どうやら私は破滅の悪女らしい

りらこ

文字の大きさ
7 / 91

7話

しおりを挟む
「出口……」

 這いずり出た先は、薄暗い。サディが言ってた通り、路地裏だ。明るい方へ、と言われたことを思い返せば、すぐに進む方角は分かった。駆け足で行けば、賑やかな声が聞こえてくる。

 四、五分も走らないうちに、大通りに出た。そこは市場のようで、ガヤガヤと人で溢れかえっていた。果物や野菜、香辛料を売り買いする人達を横目に、人の波に沿って進んでいく。

(まずは、ロメールに行く。全く分からないわけだし、とりあえず行き方を聞いて)

 適当に、前から歩いてきた老婆を捕まえる。
 
「すみません、ロメールに行きたいんですけど、どうやって行ったらいいですか」
「……あ、ああ。ロメールなら、ここを北東に行って王都から抜けた先だけど……」
「北東……ありがとうございます」

 お礼を行ってそそくさと去ろうとしたが、呼び止められた。
 
「お嬢さん……それ、見ない服だね。どこから来たのかい」
「あっ……えっと、遠くの方から」

 そう返した時、辺りがシンと静まり、玲奈を見つめているのに気づいた。

(やばい、不審がられてる)

 この制服は相当目立つようだった。「すみません!」と言って足早に駆けていく――玲奈の腕は、太い手に捉えられた。

っ……!」
「悪いねお嬢ちゃん、城からお触れが回っててなあ。見慣れぬ服の若い娘を発見したら捕らえよってね」

 髭を蓄えた壮年の男性が、しかめっ面で話した。

(っ、城の外まで情報が回ってるんだ……!)

「あっ衛兵さん、こっちこっち!」
「いたぞ!」

 その間にも誰かが衛兵を呼んできていたようだ。

「捕らえよ!」
「縄持ってこい!」

 こうして呆気なく、再び玲奈は捕まった。

 
(どうしよ……)

 捕らえられて連行される間、玲奈は思考していた。

(私は時間を戻せる。どうせ捕まったんなら、情報を増やして、整理してからがいいのかも)

 ここに飛ばされて、巻き戻した時間も含めて体感では二時間程だ。牢屋に入れられた時よりは、今の状況を飲み込めてきた。

(私に、この国を滅ぼすという予言が出た。国に捕まれば、一年後に死刑。この世界のお母さんが、生き抜くために時を戻す力を授けてくれた。王城も、街の人も敵。でも、助けてくれた人もいる)

 サディの姿を思い浮かべる。彼が何者で、どういう理由で助けてくれたのかはまるで分からないが、とにかく、助けてくれたことは事実。今は、彼の言葉を頼るしかない。

(ロメールに行くのが先決……だけど、これからまたあの処刑場に行くなら、王族から情報を得られる)

 玲奈の予想は正しく、連れて行かれたのは王城の、処刑場だった。
    
「この子が、宣告の大悪女、『破滅の子』か」 
「母親にはあまり似てないな」
「すぐに捕らえられてよかった。見た目では追いきれなかったかもしれない」
「でも、印がついてるという話では?」
「あれを追えるのは条件がある。満月とノアヴェルの重なる時のみだ」

(デジャヴ……)

 玲奈がここに留まる目的は、情報を聞き出すため。今はまだ同じことしか喋ってない。こちらから会話の流れを変えなければいけないのだろう。

「そなたは十七年前、この国で産まれた。母親は導士の家系の中でも、極めて優秀な女性であった」

 母の情報は、もっと聞きたいことの一つだ。
 
「……この国を滅ぼす大悪女。破滅の子になるとの告げだ。すぐに王制審が開かれ、そなたが十八の成年を迎えたら、斬首刑とすることとなった」
「あの……母は、今は」
「おや……もっと取り乱すかと思ったのだが、冷静だな。この状況をもう受け入れたというのか」
「いえ……、何もかも、分かりません」
「そうか。うむ……現実とは思えないのだろう。自然なことだ。母親のことだったな、彼女は残念ながら、亡くなっておる。そなたを異界へ送り出し、一年ともたなかった」
「子が大罪人となれば心痛も一入。母親を殺したのは貴様だ」

 割って入ってきたロアンは玲奈へ侮蔑の眼差しを向ける。

(……この人、私を憎んでる……?)

 ロアンの当たりの強さからは、罪人だからという理由に留まらず、玲奈個人へ向けられた憎悪を感じる。

「これから牢に入れ、一年後、刑を執行する」
「私は一年、ずっと牢屋で刑を待ってるんですか」
「一年の間には、克己かっこの儀式を行う。その身から、罪人のじゃを祓うものだ」
「生温いものだと思うなよ。死刑の前に、貴様の罪に相応しい苦役を体へ与えるものだ」
「苦役って、どういうものですか」
「フン、いい度胸だ。教えてやろう。始めに体を焼き、次は腕を切り開き、鞭打ちにして、舌を抜く。そして水に沈めて、もがく姿をじっくり眺めてやろう」 

(っ……牢屋に入れられたら、終わる)

 捕まった後、牢屋から脱走を目指すのは避けた方が良い。
 
「……陛下。これ以上は、話すほど、彼女に辛いことになります」
「母上、俺が面倒みますから辛いことなんてないですって。ね、一年牢屋に入ってるだけじゃつまんないでしょ。仲良くしようよ」

(っ、こいつはこいつで何なの……)

 アデルに笑みを向けられて、玲奈の腕には鳥肌が立っていた。さっきもそんなことを言っていたが、どこまで冗談なのか、掴みどころのない男だ。いかにも厳格そうなロアンとは正反対の男だった。

 そして、ここで玲奈には別の懸念も浮かんできた。

(いつの時点に戻れるのか、分からないんだよね……)

 もし、戻せる時間が決まっているなら、捕まってから悠長にしていると取り返しのつかないことになる可能性があった。

(大して分からなかったけど、もう戻した方がいい)



 玲奈は目を瞑った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

醜いと虐げられていた私を本当の家族が迎えに来ました

マチバリ
恋愛
家族とひとりだけ姿が違うことで醜いと虐げられていた女の子が本当の家族に見つけてもらう物語

処理中です...