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しおりを挟むしばらく海を眺めていたアリスが何かを決心したように息を吐き、沈黙を破る。
「ベルーゼ。大切な話、してもいいですの?」
「もちろんでございます。」
「あのね。あの・・・。」
アリスは言葉に詰まり、下を向く。
夕日に染まったアリスの顔がさらに赤く染まっていく。
「ベルーゼはいつも・・・、わたくしに愛情を注いでくれていますわ。」
「当たり前でございます。」
「それが、家族の愛だってことも、分かっておりますの。
でもね、わたくし・・・、異性として、女性として、
ベルーゼにわたくしを意識してもらいたいんですの。」
アリスは潤んだ瞳で真っ直ぐにベルーゼを見つめた。
「・・・!」
言葉の意味を理解したベルーゼの心臓がドキリと大きく跳ねる。
(―あの小さかったお嬢様が、俺を?)
「わたくしは、ベルーゼが大好きですの。」
いつも伝え合う家族としての『好き』より
特別な意味を含む言葉がアリスから出る。
思いもよらなかったアリスからの告白に、ベルーゼは息を呑み、顔に熱が集まっていくのが分かった。
「お嬢様が、俺を・・・?」
アリスがこくこくと頷く。
ベルーゼは執事としての第一人称も忘れるほど動揺した。
(心臓がうるさい。うるさい、落ち着け。落ち着くんだ。
ええと、何て返せば・・・。)
ベルーゼは言葉を発することが出来ない。心臓の鼓動がやけに大きく感じる。
いつもよりもっと寝不足ということもあり、表情を作ることすら難しい。
ベルーゼは表情を隠すために顔を手で覆った。
(何をこんなに動揺しているんだ。
お嬢様の隣には俺じゃなくて、ちゃんとした人間が・・・。)
ベルーゼは自分以外の相手と並ぶアリスの花嫁姿を想像した。
チクリと胸が痛むが、これがなんの痛みか分からなかった。
(いや。お嬢様のためにも、拒否しないとダメだ。)
ベルーゼは呼吸を整え、重い口を開いた。
「私に好意を持つなんて、いけません。私はただの使用人でございます。」
アリスはまるでその言葉を予想していたように、
いつも通りの穏やかな顔を見せる。
「誰が誰を想うか、なんて、自由ですの。」
「いけません!」
ベルーゼは自分でも驚くような強い口調で否定をしてしまった。
アリスは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに穏やかな顔に戻る。
(―しまった。傷付けてしまった。でもなんて言えばいいんだ。)
ベルーゼは考えても考えても良い言葉が浮かばなかった。
「・・・わたくしの想いは、迷惑?」
アリスは表情を変えずにポツリと呟いた。
ベルーゼは否定も肯定もすることが出来ずに、嫌な沈黙が続く。
ぐるぐると思考を巡らせてもまとまらず、言葉にすることが出来ない。
「ごめんなさい。そんなに、困らせるつもりは無かったの。
・・・先ほどの話は、忘れて欲しいんですの。
これからも執事としてよろしくね、ベルーゼ。」
アリスはいつもと同じ笑顔でベルーゼに告げる。
いまだに顔の熱が引かないベルーゼは、上手く返事が出来ない自分に腹立った。
「海岸レストラン、行かないとですわ。」
「そう・・・ですね。」
「ひとつだけ、我儘を聞いてもらえる?」
「何でございますか?」
「少しだけ、ひとりにさせて欲しいんですの。」
「・・・承知いたしました。」
アリスは今にも泣き出しそうな顔で痛々しく笑った。
ベルーゼの前では涙は溢さないという意思を感じて、
何も言うことが出来ず、ベルーゼはその場を離れた。
遠くからアリスを見守っていると、小さい体が小刻みに震えているのが見えた。
ベルーゼはその姿に呼吸するのも苦しいほど、胸が痛んだ。
どれだけの勇気を振り絞って、たくさん言葉を考えて、
思いを伝えてくれたのだろう。
今日のミュージカルもどんな気持ちで準備してくれたのか。
俺はお嬢様の何倍もの時間を生きている。
お嬢様からしてみたら、おじいちゃんと同じだ。
それに俺は魔族。人間とは異なる翼や尻尾がある。種族も違えば寿命も違う。
そんな男のために、お嬢様の大切な時間を費やすわけにはいかない。
例え傷付けることになったとしても、俺は拒否しなければいけない。
決してお嬢様の気持ちが迷惑なわけじゃない。でも。
魔族と知られてしまったら、きっともう側には置いてもらえない。
魔王と知られてしまったら、恐怖に染まる目で俺を見るかもしれない。
ずっと一緒にいるために、これでよかったんだ。
ベルーゼは自身を納得させるための言い訳をいくつも並べる。
しかし、ズキリと痛む胸はおさまることを知らない。
お嬢様を泣かせてしまうなんて、旦那様に合わせる顔が無い。
ああ言えばよかった、こう言えばよかったと後悔が浮かんでは消えていく。
お嬢様を拒絶するように突き放した後の言葉なんて見つからなかった。
辺りがすっかり暗くなってきた頃、
アリスが何かを探すようにキョロキョロとしている。
ベルーゼの姿を見つけると、こちらに向かってきた。
「ありがとうですの。もう、大丈夫ですわ。」
アリスはいつも通りの穏やかな笑顔だったが、目元は赤くなっている。
その姿に、ベルーゼは呼吸が出来ないほど胸が痛んだ。
「変なこと言ってしまったけれども、
いつも通り、家族として接してくれたら嬉しいですの。」
「・・・もちろんでございます。」
ぎこちない雰囲気の中、2人は海岸レストランへと向かった。
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