どうやら私は破滅の悪女らしい

りらこ

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32話

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「次は集中させた魔力の成形だ。今、魔力はどんな形態をしている」
「形は……ない。輪郭がなくて靄みたいに脹脛でふわふわしてる」
「その淡い状態の魔力を、強化したい部位へ固めて射出する」
「固める?」
「血と混ぜるんだ」

 血というワードに顔を顰める。スプラッタは苦手だ。

「魔力は体内に入ると、神経の周りを回遊している。それを血管へ押し込んで血と合わせることで実体を造り、体の各部位を強化する。血の巡りは感じられるか」
「うん」
「集めた魔力を血流に合流させろ」

 脹脛に、血がドクドクと通っている。魔力を集めたそこは、感覚が鋭敏になっていて、手に取るように分かった。魔力を血管の中に押し込もうと意識すると、意思に従順に管の周りへ移動した。が、中に入る気配はなく、するんと管の周りを取り囲むだけに留まっている。

「入らないんですけど……」
「鍛錬あるのみ」
「は~、だよね……なんかコツないの?」
「既に分かっているだろうが、魔力の扱いは非常に感覚的なものだ。いくら言葉を尽くしても、手足を使い矯正できるものではない」
「はぁ~い、身に沁みてますぅ……」

 言葉尻が緩いのは、集中力が完全に切れたからだ。ヤザンも理解したようで、結局、すぐに休憩だと伝えられた。


 
 今日は朝にはもういなかったサディだが、夕食は一緒に取れることになり、ルンルンと跳ねぎみの足でサディのところへ向かう。

「やあレナ」
「サディ!」

 頻繁に食事を共にするようになっても、毎回嬉しいのだから、サディの魅力は凄まじい。

「いただきます!」
「はい、どうぞ」

 サディの所作はとても美しい。パンを口に運ぶ姿も、葡萄酒を喉へ流す姿も、洗練されており彼が高貴な人間であることをひしひしと感じる。玲奈が同じようにしても、こうは見えるまい。

(顔が美しいのはお得だよなー……しかしかっこいい……)

「ん?」
「?」
「俺の顔になんかついてる?」
「あっごめん! ジロジロと!」
「見てた自覚はあるんだ」
「すいません……」
「いいけどね」

 クツクツ笑う顔もまた、彼の魅力を高める。気がつくと、時間を忘れてぽーっと見つめてしまう。だってこんなに美しい人に、出会ったことがない。ブロンドの髪も、金の瞳も、すっと通った鼻筋も、何もかも。

 玲奈は着実に、サディに惹かれていることを自覚しつつあった。しょうがないと開き直りつつある。こんな格好良い人に、初めて出会った。その人が、窮地の自分を王子様のように(実際、王子だが)助けてくれて。

「人間じゃないみたい……」
「へ?」
「ぁ、いや、サディみたいに格好いい人見たことなかったから」
「容姿を褒められることはまあ多いけど、人間じゃないは言われた覚えがないかも」
「嘘! 神様みたいとか言われないの?」
「神様? 言われたことないよ」

 サディはアッハッハと口を空けて豪快に笑った。そんなに面白いこと言っただろうか。

「この国では神に良い印象を持ってる人間は少ないからなあ」
「そうなの? 無神教ってこと?」
「いや。建国神話ではかつて多くの神々が存在したとされていて、その内の一人が王族の祖先とされている」
「祖先? 王族は神様の血を引いてるの?」
「そう。で、その一番有名なご先祖の神様がかなり悪名高いんだ。だから神の存在は、半面教師的に語られることが多い」
「その建国神話気になる! 詳しく聞きたい!」
「いいよ。もともと、その内話そうかとって思ってたんだ」
 
 勉強はできる方だが、楽しさは感じない。けど、歴史や古典の授業で時々出てくる神話の伝承は、玲奈としては珍しく、前のめりになって聞いていた。ロマンを感じられて好きなのだ。わくわくを隠しきれず、ここでも前のめりになった。


 遠い昔。この世はかつて、上に天界、下に冥界、間の楽園の三つに分かたれていた。天界には神が、冥界には動物が、楽園には人が住んでいた。

 神は、人よりも上位の存在であった。彼らを見守り、教え導いていた。

 大司神だいししん・ハンダルの子供たちの一人に、ラプラトという女神がいた。彼女は、『破滅の大悪女』と呼ばれ知られていた。

 酷く怒りっぽく、思い通りにいかないことがあると、周りの物を壊して痛めつけ、衝動を発散していたのだ。それは時に楽園へも及び、洪水を起こしたり、噴火を起こしたりして楽園を滅茶苦茶にしてしまった。そこで慎ましく暮らしていた人々の、多くが犠牲になった。

 彼女の行為を見過ごせなくなった神々は、ラプラトの父・ハンダルに、彼女を懲らしめるように頼んだ。ハンダルは、ラプラトを冥界送りにすることにした。

 ラプラトは、口うるさく言ってくる神がいないので、冥界の暮らしを気に入った。戯れに動物たちとまぐわい、子を産んだ。しかし、そこでも怒りっぽい性格は治らず、ラプラトは度々楽園を荒らした。

 ハンダルは、次にラプラトを楽園へ送った。人との触れ合いで、改心することを期待したのだ。しかし、楽園送りを屈辱と捉えたラプラトは、力の限り、楽園を荒れ果てさせ、人間は殆どが死んだ。ラプラトは残った人間ともまぐわって、楽園は狂乱状態だった。

 これには神々たちも堪忍袋の緒が切れた。ハンダルはラプラトを天界へ呼び付けると、和解するふりをして、油断を誘った。ラプラトの隙をついて、母のユマネノスが、ハンダルの影から飛び出し、ラプラトの胸をナイフで突き刺した。

 ラプラトは父母を激しく憎み、死ぬ直前に両親へ返り血の呪いをかけた。ラプラトが死んだ直後、ハンダルもユマネノスも、もがき苦しみ、死に絶えてしまった。

 その後。
 冥界で産んだ動物との子は、神の力を受け継ぎ、貴類となった。楽園で産んだ人との子は、荒廃した楽園を再び豊かにし、スラジ国の初代王となった。

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