執事で魔王様

もいもい

文字の大きさ
1 / 11

しおりを挟む



魔法島国、『ルトワレ』。
大いに魔法が発展し、他国に負けない成長を遂げてきた。

その島国の最北端に位置するのが、
俺の仕えている領主『アラン・グレイス』様が治めている『ルメーデ』という街だ。

大きな領土ではないが緑豊かで海があり、国の食料を担うほどの豊富な資源がある。
ゆとりがあるおかげか、ここの領民たちは争いを好まず、穏やかな者が多い。
この地域だけゆったりとした時間が流れているような感覚になる。


人は3歳になると魔法属性が定まり、
通常は1つの属性を持つものだが、稀に2つ以上の魔法属性を持つものがいる。
アラン様は大地と水属性を持ち、幼いころから緑の愛し子と謳われたそうだ。

ルメーデが豊かなのは、アラン様が領地に定期的に魔法を掛けていることが大きく影響している。
もともとこの地は気候差が激しく、燃えるような暑さと凍えるような寒さが
半月ごとに入れ替わるような厳しい環境だった。
そのような環境に適応出来る生物がおらず、植物も育ちにくかった。


アラン様はこの地を治め、大地を育て、緑豊かな領地へと変えていった。
そのおかげで栽培の難しい植物などもこの土地では簡単に育つ。


近年、本来は一年中常夏の地域に雪が降るなどおかしな気候や天災が世界各地で起こり、
植物や作物が育ちにくくなっているものの、ルメーデは最小限の影響で抑えられている。


数々の実績を認められ、アラン様は国から直々にスカウトを受けて魔法局に勤めている。
本人は家で娘とゆったり植物を育てて過ごしたいと、あまり乗り気ではないが。


領民には豊かに健やかに暮らしてほしいとの願いから最小限の税収で、
街が豊かに安全に暮らせるようにと、自身の財産をほとんど街の運営費に充てている。

屋敷は綺麗だが贅沢な作りではなく、領主にしては質素すぎるだろう。
俺がここに来る前は使用人すらいなかったし、今でも執事の俺1人しか使用人はいない。
使用人がいなくとも身の回りのことは自分で出来るが、身寄りのない俺を雇ったのだ。




執事の業務は早朝から始まり、5:00には仕えている屋敷へ到着し、仕事を始める。


指を鳴らせば土魔法で作ったゴーレムたちが屋敷の掃除を初め、
汚れた食器や洗濯物は水魔法で一瞬で汚れを消し去って、風魔法で乾いて棚に勝手に戻っていく。
屋敷を彩るガーデンでは小さな雲が雨を降らせて、花は光魔法で咲き誇り、雑草は闇魔法で消滅する。
火と水と風の複合魔法で部屋の温度と湿度を調節して快適な状態に保つ。

とめどなく魔法で指示を出す指は美しく滑らかで、まるで演奏をしているかのようだ。


朝食は前日に仕込んでおいた具材を目にも止まらない手さばきで調理し、
ものの10分後にはにいい香りが立ち込めてくる。


旦那様とお嬢様は7時に起こす。

「最適化、完了っと。今日も朝の仕事は終了だ。5時15分。よし、寝よう。
 それにしても昨日は飲みすぎたな・・・。」


出勤して早々におそらく従者15人は必要であろう業務を難なくこなし、
ベルーゼはソファーに腰を掛けて、リズムよく寝息を立て始めたのだった。





-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



「おはようございます。旦那様。お水とタオルをお持ちいたしました。」

先程まで飲みすぎで仮眠を取っていたとは思えない程さわやかな表情で屋敷の主を起こす。


「おはよう、ベル。今日もとんでもない仕事ぶりだね、屋敷がとても過ごしやすい。
 いつもありがとう。使用人を何人も雇ったとしても君には叶わないよ。
 本当にうちの執事でいてくれるのが申し訳ないくらいだ。」

アランは穏やかな笑顔を浮かべ、身支度を進める。

「恐れ入ります、旦那様。私はグレイス家の皆様に大きな恩があります。
 こちらで働かせていただいて、少しでもお役に立てるのならば、光栄でございます。
 朝食が出来ておりますので、お待ちしております。」


アランが感謝の言葉を贈るのは毎朝の日課になっている。
屋敷の主が使用人に毎朝感謝をするのは不思議なことかもしれないが、
実際、ベルーゼは何もかもが規格外で、
同じように魔法を使ったら3秒と持たずに魔力切れを起こしてしまうだろう。
そもそも、すべての魔法属性を使いこなすということが普通の人間には到底出来る事では無い。



ベルーゼはアランの部屋を後にすると、
魔力を込めると画像を記録出来る小型の水晶を手に持ち、
どんなに飲みすぎたとしても、早朝から勤め続ける最大の理由のもとに向かう。





軽く三つ編みで束ねられた美しいプラチナブロンド色の髪。
色白で吸い付くようなきめの細かい肌。小柄で細身だが、豊満なバスト。
小さな顔にすっと通った小さな鼻、可愛らしい唇。目を閉じていても分かる長い睫毛。
すやすやと眠る可愛らしい女性は、とても整った顔立ちをしている。


ベルーゼはパシャリと水晶に寝顔を映し、記録を残した。
これも毎朝の日課で、膨大な量となっているがきちんと日付順に整理されて厳重に保存されている。


(・・・今日もアリス様は可愛すぎる。この地に舞い降りた天使。
 こんなにも素晴らしい人に出会わせてくれた神に感謝だ。
 ああ、愛おしい。愛おしい。抱きしめてしまいたい。天使。)

「・・・・・・・・・ベルーゼ。もう起きているわ~。」


恍惚した表情で穴のあくほどの視線を向けるベルーゼに、
アリスはゆっくりと目を開けて、宝石のような美しい薄い紫色の瞳を向けた。
おっとりとした喋り方に、困ったような色が浮かぶ。


「おはようございます。お嬢様。本日の朝食はお嬢様の好物、
 バナナスムージーにチョコレートを入れますよ。」


ベルーゼは悪びれる素振りもみせず、
恍惚とした表情から瞬時にさわやかな笑顔に切り替えアリスに向けた。


「おはよう、ベルーゼ。嬉しいわ。とってもいい香りがしたから、目が覚めたの。素敵な朝ね。
 魔法でも作れるでしょう、なのに貴方はいつも心を込めて手を掛けて料理を作ってくれる。
 それがとっても嬉しいわ。」

「勿論です。お嬢様には魔法ではなく、
 私自身の手で作ったものをお召し上がりいただきたいのです。」

「ありがとう。でも、先ほどの水晶は渡して頂戴ねぇ。」



ベルーゼはがっくりと肩を落として渋々水晶を渡すのだった。

(まあ、データはもう保存用水晶に転送済みだけどね。)




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...