180 / 259
Study180: squabble「口論」
しおりを挟む
涼子と二人病室に戻ろうとナースステーションの前を通ると、涼子が医師に呼び止められた。
一緒に話を聞きたかったが、先に戻っていてと言われ、渋々病室に戻る。
「焦らず待つこと」だと涼子には念を押された。
確かにそうだ。
記憶を失い1ヶ月や数ヶ月経っている訳ではない。
焦りは禁物だよね…………
一呼吸置いてから病室の扉を引き開けた。
とりあえず真崎にはさっきの事を謝罪しよう、と頭の中でシュミレーションを繰り返しながら顔を上げると、病室に入ってすぐのソファに真崎が座っている。
背にもたれ参考書を開いている姿が、以前の真崎とリンクする。
扉を閉めるのも忘れ、夢月は固唾を呑んでいた。
真崎がゆっくりと参考書から視線を上げ、自分を捉える。
いつもなら掛けられていた言葉を、声を、無意識に待っていた。
『おかえり、夢月』
待っていたことを語る瞳の揺らめき、安堵したような優しい微笑み。
「突っ立ってないで、さっさと閉めたら」
だが、現実は温度のない声に、呆れたような瞳、無感動な冷たい表情である。
準備していた謝罪の言葉が、見事にどこかに消えた。
背後手に扉を閉め、夢月は無言で真崎の前を通り過ぎようとする。
涼子と話して落ち着いたはずの苛立ちが再び顔を出し、とりあえずそれを抑えたかった。
「あのさ…………」
早足で通り過ぎた夢月に真崎が声をかけてくる。
「…………なに?」
すでにそれを背中で受け止めていた夢月は、立ち止まると振り返らずに応えた。
「誤解があるようだから言っとくけど、別にあのナースを口説いてたワケじゃねーから」
落とせるかな?的なこと言ってたくせにっ
突っ込みたい気持ちが満載だが、余計に苛立ちそうなので、それを何とか堪える。
「…………別に私が誤解したところで」
「機嫌悪りぃだろ、現に」
「言い訳とか聞きたくないだけ」
「言い訳じゃねーし、説明するって言ってんだよ」
「だって、どう見てもそーだったし、落とすつもりでやってたんでしょ?」
徐々に語尾が荒くなり、強くなるのを自覚しながらも止まらない。
「分かってんの?ソレ、嫉妬だろ」
それ以外の何者でもないから、もうなかった事にしたいと言うのに、激しく荒れ立つ気持ちを刺激されるように指摘され、夢月は我慢ならずに真崎へと向き直った。
「だったら、何だって言うの?!」
睨み付けるように涙で潤んだ瞳で見下ろす夢月をジッと数秒見つめてから、真崎が視線を外す。
「誤解されてんのが嫌なだけだよ」
「私が誤解したって嫉妬したって真崎くんにはどうでもいいじゃない」
自分が放つ言葉が、自分へと返り胸を刺す。
こんな口論に意味がないと分かっていながら、込み上げてくる言葉を止められない。
「…………そーでもなくてさ」
ポツリと真崎が溢すように言う。
「嫉妬は、まぁ………悪い気しねーんだけど、あんたに誤解されてんのはどうも落ち着かないんだよ」
疑問に包まれた表情で眉を寄せ、真崎は考え込んだようだった。
落ち着かない、と言う表現がどう言う意味なのか、ピンと来なくて夢月は黙り込んだ。
一緒に話を聞きたかったが、先に戻っていてと言われ、渋々病室に戻る。
「焦らず待つこと」だと涼子には念を押された。
確かにそうだ。
記憶を失い1ヶ月や数ヶ月経っている訳ではない。
焦りは禁物だよね…………
一呼吸置いてから病室の扉を引き開けた。
とりあえず真崎にはさっきの事を謝罪しよう、と頭の中でシュミレーションを繰り返しながら顔を上げると、病室に入ってすぐのソファに真崎が座っている。
背にもたれ参考書を開いている姿が、以前の真崎とリンクする。
扉を閉めるのも忘れ、夢月は固唾を呑んでいた。
真崎がゆっくりと参考書から視線を上げ、自分を捉える。
いつもなら掛けられていた言葉を、声を、無意識に待っていた。
『おかえり、夢月』
待っていたことを語る瞳の揺らめき、安堵したような優しい微笑み。
「突っ立ってないで、さっさと閉めたら」
だが、現実は温度のない声に、呆れたような瞳、無感動な冷たい表情である。
準備していた謝罪の言葉が、見事にどこかに消えた。
背後手に扉を閉め、夢月は無言で真崎の前を通り過ぎようとする。
涼子と話して落ち着いたはずの苛立ちが再び顔を出し、とりあえずそれを抑えたかった。
「あのさ…………」
早足で通り過ぎた夢月に真崎が声をかけてくる。
「…………なに?」
すでにそれを背中で受け止めていた夢月は、立ち止まると振り返らずに応えた。
「誤解があるようだから言っとくけど、別にあのナースを口説いてたワケじゃねーから」
落とせるかな?的なこと言ってたくせにっ
突っ込みたい気持ちが満載だが、余計に苛立ちそうなので、それを何とか堪える。
「…………別に私が誤解したところで」
「機嫌悪りぃだろ、現に」
「言い訳とか聞きたくないだけ」
「言い訳じゃねーし、説明するって言ってんだよ」
「だって、どう見てもそーだったし、落とすつもりでやってたんでしょ?」
徐々に語尾が荒くなり、強くなるのを自覚しながらも止まらない。
「分かってんの?ソレ、嫉妬だろ」
それ以外の何者でもないから、もうなかった事にしたいと言うのに、激しく荒れ立つ気持ちを刺激されるように指摘され、夢月は我慢ならずに真崎へと向き直った。
「だったら、何だって言うの?!」
睨み付けるように涙で潤んだ瞳で見下ろす夢月をジッと数秒見つめてから、真崎が視線を外す。
「誤解されてんのが嫌なだけだよ」
「私が誤解したって嫉妬したって真崎くんにはどうでもいいじゃない」
自分が放つ言葉が、自分へと返り胸を刺す。
こんな口論に意味がないと分かっていながら、込み上げてくる言葉を止められない。
「…………そーでもなくてさ」
ポツリと真崎が溢すように言う。
「嫉妬は、まぁ………悪い気しねーんだけど、あんたに誤解されてんのはどうも落ち着かないんだよ」
疑問に包まれた表情で眉を寄せ、真崎は考え込んだようだった。
落ち着かない、と言う表現がどう言う意味なのか、ピンと来なくて夢月は黙り込んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
378
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる