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85話
しおりを挟む四人の前に、何度目かの、大きな扉が立ちはだかる。
「さ、何が出るか……」
「俺が先に行く」
「私も」
「ありがとう、お願い」
リュウが先頭に立ち、玲奈が続いた。魔術を使えないトキとナシュカをフォローできる力はついたと思いたい。目配せをするリュウに頷いた。リュウが扉を開ける。
「ッ伏せろ!!」
その声に反応する前に、後ろから玲奈の腹に腕が回り、身体が引っ張られた。
「きゃッ!?」
目前に、鱗のような物が迫っているのを認めた瞬間、突風によって四人は後ろへ吹き飛ばされた。
「~~~っ!」
「ぐっ……」
「いっ……たた……」
玲奈の体を引いてくれたのは、ナシュカだった。突風に押し戻されるまま、玲奈の下敷きになっている。
「っナシュカ! 大丈夫!?」
「大丈夫、ちょっと打っただけよ」
「トキは」
「俺も打ち身程度だ。問題ない」
「……ごめん」
「何しょぼくれてんのよ。大丈夫って言ってるでしょ」
「それより、今のは何だ。俺の位置からじゃ分からなかった」
「正確には分かんねえが、長い胴体と尾の生物だった。全長は約二十メートル。奴の視界に入ったと同時に、尾を奮ってきた。飛ばされたのは尾の風圧だ」
「尻尾の風圧だけであの威力……?」
「それから、一瞬しか見えなかったが、あの化け物の奥に、発光する扉が見えた。おそらくあれがゲートだ」
「じゃあ、ここを突破すれば……!」
これが最後の試練というわけだ。皆の顔に希望が灯った。
「といっても、その最後がまた難題ね」
「どう攻略するか……」
風圧により、扉は独りでに閉じられている。あの中に足を踏み入れた途端襲ってくるようだ。
「戦略をよく練らないと、あっという間に全滅ね」
「俺ら二人は魔術もろくに使えない状態だしな」
「いきなり全員突っ込むのは無謀だ。まず俺だけ行って、情報を持ち帰る」
リュウの提案に、玲奈は目を剥いた。
「一人だけって、何かあっても誰も助けられないんだよ!?」
「俺を助けられる状態の奴はいねえだろ。三人のお守りするより、一人の方が効率がいい」
「……そうかもしれないけど」
玲奈には、時を戻す力がある。リュウ一人で行けば、それを使うべきか否かも分からない。
(いや、私が生きてさえいれば時を戻せるんだから、リュウがもし致命傷を負ってもそこで巻き戻せば……多分大丈夫……)
それは、以前も疑問に思ったが、試せないので疑問のままだった。リュウが大怪我を負っても、時を戻せば元通りになるはず。保証はないが、リュウはそうそう死なないだろうという信頼もある。
(もう、これしか道はないんだ)
「……分かった。気をつけてね」
「ん」
トキとナシュカも異論は無いようだ。距離を取っておけと言われ、吹き飛ばされた位置で待機する。リュウが扉を開け突入した。またも風が吹き荒れる。
「ひゃあっ」
「っ、この距離でも凄いわね」
「リュウ……」
扉は既に閉じた。本当に大丈夫なのだろうか。彼は無事に戻ってくるだろうか。状況が分からないことへの恐怖が渦巻く。
(まだ戻らない……私も入った方がいい? 巻き戻しても手遅れだったら……)
どの時点に戻るのか、玲奈の意思では決められないのだ。不安に後押しされ、歩みを一歩進めたとき。リュウは戻ってきた。
「リュウッ!」
雪崩込んできた男は、大きな怪我を負ってるようには見えなかった。閉じた扉を背にして、座りこむ。
「無事?」
「ああ」
「よ、よかった……」
「何でお前が腰抜けてんだ」
「だって……」
玲奈も力が抜けて座りこむと、口の端を上げて笑われた。
「無事なのは何よりだが、収穫はあったのか」
「そりゃ手ぶらじゃ帰れねえだろ」
リュウは、扉の中で起こったことを回顧した。
扉に入った途端、長大な尾が襲ってくるのを、リュウはしっかりと見極めて上へ跳躍し、躱した。赤黒く、鋭い眼がリュウを追う。
(俺は余裕でも、あいつらは躱せねえ)
支柱の僅かな出っ張りに足をかけ、バランスを取る。化け物は羽がついていたが、飛んでリュウを追う気配はない。ただじっとりと睨みつけているだけだ。
(飛べねえのか、飛ぶ気がねえのか)
身体の大きさからは、小さな羽だ。常識的に考えればあの巨体を支えられるとは思えない。だが、そもそもあれは常識を逸した生物。いや、生きてなどおらず、全てが魔術により構成された幻覚のような物の可能性もある。
距離を保ったまま、観察する。化け物の腹の下から、光が漏れ出ている。あそこがゲートに違いない。
(こいつを倒さなくても、あそこに全員入れば勝ちか?)
「……ま、そんな簡単には行かせてくれねえか」
近づこうにも、ろくに武器もない。ほとんど素の力でここまで来たようなリュウだが、流石にあの大きさの生き物には通用しないだろう。
「ン……?」
部屋中へ目を凝らし、突破口を探していると、柱と天井の境目に、煌めきを見つけた。石だ。しかも、あの輝き方は、恐らく。
(魔石?)
一つではない。天井近くに埋め込まれた数は、部屋の四隅にそれぞれ埋まっていた。
「使えと言わんばかりだな」
軽く跳ねて、それを掴み取った。
(試しておくか)
砕いた魔石からは、黒に近い、濃紺の光が現れた。リュウがそれを吸収すると、みるみる力が増大していく。そして、彼の上腕を覆う布が、どくんと盛り上がった。
「っ……、これは……」
それは、ここにいる誰も知らない、リュウだけの秘密だった。右上腕が、熱く高鳴る。当て布の下で、姿を隠した刻印が、ドクドクと鼓動する。
「ぐっ……」
リュウの額に汗の玉が浮かぶ。
(収まれクソ……!)
その念に応えたのか、やがて熱は引いていった。化け物は動かないで、じっとリュウを見つめていた。
(攻撃意思がない……わけねえよな)
しかし、入ってきた時は、叩き潰さんと言わんばかりに尾を奮っていたというのに、とんと大人しいのはどういう訳か。
(ひとまず、魔石の回収だ)
取り込んだ魔力は潤沢だった。一度の跳躍で、簡単に部屋の四隅を飛び回る。残り三つの魔石も取り外すと、化け物の隙を見て、脱出に至った。
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