【完結】宙を舞うヒーローにときめいています

夏目若葉

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 審判が笛を吹き、いよいよ試合が始まる。

 ローテーションが何度か回って、晴瑠が初めてサーブをする場面になり、私は無意識に胸の前で両手を組みあわせて祈りを込めた。
 一回、二回とボールを床にバウンドさせた晴瑠が、フーッと息を吐いて集中している。

「けっこう後ろから打つんだね」
「ジャンプサーブだからね。宏美、見逃さないでね。世界一美しいサーブだよ」

 右手にボールを乗せ、高いトスを投げたあとに両手を振り上げながらジャンプをする。
 体を弓なりに反らせた空中姿勢は、まるで空を飛ぶ鳥のようだ。

 最高到達点から力いっぱい打ち込まれたボールはネットを超え、あっという間に相手コートの奥深くにそのままズドンと落ちた。
 サービスエースに会場がどよめきつつ、ワーッと歓声が上がる。

「ナイスサーブ! もう一本!!」

 気づけば私はそう叫んでいた。晴瑠のサーブは何度見ても心の底から感動が湧きあがってくる。
 隣にいる宏美は目を丸くして驚いていた。

「なに今の。音羽が絶賛するだけあって綺麗だなって思った瞬間、ボールがもう消えてた」
「うん。これが彼のバレー」

 以前に晴瑠から聞いた話だと、サーブの速度は時速100kmを超えるそうだ。
 さらにカーブをかけているので軌道が真っすぐではないし、相手がそれをレシーブするのは難しいと思う。

「なんかさ、ほかの選手に比べて速くない? 気のせいかもしれないけど」

 前衛に上がってスパイクを打つ晴瑠の姿に興奮した宏美が、私の腕を掴みつつ鋭い指摘をする。
 よく気づいたなと、私はそこに感心してしまった。

「晴瑠はね、腕を振り下ろす速度が普通より速いの。だから“音速のパワーヒッター”って呼ばれてるんだ」
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