【R18】体に刻む恋のspell

神楽冬呼

文字の大きさ
上 下
180 / 259

Study180: squabble「口論」

しおりを挟む
涼子と二人病室に戻ろうとナースステーションの前を通ると、涼子が医師に呼び止められた。
一緒に話を聞きたかったが、先に戻っていてと言われ、渋々病室に戻る。
「焦らず待つこと」だと涼子には念を押された。
確かにそうだ。
記憶を失い1ヶ月や数ヶ月経っている訳ではない。

焦りは禁物だよね…………

一呼吸置いてから病室の扉を引き開けた。
とりあえず真崎にはさっきの事を謝罪しよう、と頭の中でシュミレーションを繰り返しながら顔を上げると、病室に入ってすぐのソファに真崎が座っている。
背にもたれ参考書を開いている姿が、以前の真崎とリンクする。
扉を閉めるのも忘れ、夢月は固唾を呑んでいた。
真崎がゆっくりと参考書から視線を上げ、自分を捉える。
いつもなら掛けられていた言葉を、声を、無意識に待っていた。
『おかえり、夢月』
待っていたことを語る瞳の揺らめき、安堵したような優しい微笑み。

「突っ立ってないで、さっさと閉めたら」

だが、現実は温度のない声に、呆れたような瞳、無感動な冷たい表情である。
準備していた謝罪の言葉が、見事にどこかに消えた。
背後手に扉を閉め、夢月は無言で真崎の前を通り過ぎようとする。
涼子と話して落ち着いたはずの苛立ちが再び顔を出し、とりあえずそれを抑えたかった。

「あのさ…………」

早足で通り過ぎた夢月に真崎が声をかけてくる。

「…………なに?」

すでにそれを背中で受け止めていた夢月は、立ち止まると振り返らずに応えた。

「誤解があるようだから言っとくけど、別にあのナースを口説いてたワケじゃねーから」

落とせるかな?的なこと言ってたくせにっ

突っ込みたい気持ちが満載だが、余計に苛立ちそうなので、それを何とか堪える。

「…………別に私が誤解したところで」
「機嫌悪りぃだろ、現に」
「言い訳とか聞きたくないだけ」
「言い訳じゃねーし、説明するって言ってんだよ」
「だって、どう見てもそーだったし、落とすつもりでやってたんでしょ?」

徐々に語尾が荒くなり、強くなるのを自覚しながらも止まらない。

「分かってんの?ソレ、嫉妬だろ」

それ以外の何者でもないから、もうなかった事にしたいと言うのに、激しく荒れ立つ気持ちを刺激されるように指摘され、夢月は我慢ならずに真崎へと向き直った。

「だったら、何だって言うの?!」

睨み付けるように涙で潤んだ瞳で見下ろす夢月をジッと数秒見つめてから、真崎が視線を外す。

「誤解されてんのが嫌なだけだよ」
「私が誤解したって嫉妬したって真崎くんにはどうでもいいじゃない」

自分が放つ言葉が、自分へと返り胸を刺す。
こんな口論に意味がないと分かっていながら、込み上げてくる言葉を止められない。

「…………そーでもなくてさ」

ポツリと真崎が溢すように言う。

「嫉妬は、まぁ………悪い気しねーんだけど、あんたに誤解されてんのはどうも落ち着かないんだよ」

疑問に包まれた表情で眉を寄せ、真崎は考え込んだようだった。
落ち着かない、と言う表現がどう言う意味なのか、ピンと来なくて夢月は黙り込んだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

離縁して幸せになります

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,235pt お気に入り:508

あなたの愛なんて信じない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:101,834pt お気に入り:3,237

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:12

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:518pt お気に入り:1,171

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:584

異世界ライフは山あり谷あり

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:681pt お気に入り:1,554

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:901pt お気に入り:4,184

幸のリスト【オメガバース】

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:40

最期の日 〜もうひとつの愛〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:271pt お気に入り:2

処理中です...