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Study91: sexual diversity「性の多様化」
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作業台の脚の隙間からスニーカーを履いた脚が見えた。
悠然とした歩調は自分がしている行為に何の後悔も迷いも感じていないようだ。
埃まみれの白い布の影から、長身の男が姿を現わす。
ジーンズにパーカー、フードを被っている上に薄暗い闇がその顔を隠している。
背は染谷悠太よりも高い。
男との距離は4メートルはないだろう。
ただ無言でそこに立つ男に、夢月は恐怖する。
殴られて誘拐された、その事実が今更ながら深い実感となり、腹の底から身震いするような悪寒となった。
その背格好、立ち姿も、あの日ナイフ片手に真崎を襲ったその男だ。
学校関係者なら声を聞けば分かるかもしれない。
緊張で震える喉を落ち着けながら、夢月はゆっくり口を開いた。
「この前、襲ってきたのもあなたよね………」
返ってきたのは、やはり沈黙。
だが、男はフードに手をかけると緩々と外した。
「………どうして、あなたが」
フードの下から現れたのは見覚えのある顔。
だけれど、悲壮感に苛まれた表情から同一人物なのか疑いたくなる。
「どうして、か?」
やっと男が口を開いた。
その声を聞いて夢月は確信する。
園田 昌浩、以前見合いをした商社マンだ。
「君が俺から愛する彼を奪ったからだよ」
胸腔から爆発するような声を発し、園田は夢月を睨みつけた。
── えっ?愛する彼?彼?!
夢月はあまりの衝撃に絶句し、激しく混乱する。
これは、以前セミナーで学んだLGBTに関する事案だ……
性の多様化から、それらで悩む生徒たちへの対応に役立てばと受けたセミナーだったが、正直直面すると思っていなかった。
しかも………
真崎くん、遊びまくったのって女の子限定じゃなかったってこと?!
女も男もOKと言う事は、両性愛者……Bisexual。
彼氏に過去に彼氏がいたと言う、突き付けられた現実に夢月は動揺を隠せない。
「……え、じゃあ、お見合い相手に私を指名したのって」
「どんな女かと思ってね………そうしたら、見合いは上の空、好きだの何だと惚気てくれて………」
園田の握った拳が震えている。
「しかも、公然と婚約だなんて、ふざけるのもいい加減にしろ!」
吐き捨てるような怒りに夢月は息を飲んだ。
お見合いの時、保護者会に現れた時、駅のホームでの遭遇、園田の行動にはそんな理由があったのだ。
駅のホームでは、後ろ姿とは言え園田の目の前で真崎と腕を組んでいる。
好きなら、後ろ姿で真崎と分かったはず。
どんな想いでそれを見たのか………
「ごめんなさい!………今はそれしか言えない」
動揺も迷いも混乱も言葉に乗せる。
どう考えても、真崎と自分が引き起こした現状。
『誰かの恋が叶うと、誰かの恋が犠牲になる ── 』
清水の台詞が頭を過る。
悔しいが、それは的を得た見解なのだ。
光と闇があるように、どうにもできない現実。
「私も真崎くんのこと好きだから、別れたくないっ。だから、謝るしかできない!」
悠然とした歩調は自分がしている行為に何の後悔も迷いも感じていないようだ。
埃まみれの白い布の影から、長身の男が姿を現わす。
ジーンズにパーカー、フードを被っている上に薄暗い闇がその顔を隠している。
背は染谷悠太よりも高い。
男との距離は4メートルはないだろう。
ただ無言でそこに立つ男に、夢月は恐怖する。
殴られて誘拐された、その事実が今更ながら深い実感となり、腹の底から身震いするような悪寒となった。
その背格好、立ち姿も、あの日ナイフ片手に真崎を襲ったその男だ。
学校関係者なら声を聞けば分かるかもしれない。
緊張で震える喉を落ち着けながら、夢月はゆっくり口を開いた。
「この前、襲ってきたのもあなたよね………」
返ってきたのは、やはり沈黙。
だが、男はフードに手をかけると緩々と外した。
「………どうして、あなたが」
フードの下から現れたのは見覚えのある顔。
だけれど、悲壮感に苛まれた表情から同一人物なのか疑いたくなる。
「どうして、か?」
やっと男が口を開いた。
その声を聞いて夢月は確信する。
園田 昌浩、以前見合いをした商社マンだ。
「君が俺から愛する彼を奪ったからだよ」
胸腔から爆発するような声を発し、園田は夢月を睨みつけた。
── えっ?愛する彼?彼?!
夢月はあまりの衝撃に絶句し、激しく混乱する。
これは、以前セミナーで学んだLGBTに関する事案だ……
性の多様化から、それらで悩む生徒たちへの対応に役立てばと受けたセミナーだったが、正直直面すると思っていなかった。
しかも………
真崎くん、遊びまくったのって女の子限定じゃなかったってこと?!
女も男もOKと言う事は、両性愛者……Bisexual。
彼氏に過去に彼氏がいたと言う、突き付けられた現実に夢月は動揺を隠せない。
「……え、じゃあ、お見合い相手に私を指名したのって」
「どんな女かと思ってね………そうしたら、見合いは上の空、好きだの何だと惚気てくれて………」
園田の握った拳が震えている。
「しかも、公然と婚約だなんて、ふざけるのもいい加減にしろ!」
吐き捨てるような怒りに夢月は息を飲んだ。
お見合いの時、保護者会に現れた時、駅のホームでの遭遇、園田の行動にはそんな理由があったのだ。
駅のホームでは、後ろ姿とは言え園田の目の前で真崎と腕を組んでいる。
好きなら、後ろ姿で真崎と分かったはず。
どんな想いでそれを見たのか………
「ごめんなさい!………今はそれしか言えない」
動揺も迷いも混乱も言葉に乗せる。
どう考えても、真崎と自分が引き起こした現状。
『誰かの恋が叶うと、誰かの恋が犠牲になる ── 』
清水の台詞が頭を過る。
悔しいが、それは的を得た見解なのだ。
光と闇があるように、どうにもできない現実。
「私も真崎くんのこと好きだから、別れたくないっ。だから、謝るしかできない!」
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