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『それって、もう付き合ってるって言わなくない?』
この件を話した友達全員から言われた言葉だ。
渡米するなら普通はきちんと事前に伝えるべき、とか。
まったく連絡がないのはどう考えてもおかしい、とか。
メッセージの既読がつかないのはブロックされた可能性がある、とか。
どの意見ももっともすぎて、なにも反論できなかった。
『じゃあな、夏穂。元気でいろよ?』
あの言葉は、別れの意味だったのだろうか。
もう会えなくなるから、私たちは終わりってことだった?
それすら確認できなかった。だけど別れるのなら、きちんと理由を聞いてふたりで納得してからがよかった。
三年も付き合っていたのに、こんなのはあっけなさすぎる。
あの日、せっかく良い雰囲気だったのに私が喧嘩をふっかけてしまった。
あのときは腹が立ったけれど、今考えてみれば、退職が決まっていたから送別会のような意味合いで同僚がバーベキューを開いてくれただけだったのかもしれない。
なのに私はそれにヤキモチを焼いてしまい、文哉は私を面倒に思った可能性がある。
そんなめんどくさい女と、遠距離で恋人関係なんが続けていけないと決断したのかも。
……今さら後悔しても遅いけど。
『じゃ、決まり! 来年の記念日も俺たちはここで過ごす』
だけど、あの日の文哉の言葉がどうしても私の頭から消えないのだ。
今日の記念日のために、私はためらいなくホテルの部屋を予約した。
文哉が話していた、去年とは逆の北側の夜景が見える部屋を。
彼が別れたつもりでいるなら、そんな約束はもちろん反故なのだとわかってはいるのだけれど。
腕時計に視線を落とすと、針はもうすぐ二十二時を指そうとしている。
今夜はひとりで部屋から見えるレインボーブリッジや東京タワーの夜景を楽しもうか。
でも、アメリカに行ったきりの文哉を思い出して余計に寂しくなるかもしれない。
来年もふたりでこのホテルで過ごそうと、提案したのは文哉なのに。
勝手になかったことにしないほしい。
ぶつくさと虚しい文句を心の中で言いながらバーを出た。
「夏穂!」
エレベーターへと向かってゆっくりと歩いていると、後ろから聞き覚えのある声がして振り向く。すると懐かしい顔が見えた。
以前より日焼けしたのか色黒になり、体型もシャープになってはいるけれど、間違いなく……文哉だ。
「やっぱり居た」
「……文哉」
「ちゃんと覚えてたんだな、一年前の約束」
それはこっちのセリフです。
「だって……記念日はまたこのホテルでって、あの時言ってたでしょ?」
話したいことはたくさんあるのに、それよりも先に私の両目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
文哉に会えて単純にうれしかったのと、私と交わした約束をきちんと覚えていてくれたことに感動してしまったから。
「泣くなよ」
カーキ色の上着で私を包み込むようにして、文哉がふわりと抱き着ついてくる。
「ずっと音信不通で、私がどんな思いで今夜ここに来たと思ってるのよ! バカ!」
バカは私だ。会いたい人にやっと会えたのに、なぜか悪態しか出てこない。
もっと素直になればいいのにと自分でも思う。
この件を話した友達全員から言われた言葉だ。
渡米するなら普通はきちんと事前に伝えるべき、とか。
まったく連絡がないのはどう考えてもおかしい、とか。
メッセージの既読がつかないのはブロックされた可能性がある、とか。
どの意見ももっともすぎて、なにも反論できなかった。
『じゃあな、夏穂。元気でいろよ?』
あの言葉は、別れの意味だったのだろうか。
もう会えなくなるから、私たちは終わりってことだった?
それすら確認できなかった。だけど別れるのなら、きちんと理由を聞いてふたりで納得してからがよかった。
三年も付き合っていたのに、こんなのはあっけなさすぎる。
あの日、せっかく良い雰囲気だったのに私が喧嘩をふっかけてしまった。
あのときは腹が立ったけれど、今考えてみれば、退職が決まっていたから送別会のような意味合いで同僚がバーベキューを開いてくれただけだったのかもしれない。
なのに私はそれにヤキモチを焼いてしまい、文哉は私を面倒に思った可能性がある。
そんなめんどくさい女と、遠距離で恋人関係なんが続けていけないと決断したのかも。
……今さら後悔しても遅いけど。
『じゃ、決まり! 来年の記念日も俺たちはここで過ごす』
だけど、あの日の文哉の言葉がどうしても私の頭から消えないのだ。
今日の記念日のために、私はためらいなくホテルの部屋を予約した。
文哉が話していた、去年とは逆の北側の夜景が見える部屋を。
彼が別れたつもりでいるなら、そんな約束はもちろん反故なのだとわかってはいるのだけれど。
腕時計に視線を落とすと、針はもうすぐ二十二時を指そうとしている。
今夜はひとりで部屋から見えるレインボーブリッジや東京タワーの夜景を楽しもうか。
でも、アメリカに行ったきりの文哉を思い出して余計に寂しくなるかもしれない。
来年もふたりでこのホテルで過ごそうと、提案したのは文哉なのに。
勝手になかったことにしないほしい。
ぶつくさと虚しい文句を心の中で言いながらバーを出た。
「夏穂!」
エレベーターへと向かってゆっくりと歩いていると、後ろから聞き覚えのある声がして振り向く。すると懐かしい顔が見えた。
以前より日焼けしたのか色黒になり、体型もシャープになってはいるけれど、間違いなく……文哉だ。
「やっぱり居た」
「……文哉」
「ちゃんと覚えてたんだな、一年前の約束」
それはこっちのセリフです。
「だって……記念日はまたこのホテルでって、あの時言ってたでしょ?」
話したいことはたくさんあるのに、それよりも先に私の両目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
文哉に会えて単純にうれしかったのと、私と交わした約束をきちんと覚えていてくれたことに感動してしまったから。
「泣くなよ」
カーキ色の上着で私を包み込むようにして、文哉がふわりと抱き着ついてくる。
「ずっと音信不通で、私がどんな思いで今夜ここに来たと思ってるのよ! バカ!」
バカは私だ。会いたい人にやっと会えたのに、なぜか悪態しか出てこない。
もっと素直になればいいのにと自分でも思う。
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