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番外編⑧
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「……井。和久井! 聞いてんのか?!」
「あ、すみません」
俺は次の日まで完全に引きずってしまっていた。
「ミーティング中に話を聞いてないなんて、いい度胸だな?」
すっかりうわの空だった俺に、先輩の宇田さんからカミナリが落ちた。
宇田さんの言うとおりだ。
営業部の後輩たちと四人でのミーティング中なのだから、話を聞いてない俺が100%悪い。
俺は眉間にシワを寄せながら申し訳ありませんと頭を下げるしかなく、小さく深呼吸をして気合いを入れなおした。
「和久井、ちょっと残れ!」
ミーティングが終わった直後、宇田さんが他のふたりには部屋を出て行くように言い、俺にはミーティング室に残るように呼び止めた。
あらためて説教だな、と覚悟を決める。
「さっきのアレはなんだ? お前があんなにボーッとしてるなんて珍しいが……」
「すみませんでした」
「和久井がしっかりしていないと、下の後輩たちに示しがつかないだろ」
仕事の鬼である宇田さんの説教にしては、今日はかなり手加減した言い方だ。いつもなら、もっと叱咤されてもおかしくない。
「なにかあったのか?」
「……え?」
「いつもと違うことくらい見てればわかる」
穏やかな表情と静かな口調で、宇田さんが俺に問いかけた。
さすがはうちの会社で一番の営業マンなだけあって、洞察力がするどい。
俺が宇田さんに勝てないのは、こういうところの差かもしれない。
……待て。
俺がこの先宇田さんに勝てないのなら、大井コーポレーションの社長の息子にも、男として勝てないのでは?
俺はなにもかも中途半端で、このままではカッコ良さはゼロだ。
「宇田さん……俺、この会社でどこまで上にいけますかね?」
俺が静かに尋ねると、宇田さんは俺の顔を見てしばし押し黙った。
「上にいくって、出世したいってことか?」
「まぁ……そうですね」
出世して偉くなれば、今より断然収入も増えるだろう。
「恭哉くんがいる限り社長の椅子に座るのは無理だろうけどなぁ」
宇田さんは冗談めかして、ふっと表情を緩めた。
川原 恭哉……
社長の息子で、宇田さんがずっと好きだった佐那子さんと結婚した男だ。
まだ入社二年目で、ボンクラなのかデキる男なのか、そういう情報は俺たちには入ってこないからよくわからないけれど。
「まさか。社長の座を狙えると思うほど、俺はバカじゃありませんよ」
たとえそいつがボンクラだとしても、優秀な佐那子さんがそばについている。うちの会社は安泰だ。
「なんで宇田さんは、そんなに仕事をがんばるんですか?」
仕事に関して一切手を抜かない宇田さんに対し、ささいな疑問が沸いた。
なにを目標に、どこを目指してそんなにがんばるのか……。
会社への忠誠心か? それとも単に他人に負けたくないだけか?
「まぁ、これは俺の性格なんだけどな、精一杯全力で取り組まないと気が済まないんだ」
その答えを聞き、思わず声に出して笑いそうになった。
宇田さんらしい。根っからの真面目人間なだけだ。
「出世とか、考えないんですか?」
「和久井くらいの歳の頃は考えたこともあるけど……でも、考えるのをやめた」
自分の仕事を認めてもらえるかどうかは上の判断だから、いちいち考えるのに疲れた、と宇田さんがあきれ笑う。
「あ、すみません」
俺は次の日まで完全に引きずってしまっていた。
「ミーティング中に話を聞いてないなんて、いい度胸だな?」
すっかりうわの空だった俺に、先輩の宇田さんからカミナリが落ちた。
宇田さんの言うとおりだ。
営業部の後輩たちと四人でのミーティング中なのだから、話を聞いてない俺が100%悪い。
俺は眉間にシワを寄せながら申し訳ありませんと頭を下げるしかなく、小さく深呼吸をして気合いを入れなおした。
「和久井、ちょっと残れ!」
ミーティングが終わった直後、宇田さんが他のふたりには部屋を出て行くように言い、俺にはミーティング室に残るように呼び止めた。
あらためて説教だな、と覚悟を決める。
「さっきのアレはなんだ? お前があんなにボーッとしてるなんて珍しいが……」
「すみませんでした」
「和久井がしっかりしていないと、下の後輩たちに示しがつかないだろ」
仕事の鬼である宇田さんの説教にしては、今日はかなり手加減した言い方だ。いつもなら、もっと叱咤されてもおかしくない。
「なにかあったのか?」
「……え?」
「いつもと違うことくらい見てればわかる」
穏やかな表情と静かな口調で、宇田さんが俺に問いかけた。
さすがはうちの会社で一番の営業マンなだけあって、洞察力がするどい。
俺が宇田さんに勝てないのは、こういうところの差かもしれない。
……待て。
俺がこの先宇田さんに勝てないのなら、大井コーポレーションの社長の息子にも、男として勝てないのでは?
俺はなにもかも中途半端で、このままではカッコ良さはゼロだ。
「宇田さん……俺、この会社でどこまで上にいけますかね?」
俺が静かに尋ねると、宇田さんは俺の顔を見てしばし押し黙った。
「上にいくって、出世したいってことか?」
「まぁ……そうですね」
出世して偉くなれば、今より断然収入も増えるだろう。
「恭哉くんがいる限り社長の椅子に座るのは無理だろうけどなぁ」
宇田さんは冗談めかして、ふっと表情を緩めた。
川原 恭哉……
社長の息子で、宇田さんがずっと好きだった佐那子さんと結婚した男だ。
まだ入社二年目で、ボンクラなのかデキる男なのか、そういう情報は俺たちには入ってこないからよくわからないけれど。
「まさか。社長の座を狙えると思うほど、俺はバカじゃありませんよ」
たとえそいつがボンクラだとしても、優秀な佐那子さんがそばについている。うちの会社は安泰だ。
「なんで宇田さんは、そんなに仕事をがんばるんですか?」
仕事に関して一切手を抜かない宇田さんに対し、ささいな疑問が沸いた。
なにを目標に、どこを目指してそんなにがんばるのか……。
会社への忠誠心か? それとも単に他人に負けたくないだけか?
「まぁ、これは俺の性格なんだけどな、精一杯全力で取り組まないと気が済まないんだ」
その答えを聞き、思わず声に出して笑いそうになった。
宇田さんらしい。根っからの真面目人間なだけだ。
「出世とか、考えないんですか?」
「和久井くらいの歳の頃は考えたこともあるけど……でも、考えるのをやめた」
自分の仕事を認めてもらえるかどうかは上の判断だから、いちいち考えるのに疲れた、と宇田さんがあきれ笑う。
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