久遠の鼓動

神楽冬呼

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第2章 遺言

宿業に揺れる願い

寿命がきた、楓は確かにそう告げた。
「……え?寿命ってどう言う……」
まだ10才に満たない少女が口にするようなことではない。
楓に『先読み』の能力があるからなのか…楓は全てを受け入れたような顔で、だからそれを告げられるのだろうか。
葵は満琉の顔を見やる。
満琉は寂しそうに微笑み、楓を見つめていた。
ハッとして、祥吾や要へと視線を投げた。
自分以外誰も驚いていない。
「架南様…」
静かに楓が葵を呼ぶ。
「藤堂 楓として、貴女様にお会いできたこと、大変嬉しく思います」
「…楓ちゃん」
白くふっくらとした頬をピンク色に染め、楓は満面の笑みを浮かべた。
瞳にうっすらと涙を溜め…
平気なんかではない。
受け入れるしかない事だから、足掻いていないだけで、皆んな平気ではない。
「呪縛…なの?」
葵が絞り出すように尋ねると、楓が頷く。
「呪縛と言うより宿業です。わたくしの前世である律音は、『先読み』の能力者として犯してはならない禁忌を犯しました」
そう話し出す楓の表情は晴れやかで、まるで初恋を実らせた少女のものだった。
「それにより、転生を繰り返しても10才まで生きられず、しかも転生した全ての記憶を引き継ぎます」
楓は一層表情を明るくする。
「なので、架南様のことは忘れません!」
屈託無い笑顔に戻っていた楓を前に葵は何も言えなくなった。
満琉、祥吾、要がそれぞれ楓と言葉を交わす。
またお会いしましょう、と言いながら楓は携帯電話で呼び出され、店の外に止まる車へと乗り込んだ。
葵は満琉と共に外まで出て車を見送ったが、満琉の母親らしき運転席の女性は冷たい一瞥を投げただけだった。
「私たちは楓の両親に嫌われているの」
と満琉が車を見つめて呟いた声が、耳に残る。


天使えの一族は、ある目的の為に天から遣わされ、その特殊能力を持ち目的を果たしていた。
昔も今も、人の心の中にある弱さや欲望、怒り、憎しみ、負の感情。
そこに取り憑く『闇』があると言う。
それを狩る為の、特殊能力。
闇に取り憑かれ闇人やみびととなった人々を救うのが、ハイツ・スローネに棲む者の仕事。
楓は『先読み』の能力で、闇の不穏な動きを報せてくれていた。
意義のある仕事だし、特殊能力を使い貢献できることに憧れてもいたと思う。
だけど、一族が抱える呪縛や宿業はあまりにも理不尽だ。
葵はソファの背にもたれ、遣る瀬無い思いを吐き出すように深い深い息を吐いた。
自分の死期が分かるのは、どんな気持ちなんだろうか。
何度も転生し繰り返すうちに慣れてしまうものなのか…
「…大丈夫ですか?」
要が葵の前にティーカップを置いて、隣に座った。
ベルガモットの香気がふんわりと漂う。
いつの間にか祥吾と満琉が店から消えていて、とりあえず部屋に戻ってきたが、なかなか気持ちが切り替わらない。
「ありがと…」
流石に「大丈夫」だと言える心境にはなく、葵はティーカップを両手に包み込むように持つ。
冷え込んだ指先にカップの熱さが心地良い。
「そろそろその時期がくる・・・・・・・と思っていたので、説明しておくべきでしたね」
ふるふると葵は小さく頭を振る。
「……知ったら知ったで、どう接していいかわからなくなっていたかも」
カップを置き、葵は要に体を寄せ、肩にもたれた。
「要くん、私がショックを受けるから言わないでいたでしょ?ありがと…」
要の腕が腰へと回り、腕の中へと抱き寄せられ、葵は要の胸に頬を寄せ鼓動を聞く。
途絶える事のない命の音、だ。
要は、命が刻むこの鼓動をあとどれくらい繰り返していくのだろう。
(私はあとどれくらいこの鼓動の側にいられるんだろう…)
いつか、必ず訪れる…要を残し死ぬいなくなる時が。
「私が知らないだけで呪縛や宿業がまだまだありそう」
きっとまだ知らないことだらけで、それは全て知っていかないといけないことなのだ。
「実は、他にも伝えなければならない事が」
「…なに?」
「どう言う訳か、転生者の両親は短命なんです。50才まで生きるのは珍しい…大概、40才前後で亡くなります」
言われてみると、祥吾や満琉、篠宮の両親の話を聞かない。
満琉については、13才で祥吾の養女になったと聞いた。
唯一、和希に喧嘩中の父親がいるのを知るぐらいだ。
「40才前後って、祥吾さん…」
葵はそろそろと顔を上げる。
「だから結婚しないのかな?」
「そうです。仮に結婚し、子どもを儲け、その子が転生者であれば…」
要は葵の前髪に指先で触れ、頬へと手のひらを流す。
冷たい手のひら、だけれどじんわりと温かい不思議な感覚に葵は瞼を閉じた。
「葵さんは子どもが欲しいですか?」
要の声が降り注ぐ様に聞こえる。
目を開けると深い湖を思わせる瞳が見下ろしていた。
瞳の中に不安と迷いの陰翳が宿っている。
密かに葵が描いていた願いを、要は気づいているのだ。
長く生き続ける要に、遺せるもの。
要には家族を作りたいと思っていた。
子どもを遺せば、孫を得て、孫はひ孫を…続いていく命のバトン。
「………うん」
それが何を意味するのか…
血の濃い要との子であれば、転生者となる確率は上がる。
転生者を産むと、要の側にいる時間は減る。
迷いがない訳ではないけれど。
「……欲しいよ」
何十年、何百年と、少しでも孤独を癒せるならそれがいい。
要は何も言わず、葵の体に回した腕に力を込め抱きしめた。
二人の体に隙間をなくす様に、強くしっかりと。
苦しいとさえ感じるその抱擁が迷いを打ち消すかのようだった。
「要くん…」
名前を呼ぶと抱擁が緩み、葵は要の顔を見た。
悩ませてしまっただろうか。
白く陶器のような要の頬に葵は右手を当てた。
消え入るような儚さに触れずにはいられなかった。
要はその手をとり、瞳を閉じると手のひらに唇を寄せた。
「手のひらへの口付けは、懇願」
要の息がかかり、手のひらがくすぐったい。
伏せた睫毛が開かれ、しっとりと濡れたような黒い瞳に射抜かれる。
「子作り、しましょうか…」
そう言うと、指の間に要が舌を這わせた。
くすぐったさの中にある、甘美なリビドー…抗えない誘惑。
「…あ、でも、子どもはまだ…その」
狼狽えて口ごもると、要が吹き出して笑う。
「子作りは冗談です。まずは入籍なので」
「…ですよね」
「ちゃんと避妊しますよ…」
唇が塞がれ、葵は目を閉じた。
口付けと同時に服の中に要の手が滑りこみ、指先が肌に触れただけで体が反応して息が乱れる。
ブラのホックが外され、口付けを交わしながらゆっくりソファに押し倒された。
いつもとは違う噛みつくようなキス。
荒く熱い吐息がどちらのものかわからなくなる。
最初の時とは違う、荒々しい熱情。
要の手がアンダーバストから膨らみへ、何度も行き来する度、鈍い快感が湧いた。
トップスを捲り上げられ、防ぐ間も無く手馴れた手つきで脱がされる。
外れかけのブラから胸が露わになりそうで、葵は胸の前に腕を置いた。
自分の動悸の激しさが良くわかる。
緊張と期待、恥じらいと快感への切望。
要も上体を起こし上を脱ぐ。
無駄な肉のない、程よく引き締まった筋肉が、リビングの窓から入る陽射しに照らされ、眩しく見えた。
筋肉や体の筋が作り出す印影が、艶めかしく色気を孕む。
その体が覆い被さり、葵は苦しいほどにドキドキした。
要の手が葵の手首を掴み、胸の前から除けると、胸の谷間に口付けを落とした。

天使えの一族総帥を継承する為の『証』へ。
今は人知れず隠している、要と肌を合わせた印である。
二人だけの秘密。
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