どうやら私は破滅の悪女らしい

りらこ

文字の大きさ
61 / 91

61話

しおりを挟む
 ――結果。できそうな感覚は、全くなかった。
 
「…………」
「駄目だな」
「待って! 諦めないでリュウ! 私頑張るから!」
「お前がどうってより、状態変化は環術の中でも難しいんだよ。ここに時間割くより、別の方法考えた方が良い」
「…………」

 一方、その間にトキとナシュカは、何度か水の壁に挑戦していた。二人も水の手から逃げる突破口が見えず、苦戦している。深刻な表情で話し合いをしている所に、そもそもこの壁の高さを越えられない、と相談するのは気が引けた。

(また私だけ、皆より遅れてる)

 リュウには無理だと言われても、何もせずにはいられない。何とか追いつこうと、進展が見られない中でも魔術の練習を続け、一日が終わった。


 夜ご飯を終えると、皆から離れ、一人になれるところへ来た。

(崖登りの時みたいに、何とか私にできる方法を見つける)

 一時間程、そこにいただろうか。どれも上手くいかなかった。凹む気持ちも勿論あるが、いつまでもそうしてはいられない。気を取り直し、今日は一旦休もうと腰を上げる。

(……ん?)

 皆の元へ戻る道すがら、微かな物音が聞こえた。迷宮に入ってから、動物は目にしていない。玲奈は深く考えず、その物音に近づいた。

(何だろ……)

「――っ!!!」  
 
 視界に入ったのは、一組の男女が、抱き合う姿だった。

「ぁ……、トキ……」
「ん……」

 二人の熱い口付けの音が、生々しく森に響いた。玲奈に背を向けるトキの首元に、ナシュカの白い腕が回っている。
 
 頭で考えるより先に、玲奈の足はそこから離れた。

(びっ……くり、した……)


「戻ったか」
「あ、うん……」

 リュウの姿にほっとする。

「早く寝て回復しとけよ」
「そう、だね」
「……どうした、お前」
「いや、何でも! おやすみ!」

 心ここにあらずといった玲奈の様子に、リュウは怪訝な顔を見せた。慌てて誤魔化し、寝入る体勢になる。横になってからも、目の裏に、先程の光景が焼きついて離れない。

(そっか……ナシュカ、言ってたもんね……) 
    
 トキかリュウ、どちらかと恋愛関係になってもいいかと、確かに聞かれた。あれは、ナシュカの冗談ではなかったのだ。

 そして、恐らく誘われたトキは、断ることなく、頷いた。

(そりゃそうか。あんな美人で、魔術の腕も抜群で。断る理由がない)

 そう思う理性と裏腹に、どこかトキへ落胆する自分を感じていた。
 
(比べないでいいって言ってくれた。でも、もし私が好きだって言っても、トキは頷かないんだろうな)

 ナシュカと比較しないでいい。玲奈には玲奈の、良い所があると、そう励ましてくれた気持ちは嘘だったと思わない。だが、ナシュカを魅力的な女性だと思う気持ちも、しっかりとトキは持っていて。それは、多分玲奈には抱かない気持ちなのだろう。

 どうしたって、落ち込む自分がいた。

(……前も、こんな気持ちになったことあったな)   
 
 玲奈は、懐かしい記憶を、思い出していた。


 中学二年生、夏。

 席替えで後ろの席になった男子と、好きなバンドが同じで、よく話す仲になった。彼は目立つタイプではなかったが、細身ですらっと手足が長く、良く見れば整った顔立ちをしていて、玲奈は彼に恋をした。

 二学期になって席が代わると、話す頻度は減ってしまったが、たまに一人でいるのを見かけると、うきうきと話しかけに行って、その会話を大事にして。バンドの新譜の話で盛り上がって、古いアルバムを貸し借りした。

 彼も、少なからず、玲奈のことを意識してくれているのではないかと、期待した。

 それが勘違いだったと気づいたのは、冬。

「えーっ! 陽菜はるな、高井くんと付き合ってんの!!?」
「ちょっと、声大きいって」

(え……?)

 高井、というのは、玲奈が好きな男子の名。そして陽菜は、クラスで一番可愛いと評判の女子だった。付き合ってる、そのビッグニュースに、クラスの女子たちがわっと盛り上がる。

「向こうから告られたの?」
「うん」
「びっくりー! 二人仲良かったっけ?」
「ううん、全然話したことない。たまに部活の時に挨拶するくらい」
「あー、二人ともテニス部だもんね」
「それでオッケーしたの?」
「うん、迷ったけど……、結構格好良いなって」
「分かる、私授業中こっそり横顔見てる」
「隠れイケメンだよね」
「目立たない系だけど、言われると確かに」
「でも高井くんって、そんな積極的なタイプだと思わなかった。告ったりするんだ」
「ねー、意外」 
「陽菜の可愛さの前では豹変しちゃうってことじゃない?」
「もう、からかわないでよ」

 陽菜は、美人なのを鼻にかけない、穏やかで優しい、良い子だった。

 でも、二人は仲良かった訳ではなくて。挨拶するくらいの仲で。それでも彼は、趣味の話で盛り上がっていた玲奈じゃなくて、全然話したことのない、とっても可愛い女子を、いいなと思っていた。

 玲奈なんか、眼中になかった。

(結局、見た目なんだ……)     

 二人の交際はそう長く続かず、学年が変わるころには別れたと聞いたけど、玲奈はその後、彼に話しかけることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

醜いと虐げられていた私を本当の家族が迎えに来ました

マチバリ
恋愛
家族とひとりだけ姿が違うことで醜いと虐げられていた女の子が本当の家族に見つけてもらう物語

処理中です...