どうやら私は破滅の悪女らしい

りらこ

文字の大きさ
78 / 91

78話

しおりを挟む
 玲奈は叫んだ。

「みんな! 『ハリツケアツクナイ』、そう書いてある!」
「っ、そういうことか!」
 
 玲奈の言葉をリュウはすぐに理解して、すかさず指示を出した。

「あと二つ、床に張り付くとこがあるはずだ! その猫が場所分かんのか!」

 リュウはかみなりに向けて言った。玲奈は戸惑いながらも、自分がやるべきことだけは分かった。あと二つ分、全員の足を張り付けさせる。

「分かる! ここと!」
「うおっ」

 玲奈が一つ目のタイルを踏んだことで、トキの足が床に張り付いた。玲奈はそのまま駆け抜けて、最後のタイルを踏んだ。

「ここ!」

 火が迫る中、ポーンと間抜けな音が再び鳴る。玲奈の足も、踏んだそこへ張り付いた。勢いに降り落ちそうになっていたかみなりは慌てて引っ掴んで、胸元にしまった。

「どういうこと!?」

 ナシュカが叫ぶ。火は目の前だ。リュウが答えた。

「張り付けば熱くない! それが答えってことだ!」
「っ、このまま火に呑まれればいいのね!」
「そうだ!」
「っ、大丈夫なのっ!? 今熱いけど!?」
「信じるしかねえだろ!」

 火が来る。暗号通りタイルに足を取られても、熱風を感じる。

(本当に!? どうしよう、熱かったら、その瞬間巻き戻せば)

「来るぞ!」
「あああっ――」

 恐怖に情けない声が漏れ出た。三人も固唾をのんで火に対峙する。

(お願い!)

 火を直視できず、目を瞑る。熱風が近づき、焼かれる――と思った瞬間。

(あっ……つく、ない)

 体に、見えない膜が張っているかのようだった。火が確かに体の周りで燃え盛っているのに、全く熱さを感じない。先程まであった熱風も無くなった。

 隣を見て皆の様子を見たいと思ったが、上も横も後ろも、見える範囲は全て火の海だった。

(……ふしぎ)

「ンマァ」
「あっ、ごめん!」

 胸元で苦しそうな声が聞こえて、慌ててぎゅっと握っていた手を緩めると、かみなりがひょこんと顔を出し、ぶるぶると頭を振った。

「よかった、かみなりも熱くないね?」
「ンナ!」

 手をぺろぺろ舐められたので、頭を撫でる。

「そうだ、今なら二人きりだから」
「ンー?」
「かみなりは、時を戻す前の記憶があるんだよね」
「ンニ」

 逆廻した記憶は、玲奈以外に覚えてる者はいない。ただ、かみなりは前回を分かっているが故の行動をしていた。

「なんでだろ。分かる?」
「ナー、ナナナナ」
「駄目だ、わからん」

 かみなりの言ってることはジェスチャーと合わせれば分かることもあるが、はっきりとした言語では理解できない。手に懐く愛らしい姿を見ながら、考察する。

 かみなりは玲奈の魔石から飛び出してきた。しかし、それはサディから貰ったもの。母が授けてくれた時を戻す力とは、関係がないはずだ。

(いや、一級でも魔石から生き物が産まれるなんて聞いたことないって皆言ってた。なら、この子はやっぱりお母さんに関係があるはず)

「お母さんのこと知ってる?」
「ンン」
「あれ」

 かみなりはこてんと首を傾けた。謎はまだ解決の糸口を見せないようだ。

(それに、また暗号が日本語だった……これも迷宮の魔術なんだろうか)

 魔術で投影されたヤザンが向こうの世界を知っていたように、玲奈の心を読んで生み出された暗号なのだろうか。

(それとも――)
 
 考えている間に、火の勢いが収まってきて、段々と視界が開けてきた。



 火が収まると、三人の姿が見えて、玲奈は安心してどっと力が抜けた。

「みんな無事なようね」
「暗号通りだったな」
「かみなりも大丈夫か」
「うん! この通り」
「ミ」

 四人で顔を合わせ、無事を確かめ合う。火は燻ることなく、あっという間に消えて跡形もなくなった。火が消えると、タイルに張り付いていた足は、自然と外れた。四人とも自由に部屋を動き回った。

「やっぱ普通の火じゃないね」
「人が燃えない火だからな」
「あっ、鍵空いてる!」
「本当か!」

 いち早く扉を確認したナシュカが押すと、それはすんなりと開いた。

「ハァー、良かった。疲れた……」
「今回もレナに助けられたな」
「え?」
「本当よ。レナがいなきゃ、焼かれてたわね」
「……役に立ててよかった」
 
 もちろん、逆廻という強大な力があってこそのことだけど。玲奈は、パーティーに貢献できていることを実感できるようになっていた。頼りなげな背中は、消えていた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

醜いと虐げられていた私を本当の家族が迎えに来ました

マチバリ
恋愛
家族とひとりだけ姿が違うことで醜いと虐げられていた女の子が本当の家族に見つけてもらう物語

処理中です...