【R18】体に刻む恋のspell

神楽冬呼

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Study26: shallow 「浅はかな」

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あんなに真崎のいる部屋を恋しがっていたはずなのに、足が重たくてエントランスに入れない。
先程、真崎からLINEが来ていたりもする。
駅から遠回りをしてみたり、コンビニに寄って時間を潰したり、色々考えたけれど、やはりそれなりに明確にしておくべきではある。
だけど、何をどう聞けばいいのか、頭がなかなか冷静になれない。
夢月がエントランスの前を行ったり来たりしていると、エントランスから長身の影が出てきた。
「おい、コラ……」
目が合うと真崎が険しい顔を見せる。
「既読のまま返事ねーし、いらぬ心配しただろーがっ」
真崎の苛立ちと安堵が混じる溜め息に、夢月は胸が締め付けられる。
「ごめんね……ちょっと考え事してて」
「部屋に帰ろ」
真崎が夢月の鞄を取り、エントランスへと向かう。
一瞬、真崎が不安そうな顔をした。
暗証番号を入れてエントランスの扉を開く。
真崎の背中を追い、後に続いた夢月の肩に背後から何かがぶつかった。
よろめいて真崎の背中にぶつかる。
「っと、どうし………」
振り返った真崎が、この上なく嫌なものでも目にした様に眉を寄せた。
「有くん、やっぱりその人だったんだ」
特徴的な制服、白い肌に怒りを込めた一重の瞳。
「春香さん………」
この状況下、誤魔化しは効かない。
頭の中が色々な気持ちで渋滞していて考えが巡らないけれど、これはどう考えても不味い状況なのは分かる。
「信じらんない、その人、先生でしょう?うまくいくわけないじゃん。現実見なよっ」
しかも、少女はかなり動揺している。
「お前こそ、現実見ろよ。オレは春香に恋愛感情はない。もう付きまとうなって言ったろ」
更に、真崎の態度が不快感を露わに明らかな拒絶を見せている。
幼馴染に片思い、切なくて甘酸っぱい恋の話どころではない。
春香はもうストーカーに近い状態らしい。
「どうしてそんな事言うの?私は、有くんが初めて・・・だったのに!」
「なっ………」
夢月は言葉を失って真崎を睨み上げる。
「ズルい言い方すんじゃねーよ」
真崎は春香を見据えて吐き捨てた。
「諦める代わりに一度だけって言ったよな?それでもう付きまとわないって約束したろ」
春香が涙を溜めて黙り込む。
「それが、今になって初めての責任押し付けてんじゃねーよ」
容赦の無い真崎の口調に、夢月は春香が心配になる。
確かに春香にも問題はあるようだ。
だけれど、好きな相手にここまでの拒絶をされ、どれだけ辛いか…
一度とは言え、真崎に抱かれたのなら、縋り付きたくなる気持ちになっても仕方ないとさえ思う。
関係を明らかにされなくても、知りたく無い真実がそこにあるとしても、側にいたいと思ってしまう気持ちは同じだから。

初めての責任、処女は重いと言われた気がした。

傷つく覚悟をして真崎にぶつかるだけ、春香は強い。
何も確かめられない、何を聞いていいのかもわからない自分よりも、ずっとずっと強い。

「私、有くんの側にいたいの」
大粒の涙が春香の頬を伝う。
「だからセフレでもっ」
「ちげーだろ、お前がなりたいのはセフレじゃない。それで満足しない。自分でわかるだろーが」
春香に言っているはずの真崎の言葉が、何故か重くのしかかる。
「オレは春香とは付き合えない。側にもいれない」
「だけど有くん、その人といてもマイナスになるだけだよ!教師と生徒なんてっ」
叫んだ春香の声に夢月は思わず、一歩前に出ていた。
「そうだよね、お互いにとってマイナスかも」
夢月の言葉に春香が眉を寄せる。
「だけど、春香さんもマイナスになると分かっていて今ここにいるんでしょう?それでもどうにかせずにいられない」
意表を突かれたように春香の瞳が見開かれた。
「それぐらい、真崎くんが好きなのよね」

今ここにいる春香も、生徒に恋をする自分も、充分に浅はかだ。

「あんたにっ、あんたなんかに何がわかるのよ!何年も何年も思われて、最近有くんを好きになったばかりのあんたに、ずっとずっと………ずっと片思いの私の気持ちなんかっ」
春香が声を上げて泣き出す。
「恋愛ビギナーの私には、どうしたらいいかわからない気持ちぐらいしか、わからないかな」

今が片思いなのか、両思いなのか。
恋人と言えるのか。
言葉では何一つ確かめていない。
肌を合わせた互いの熱さ、吐息や快感の中で探り合うだけの酷く曖昧な関係。
傷つくのが怖くて、それでいいと留まる自分。
つい最近まで、そんな気持ちすら知らずに生きてきた。

「わからない事だらけだよ。春香さんの気持ちどころか、真崎くんの気持ちも知らないの」
「何言ってんのよ………」
きょとんとする春香の顔は少し落ち着きを取り戻したように見える。
綺麗に施していた化粧が乱れ、春香の素顔が垣間見れた気がした。
「私はマイナスのままではいないよ。プラスに変えていきたい。春香さんはどうする?マイナスのままを続ける?」
「プラスってどうするのよ………」
「ライバルには秘密」
春香に微笑みかけると、斬り付けられそうな目で睨まれる。

グラグラ揺れる地面を歩いているような、かなり不安定な足場で強がって見せた。
そうでもしないと、崩れ落ちそうな気がした。
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