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Study185: secret true intention「隠れた本音」
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……………………声が、する。
水の中で聞くみたいに、ぼやけてはっきりしないが、誰かに名前を呼ばれている。
良く知る声、愛しいその声。
どこから……………………
手を伸ばし、探り当てようとするが、霞を掴むような感触だけが手の平にある。
届きそうなくらい近くにあるのに、指先は届かない。
歩み寄れば届くかもしれないが、底無しの沼の中にあるように足が、腰が動こうとしない。
ねっとりと重い闇が巻きついているようだ。
行かなければいけないのに。
捕まえなければいけないのに。
何もできない……………………
……………………そうだ。
何もできなかった。
恐怖で足が動かなくて、すぐに行けなかった。
叫ぶしかできなくて、泣くしかできなくて。
このままでは死んでしまうかもしれないのに。
赤い血がじわりじわりと意志を持つ生き物みたいにコンクリの上を浸食していく。
命が流れ出していくような恐怖。
焦りと不安が渦巻いていく。
────── 失いたくないっ
激しく身体を揺すぶられ、ハッとする。
「……………………夢月さん!」
沼の中から引き出されたように、感覚や意識が急激に鮮明になった。
視界の中には、愛しいその顔。
今なら届く、引き止められると思った。
夢月は必死でその首筋にしがみつく。
温かい肌と、首筋で脈打つ鼓動に心が震えた。
────── 生きてる!
「…………真崎くん、ごめんねっ。生きててくれるだけで、もういいよ」
思い出した。
冷たくなっていく真崎の体を前に、あの時は確かにそう思っていた。
なのに、目を覚ました真崎を見たとたんに欲が出たのだ。
自分が忘れられている現実に納得できずに、以前のような関係を乞い求め、本質が見えていなかった。
記憶がなくても、真崎は真崎なのに。
「…………忘れてていいのかよ」
呟くような声がして、躊躇いがちに背中に手が触れた。
抱き留めるには緩く、さする訳でもない手の平。
「オレは思い出したい、あんたのこと」
僅かな違和感がじんわりと芽生え、夢月はやっと事態を把握した。
どうやら、夢ではないらしいことに。
これって、今の真崎くんだ…………
記憶がなくて、私の事を知らない。
…………でも、今、思い出したいって
と言うか、今この状態は??
景色からは病室の、自分のベットの上だと言うことはわかる。
しかも、体勢からしても抱きついているのは明らかに自分なのだ。
恥ずかしさと戸惑いで、ぎこちなく身体が硬くなるのが分かった。
それに気づいてか、真崎が首に巻き付いた夢月の腕を解く様に掴み、顔を覗き込む。
「してもいい?」
囁く様な甘い問いかけに、どくんと胸が弾んだ。
さっきだって看護師が来なければ、きっと唇は触れていた。
自分にとっては真崎は特別だ。
真崎以外とのキスはしたくはない。
だけれど、今の真崎にとってはどうなのだろう。
そんな気配はなかったのに…………
何かが急激に真崎の中で動いたのだろうか。
思い出したいと言うのが、隠れた本音なのだろうか。
真崎が瞳を細め軽く首を傾げる。
ゆっくりと重ねられた唇に、躊躇いながら夢月は目蓋を閉じていた。
腕を掴む手や自分が映る瞳に、確かに以前と似た何かを感じて、振り切れなかった。
水の中で聞くみたいに、ぼやけてはっきりしないが、誰かに名前を呼ばれている。
良く知る声、愛しいその声。
どこから……………………
手を伸ばし、探り当てようとするが、霞を掴むような感触だけが手の平にある。
届きそうなくらい近くにあるのに、指先は届かない。
歩み寄れば届くかもしれないが、底無しの沼の中にあるように足が、腰が動こうとしない。
ねっとりと重い闇が巻きついているようだ。
行かなければいけないのに。
捕まえなければいけないのに。
何もできない……………………
……………………そうだ。
何もできなかった。
恐怖で足が動かなくて、すぐに行けなかった。
叫ぶしかできなくて、泣くしかできなくて。
このままでは死んでしまうかもしれないのに。
赤い血がじわりじわりと意志を持つ生き物みたいにコンクリの上を浸食していく。
命が流れ出していくような恐怖。
焦りと不安が渦巻いていく。
────── 失いたくないっ
激しく身体を揺すぶられ、ハッとする。
「……………………夢月さん!」
沼の中から引き出されたように、感覚や意識が急激に鮮明になった。
視界の中には、愛しいその顔。
今なら届く、引き止められると思った。
夢月は必死でその首筋にしがみつく。
温かい肌と、首筋で脈打つ鼓動に心が震えた。
────── 生きてる!
「…………真崎くん、ごめんねっ。生きててくれるだけで、もういいよ」
思い出した。
冷たくなっていく真崎の体を前に、あの時は確かにそう思っていた。
なのに、目を覚ました真崎を見たとたんに欲が出たのだ。
自分が忘れられている現実に納得できずに、以前のような関係を乞い求め、本質が見えていなかった。
記憶がなくても、真崎は真崎なのに。
「…………忘れてていいのかよ」
呟くような声がして、躊躇いがちに背中に手が触れた。
抱き留めるには緩く、さする訳でもない手の平。
「オレは思い出したい、あんたのこと」
僅かな違和感がじんわりと芽生え、夢月はやっと事態を把握した。
どうやら、夢ではないらしいことに。
これって、今の真崎くんだ…………
記憶がなくて、私の事を知らない。
…………でも、今、思い出したいって
と言うか、今この状態は??
景色からは病室の、自分のベットの上だと言うことはわかる。
しかも、体勢からしても抱きついているのは明らかに自分なのだ。
恥ずかしさと戸惑いで、ぎこちなく身体が硬くなるのが分かった。
それに気づいてか、真崎が首に巻き付いた夢月の腕を解く様に掴み、顔を覗き込む。
「してもいい?」
囁く様な甘い問いかけに、どくんと胸が弾んだ。
さっきだって看護師が来なければ、きっと唇は触れていた。
自分にとっては真崎は特別だ。
真崎以外とのキスはしたくはない。
だけれど、今の真崎にとってはどうなのだろう。
そんな気配はなかったのに…………
何かが急激に真崎の中で動いたのだろうか。
思い出したいと言うのが、隠れた本音なのだろうか。
真崎が瞳を細め軽く首を傾げる。
ゆっくりと重ねられた唇に、躊躇いながら夢月は目蓋を閉じていた。
腕を掴む手や自分が映る瞳に、確かに以前と似た何かを感じて、振り切れなかった。
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