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36話
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「レナ!」
サディに肩を叩かれてハッとする。
「っ……」
「大丈夫。彼女は敵じゃない。協力者だ」
(協力者……そうだ、事情がなきゃサディがここに入れるはずがない)
「ごめんなさい、つい……取り乱してしまって」
「謝るのは私の方よ。ごめんなさい。国から逃げてる身、しかも先陣切ってあなたを探してるのはロアン殿下。その妻だと言われたら驚くに決まってるわね」
彼女――ミトラは、申し訳なさげに眉をひそめる。その姿もまた、美しかった。
「いえ……それで、あの、協力者って」
「俺が説明しよう。ほら、こっちでお茶淹れてあげる」
(お茶呑む気分じゃないけど……)
気になってそれどころではないのだが、とりあえず頷いてソファに腰掛けた。話を聞きたいと目で訴える。
「まず、彼女がここに来てるのは当然お忍びだ。亭主持ちの身で義理姉弟といっても、独身の男の家に来るのは歓迎されない」
「うん」
「ミトラは危険を承知で、きみに協力をしてくれる」
「なんで……」
「彼女はきみと親戚なんだ」
「親戚……?」
「そう、レナ。私はあなたの従妹にあたります」
「従妹……!」
「私の母は、あなたのお母様の妹なの」
転移したときの記憶を思い出す。祖父は、母の妹のことに言及していた。
(そうか。この世界にも家族がいるんだ)
それはすっかり頭から抜け落ちていた。母はすぐ亡くなったにしても、それ以外の血縁者が存在するはずだ。記憶で見た祖父。母の妹。彼らを頼ることができるのか。
「ミトラさんの、お母さんは今は」
「母は病気で家から動けないけど、あなたをずっと心配している。二人は仲のいい姉妹で、叔母様を救えなかったことを母はずっと後悔しているわ。だからこそ、あなたを何とか救いたいと思ってきた。母の思いの分も、私にできることは協力する」
「……でも、あなたはロアンの奥さんという立場なんですよね。かなり危険なんじゃ」
「勿論、危険はある。覚悟の上よ。そして危険なだけ同時に、大きな力となれるはず」
それはそうだろう。玲奈を捕まえたがってる筆頭のロアンの妻。その情報があれば、彼の行動が読みやすくなる。しかし、万が一、それがバレたら。
「大丈夫だよ、レナ。彼女は今、実家に滞在していることになってる。今日は実家から男装して、ミトラの弟に成りすましてここに来た。俺は弟とも交流があって普段からこの家に来てる仲だから、怪しまれることはない」
「そう……なら、分かった」
ロアンの妻という肩書に、身体が強張ってしまったが、サディがここまで言うなら、すぐにバレる心配はないのだろう。
「すみません、色々心配になっちゃって。あの……会えて嬉しいです、凄く」
「……私も。あなたに会いたかった」
玲奈が態度を軟化させると、ミトラは花が綻ぶように笑った。
「あの、私聞きたいことが色々」
「何でも聞いて!」
「わ」
ミトラがずいっと身を乗り出し、またも肌が密着する。距離が近いのは親戚故の気安さなのだろうが、玲奈の方はさっき血縁者と分かったばかりで、まだ心が追いついてない。
「こら、はしゃぎすぎじゃない?」
「だって、ずっと会いたかったんだもの。ねえ、少し二人で喋っても?」
「元よりそのつもりです。ただし護衛はつけているからね」
「うん」
サディはそう言って部屋を出た。ミトラと二人きりにになると、彼女はぴとりと体がくっつくほど距離をつめた。
「私、同性の親しい親戚がいなくって。ずっと憧れてたの」
「そう、なんですか」
「もう、もっと気安く喋って?」
ミトラは頬を膨らませて拗ねながら、玲奈の腕に絡みつく。
「ふふ、うん……ミトラ……はいくつなの?」
「十九よ。あなたの二つ上」
「そっか、お姉ちゃんなんだ」
「そう。叔母様に子供ができるって知って、早く会いたいって、いつ赤ちゃん産まれるのってずっと母に聞いてたんですって。幼くてハッキリとは覚えてないけど、あなたに会いたいって感情だけはずっと思ってた。一度も会えないまま、レナは行ってしまったから」
寂しそうに語る姿は、年下からみても庇護欲を掻き立てられるものだった。
「って、ごめんね私、自分のことばっか。聞きたいことって?」
「ああ、えっと……母は死んだってのは知ってるけど、ほかの家族や親戚がどうなのか知りたくて」
そして、大事なのは、彼らが味方なのかどうか。口に出さなかったが、ミトラはそこも汲み取ってくれた。
「大事なことね。まずレナのお父さんは、ご存命よ。今も神殿にいる」
「神殿……じゃあ、父も導士なの」
「そう。レナが異界へ転移した後、叔母様は体を悪くしてお祖父様のもとで静養した。叔父様は一緒に行かず、神殿に残った」
体調を崩した母に付いて行かなかった。それだけで、想像できる。
「私の味方はしてくれそうにはないね……」
「残念だけど、恐らく。母も、叔父様とは全く連絡を取ってなくて絶縁状態よ。レナのこと、実際はどう思ってるかは分からないけど、大手を振って助けてくれるとは思えない」
「分かった」
元から期待してなかった……というか、父がいること自体頭になかったので、ショックは薄かった。
「おじいちゃんは?」
「三年前に亡くなったわ」
「そう……」
「母たちは四姉弟。一番上はディーブ叔父様。南方にお住まいで、一人息子がいる。厳格な方で、手助けは期待できないと思う。二番目がレナのお母さん、三番目が私の母。末っ子はマウザ叔母様。母たちとは年が離れててあまり交流がないそうよ。今は嫁入りされて西のコテオスの辺りにいらっしゃるわ」
つまり、他に助けてくれそうな親戚はいないということだ。親戚だからこそ、下手に巻き込まれたくないと距離を取るのは自然なことだ。
「ミトラのお母さんは、私を助けたいって言って大丈夫だったの?」
「もちろん公には言えない。父にすら、その思いは隠している。でも、私にはレナを助けてあげてっていつも言ってた。最近は病気が進行して、元気に会話をできる日も減ってきているけど……昨日も、久々に実家に帰ったら母が前よりずっと痩せてて……、悲しかった」
「ミトラ……」
サディに肩を叩かれてハッとする。
「っ……」
「大丈夫。彼女は敵じゃない。協力者だ」
(協力者……そうだ、事情がなきゃサディがここに入れるはずがない)
「ごめんなさい、つい……取り乱してしまって」
「謝るのは私の方よ。ごめんなさい。国から逃げてる身、しかも先陣切ってあなたを探してるのはロアン殿下。その妻だと言われたら驚くに決まってるわね」
彼女――ミトラは、申し訳なさげに眉をひそめる。その姿もまた、美しかった。
「いえ……それで、あの、協力者って」
「俺が説明しよう。ほら、こっちでお茶淹れてあげる」
(お茶呑む気分じゃないけど……)
気になってそれどころではないのだが、とりあえず頷いてソファに腰掛けた。話を聞きたいと目で訴える。
「まず、彼女がここに来てるのは当然お忍びだ。亭主持ちの身で義理姉弟といっても、独身の男の家に来るのは歓迎されない」
「うん」
「ミトラは危険を承知で、きみに協力をしてくれる」
「なんで……」
「彼女はきみと親戚なんだ」
「親戚……?」
「そう、レナ。私はあなたの従妹にあたります」
「従妹……!」
「私の母は、あなたのお母様の妹なの」
転移したときの記憶を思い出す。祖父は、母の妹のことに言及していた。
(そうか。この世界にも家族がいるんだ)
それはすっかり頭から抜け落ちていた。母はすぐ亡くなったにしても、それ以外の血縁者が存在するはずだ。記憶で見た祖父。母の妹。彼らを頼ることができるのか。
「ミトラさんの、お母さんは今は」
「母は病気で家から動けないけど、あなたをずっと心配している。二人は仲のいい姉妹で、叔母様を救えなかったことを母はずっと後悔しているわ。だからこそ、あなたを何とか救いたいと思ってきた。母の思いの分も、私にできることは協力する」
「……でも、あなたはロアンの奥さんという立場なんですよね。かなり危険なんじゃ」
「勿論、危険はある。覚悟の上よ。そして危険なだけ同時に、大きな力となれるはず」
それはそうだろう。玲奈を捕まえたがってる筆頭のロアンの妻。その情報があれば、彼の行動が読みやすくなる。しかし、万が一、それがバレたら。
「大丈夫だよ、レナ。彼女は今、実家に滞在していることになってる。今日は実家から男装して、ミトラの弟に成りすましてここに来た。俺は弟とも交流があって普段からこの家に来てる仲だから、怪しまれることはない」
「そう……なら、分かった」
ロアンの妻という肩書に、身体が強張ってしまったが、サディがここまで言うなら、すぐにバレる心配はないのだろう。
「すみません、色々心配になっちゃって。あの……会えて嬉しいです、凄く」
「……私も。あなたに会いたかった」
玲奈が態度を軟化させると、ミトラは花が綻ぶように笑った。
「あの、私聞きたいことが色々」
「何でも聞いて!」
「わ」
ミトラがずいっと身を乗り出し、またも肌が密着する。距離が近いのは親戚故の気安さなのだろうが、玲奈の方はさっき血縁者と分かったばかりで、まだ心が追いついてない。
「こら、はしゃぎすぎじゃない?」
「だって、ずっと会いたかったんだもの。ねえ、少し二人で喋っても?」
「元よりそのつもりです。ただし護衛はつけているからね」
「うん」
サディはそう言って部屋を出た。ミトラと二人きりにになると、彼女はぴとりと体がくっつくほど距離をつめた。
「私、同性の親しい親戚がいなくって。ずっと憧れてたの」
「そう、なんですか」
「もう、もっと気安く喋って?」
ミトラは頬を膨らませて拗ねながら、玲奈の腕に絡みつく。
「ふふ、うん……ミトラ……はいくつなの?」
「十九よ。あなたの二つ上」
「そっか、お姉ちゃんなんだ」
「そう。叔母様に子供ができるって知って、早く会いたいって、いつ赤ちゃん産まれるのってずっと母に聞いてたんですって。幼くてハッキリとは覚えてないけど、あなたに会いたいって感情だけはずっと思ってた。一度も会えないまま、レナは行ってしまったから」
寂しそうに語る姿は、年下からみても庇護欲を掻き立てられるものだった。
「って、ごめんね私、自分のことばっか。聞きたいことって?」
「ああ、えっと……母は死んだってのは知ってるけど、ほかの家族や親戚がどうなのか知りたくて」
そして、大事なのは、彼らが味方なのかどうか。口に出さなかったが、ミトラはそこも汲み取ってくれた。
「大事なことね。まずレナのお父さんは、ご存命よ。今も神殿にいる」
「神殿……じゃあ、父も導士なの」
「そう。レナが異界へ転移した後、叔母様は体を悪くしてお祖父様のもとで静養した。叔父様は一緒に行かず、神殿に残った」
体調を崩した母に付いて行かなかった。それだけで、想像できる。
「私の味方はしてくれそうにはないね……」
「残念だけど、恐らく。母も、叔父様とは全く連絡を取ってなくて絶縁状態よ。レナのこと、実際はどう思ってるかは分からないけど、大手を振って助けてくれるとは思えない」
「分かった」
元から期待してなかった……というか、父がいること自体頭になかったので、ショックは薄かった。
「おじいちゃんは?」
「三年前に亡くなったわ」
「そう……」
「母たちは四姉弟。一番上はディーブ叔父様。南方にお住まいで、一人息子がいる。厳格な方で、手助けは期待できないと思う。二番目がレナのお母さん、三番目が私の母。末っ子はマウザ叔母様。母たちとは年が離れててあまり交流がないそうよ。今は嫁入りされて西のコテオスの辺りにいらっしゃるわ」
つまり、他に助けてくれそうな親戚はいないということだ。親戚だからこそ、下手に巻き込まれたくないと距離を取るのは自然なことだ。
「ミトラのお母さんは、私を助けたいって言って大丈夫だったの?」
「もちろん公には言えない。父にすら、その思いは隠している。でも、私にはレナを助けてあげてっていつも言ってた。最近は病気が進行して、元気に会話をできる日も減ってきているけど……昨日も、久々に実家に帰ったら母が前よりずっと痩せてて……、悲しかった」
「ミトラ……」
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