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71話
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日が昇る。眠さと眩しさに、涙が滲んだ。
「あんま擦んな」
「うー……目痛い……」
「どっか隠れられそうなとこ見つけたら、仮眠した方がいいか」
一晩歩いてようやく、草原は抜けた。今度は地面に大きい岩が転がっていて、気をつけないと足を取られそうだ。
「この辺でいいな」
「うん」
リュウが洞穴を見つけ、崩れ落ちるように身を滑り込ませる。
「お前は寝とけ」
「ごめん……リュウは?」
「必要ない」
「ぁ……」
リュウもしっかり休んだ方がいい、と言おうとしたが、それより先に意識が無くなった。
「そろそろ起きろ」
「ん……」
肩を揺すられて、閉じていたいとごねる目を渋々開く。
「飯食ったら出るぞ」
「うん……」
「少し離れても平気か」
「大丈夫。ありがとう」
昨日の今日だということもあって、気遣ってくれているらしい。ギドリーとアルガンの気配があればリュウが気付くはずだし、少し離れても大丈夫ということだろう。
段々と覚醒してくると、胸元に温度を感じた。
「ん?」
ゴソゴソとそこを弄ると、熱源は魔石だった。熱いという程ではないが、人肌とは明確に違う温かさを発している。取り出して眺めていると、リュウが食べ物を抱えて戻ってきた。
「それ不用意に表に出すと危ないんじゃねえの」
「うん、それはそうなんだけど、なんか温かくて」
「温かい?」
「ほら」
差し出すと、リュウもその温度を確かめる。
「リュウのは何ともない?」
「ああ」
「そっか。何なんだろう」
「魔石が熱くなるなんて聞いたことはない。迷宮特有の力が働いてんのかもな」
「迷宮の……」
(でも、この感覚……どこか、逆廻と近い気が……)
リュウには言えないが、玲奈は今、この魔石から、母の魔力を感じていた。
食事を取って、ギドリーとアルガンが近くまで追ってきてないことを確認すると、玲奈たちは再び歩き出した。
「……リュウ」
「あ?」
「魔石がどんどん熱くなってきたんだけど」
「結構やべえな」
リュウもそろっと触れて、すぐに指を離した。布越しに入ってる分にはまだ平気だが、指で直接持つと熱いくらいだ。
そこからまたいくらか歩いた所で、限界が来た。
「あっつ! もうむり! 持ち歩けないっ」
「一級魔石投げ捨てんなよ」
使う時に投げつけているものなので、つい数歩先の地面に投げてしまった。魔石は地面に落ちるとカタカタ揺れ、シュウウウと蒸気を出し始める。
「えっ、煙出てるっ!」
「ンだこれ……」
揺れはガタガタと大きくなり、魔石を砕いた時の緑の発光も漏れ出した。リュウと玲奈は、固唾をのんで見守る。
「何が起こってんだ……」
「ねえ、私の魔石壊れそうなんだけど」
「ちょっと黙ってろ」
リュウの腕を揺すって訴えるも、軽くあしらわれた。
(魔力漏れてない? 少なくなってもいいから、壊れるだけのは辞めて……)
この迷宮、まだまだ何があるのか分からない。魔石なしでは、心許ないどころの騒ぎではない。玲奈の願いを他所に、魔石からは光も蒸気もどんどん強くなっていく。
ガタッガタッガタッ! と強く揺れて鳴る魔石から、終に一本の太い、金色の光が発せられ、上に真っすぐ伸びた。
「わっ!? なにっ」
光はやがて小さくなっていき、そこから何か丸っこいシルエットが飛び出した。それは2人の前に落下してきて、着地する。
「え……」
「ミ!」
「ああん?」
目を細めて鳴いたそれは、猫のような生き物だった。
「魔石から猫が出てきた……」
「猫じゃねえだろ。羽生えてんぞ」
「ほんとだ……」
猫に似ているが、背中にコウモリのような小さな黒い翼がちょこんと付いている。
「あれで飛べるの?」
「俺に聞くな」
「マッ!」
「……人懐っこいね」
翼のついた白毛の猫は、丸い目をした愛らしい子だった。翼の下当たり、白い背中の一部には、稲妻のような黄色い毛がジグザグ模様に入っていた。上目遣いで玲奈たちを見つめ、柔らかい声で鳴いている。
「何て言ってるのかな」
「知らね。お前のモンだろ。ちゃんと世話しろよ」
「えっ! なんで?」
「お前の魔石から出てきたんだろうが」
「あっ、そうだ魔石!」
リュウに言われて魔石を探す。猫の後方に転がっていたそれを持ち上げる。
「見た目は変わらないけど……あ、熱くなくなってる」
「そいつを産もうとして熱くなってたのか」
魔石を見ていると、猫が玲奈に近寄り、前足でちょんちょんと体をつついた。
「なあに?」
「ンマ!」
「んー?……あ、もしかしてご飯? お腹空いた?」
「ソ!」
(ソ?)
到底猫とは思えない鳴き声だが、そもそも翼が付いている時点で普通の猫ではない。
「待って。さっき木の実をちょっと取っておいたから、はい」
猫に上げると、ふんふんと匂いを嗅いで、ぷいっとそっぽを向く。
「要らない?」
「贅沢な奴だな」
猫は猫らしい軽やかな身のこなしで玲奈の体を登り、肩に落ち着く。
「……軽」
見た目に反し、重量はあまり感じない。やはり、普通の猫とは違うようだ。
「ミー……」
猫はくぁっと欠伸をして、心地よさそうに目を閉じた。肩の上は狭いだろうに、バランス良く乗っかっている。
「……何なの」
「魔石は収まったんだ。もうそいつ連れたままでいいから行くぞ」
「うん……」
肩に猫を乗っけたまま、再び歩き出す。道なりに歩いていくと、猫はすっと目を開け、鼻を鳴らした。
「どうしたの?」
「ソ! ソ!」
「ん?」
仕切りに左側を向いている。
「……あっちに行けって?」
「マ!」
「あっちって……あの細道か?」
玲奈たちは、大きな道なりに進んできた。迷うような別れ道はなかった。猫は、いかにも見逃してしまいそうな細道に行ってほしいようだ。
「……どうしよ」
「その猫は一級魔石から出てきた奴だ。何らかの能力を持っててもおかしくはねえな」
それが玲奈たちに有用な能力なら有り難いが、勿論そんな確証はない。
「そっちに行った方がいいのね?」
「ンナ~」
猫は上に仰け反り、その通りと言う様に長く鳴いた。
「よし! 左の道を行こう!」
「分かった」
リュウも納得し、二人は猫の示す通りに細い道を進むことにした。
「あんま擦んな」
「うー……目痛い……」
「どっか隠れられそうなとこ見つけたら、仮眠した方がいいか」
一晩歩いてようやく、草原は抜けた。今度は地面に大きい岩が転がっていて、気をつけないと足を取られそうだ。
「この辺でいいな」
「うん」
リュウが洞穴を見つけ、崩れ落ちるように身を滑り込ませる。
「お前は寝とけ」
「ごめん……リュウは?」
「必要ない」
「ぁ……」
リュウもしっかり休んだ方がいい、と言おうとしたが、それより先に意識が無くなった。
「そろそろ起きろ」
「ん……」
肩を揺すられて、閉じていたいとごねる目を渋々開く。
「飯食ったら出るぞ」
「うん……」
「少し離れても平気か」
「大丈夫。ありがとう」
昨日の今日だということもあって、気遣ってくれているらしい。ギドリーとアルガンの気配があればリュウが気付くはずだし、少し離れても大丈夫ということだろう。
段々と覚醒してくると、胸元に温度を感じた。
「ん?」
ゴソゴソとそこを弄ると、熱源は魔石だった。熱いという程ではないが、人肌とは明確に違う温かさを発している。取り出して眺めていると、リュウが食べ物を抱えて戻ってきた。
「それ不用意に表に出すと危ないんじゃねえの」
「うん、それはそうなんだけど、なんか温かくて」
「温かい?」
「ほら」
差し出すと、リュウもその温度を確かめる。
「リュウのは何ともない?」
「ああ」
「そっか。何なんだろう」
「魔石が熱くなるなんて聞いたことはない。迷宮特有の力が働いてんのかもな」
「迷宮の……」
(でも、この感覚……どこか、逆廻と近い気が……)
リュウには言えないが、玲奈は今、この魔石から、母の魔力を感じていた。
食事を取って、ギドリーとアルガンが近くまで追ってきてないことを確認すると、玲奈たちは再び歩き出した。
「……リュウ」
「あ?」
「魔石がどんどん熱くなってきたんだけど」
「結構やべえな」
リュウもそろっと触れて、すぐに指を離した。布越しに入ってる分にはまだ平気だが、指で直接持つと熱いくらいだ。
そこからまたいくらか歩いた所で、限界が来た。
「あっつ! もうむり! 持ち歩けないっ」
「一級魔石投げ捨てんなよ」
使う時に投げつけているものなので、つい数歩先の地面に投げてしまった。魔石は地面に落ちるとカタカタ揺れ、シュウウウと蒸気を出し始める。
「えっ、煙出てるっ!」
「ンだこれ……」
揺れはガタガタと大きくなり、魔石を砕いた時の緑の発光も漏れ出した。リュウと玲奈は、固唾をのんで見守る。
「何が起こってんだ……」
「ねえ、私の魔石壊れそうなんだけど」
「ちょっと黙ってろ」
リュウの腕を揺すって訴えるも、軽くあしらわれた。
(魔力漏れてない? 少なくなってもいいから、壊れるだけのは辞めて……)
この迷宮、まだまだ何があるのか分からない。魔石なしでは、心許ないどころの騒ぎではない。玲奈の願いを他所に、魔石からは光も蒸気もどんどん強くなっていく。
ガタッガタッガタッ! と強く揺れて鳴る魔石から、終に一本の太い、金色の光が発せられ、上に真っすぐ伸びた。
「わっ!? なにっ」
光はやがて小さくなっていき、そこから何か丸っこいシルエットが飛び出した。それは2人の前に落下してきて、着地する。
「え……」
「ミ!」
「ああん?」
目を細めて鳴いたそれは、猫のような生き物だった。
「魔石から猫が出てきた……」
「猫じゃねえだろ。羽生えてんぞ」
「ほんとだ……」
猫に似ているが、背中にコウモリのような小さな黒い翼がちょこんと付いている。
「あれで飛べるの?」
「俺に聞くな」
「マッ!」
「……人懐っこいね」
翼のついた白毛の猫は、丸い目をした愛らしい子だった。翼の下当たり、白い背中の一部には、稲妻のような黄色い毛がジグザグ模様に入っていた。上目遣いで玲奈たちを見つめ、柔らかい声で鳴いている。
「何て言ってるのかな」
「知らね。お前のモンだろ。ちゃんと世話しろよ」
「えっ! なんで?」
「お前の魔石から出てきたんだろうが」
「あっ、そうだ魔石!」
リュウに言われて魔石を探す。猫の後方に転がっていたそれを持ち上げる。
「見た目は変わらないけど……あ、熱くなくなってる」
「そいつを産もうとして熱くなってたのか」
魔石を見ていると、猫が玲奈に近寄り、前足でちょんちょんと体をつついた。
「なあに?」
「ンマ!」
「んー?……あ、もしかしてご飯? お腹空いた?」
「ソ!」
(ソ?)
到底猫とは思えない鳴き声だが、そもそも翼が付いている時点で普通の猫ではない。
「待って。さっき木の実をちょっと取っておいたから、はい」
猫に上げると、ふんふんと匂いを嗅いで、ぷいっとそっぽを向く。
「要らない?」
「贅沢な奴だな」
猫は猫らしい軽やかな身のこなしで玲奈の体を登り、肩に落ち着く。
「……軽」
見た目に反し、重量はあまり感じない。やはり、普通の猫とは違うようだ。
「ミー……」
猫はくぁっと欠伸をして、心地よさそうに目を閉じた。肩の上は狭いだろうに、バランス良く乗っかっている。
「……何なの」
「魔石は収まったんだ。もうそいつ連れたままでいいから行くぞ」
「うん……」
肩に猫を乗っけたまま、再び歩き出す。道なりに歩いていくと、猫はすっと目を開け、鼻を鳴らした。
「どうしたの?」
「ソ! ソ!」
「ん?」
仕切りに左側を向いている。
「……あっちに行けって?」
「マ!」
「あっちって……あの細道か?」
玲奈たちは、大きな道なりに進んできた。迷うような別れ道はなかった。猫は、いかにも見逃してしまいそうな細道に行ってほしいようだ。
「……どうしよ」
「その猫は一級魔石から出てきた奴だ。何らかの能力を持っててもおかしくはねえな」
それが玲奈たちに有用な能力なら有り難いが、勿論そんな確証はない。
「そっちに行った方がいいのね?」
「ンナ~」
猫は上に仰け反り、その通りと言う様に長く鳴いた。
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