の裏返しじゃないのかな。

冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い

森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。 14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。 やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。 女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー ★短編ですが長編に変更可能です。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

初恋の人

凛子
恋愛
幼い頃から大好きだった彼は、マンションの隣人だった。 年の差十八歳。恋愛対象としては見れませんか?

処理中です...