どうやら私は破滅の悪女らしい

りらこ

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90話

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 その間、挨拶も待ってくれない紅那に急いで追いつき、大股でついて行く。

「枢晶宮って、あの見えてるやつですか?」
「そうだ。先程騒いでいた声が届いたが、あれは王宮ではない。官吏たちが執務を行う宮だ。王宮は枢晶宮の奥にあり、王族の居住区と政治を執り行う場は完全に分かれている」
「へえ……」

 スラジとはまた違った体制のようだ。サディは王城から離れた屋敷に住んでいた。ほかの王族はどうなのだろうか。

 紅那は説明を続ける。
 
「胡王国では、王族の手から離れた政治制度が確立している。多くの官吏が枢晶宮に滞在し、国政に従事する」

 つまり、公務員のような人たちがいっぱいいて、あの大きな宮で働いていて、王族は普段は違う宮に住んでいる。玲奈たちのように外国からの人間も受け入れるとなると、セキュリティから見てもそうするのが自然だろう。

 門からの道には民家が立ち並ぶ。人の影――特に子供の姿が目についた。

「あの子たちは……」
「官吏の家族だ。独身者は枢晶宮の離れに部屋を用意し、結婚したら門内の家を貸し出して住まわせる」

 門から歩くこと二十数分、枢晶宮にたどり着いた。紅那に従い、中へ入っていく。内装は木目を基調とした造りで、二階建てだ。玲奈たちも二階へ上がり、通されたのは、椅子が一脚と、その脇に小さなテーブルだけがぽつんと置かれた広間だった。テーブルの上には真鍮の瓶とグラスが置かれている。横には、武官たち数名が控えている。

(う、なんか嫌な思い出が)

 スラジで裁判にかけられた記憶が重なり、ぶるっと身震いした。

「大丈夫よ。無慈悲なことをされるようなら、噂が回ってるはず」
「ああ。胡は人材を欲してる。迷宮の達成者をそう無下に扱わないだろ」
「……うん」

 励まされながら待つこと数分、扉が開かれ、武官たちが低頭した。トキとナシュカに合わせ、玲奈も頭を下げる。コツコツと足音が響く。間もなく、その人が椅子へ腰掛ける足元が視界に入った。

「やあ、待たせたね。面を上げてくれ」
「あ……!」

 顔を上げると、二十代半ばといった男の姿が映る。この部屋唯一の椅子へ座るその男は、胡王国の王であろう。

 そして、玲奈が驚いたのは、その後ろの良く知った顔。リュウだった。

(王様の直ぐ側に控えてる……やっぱり、かなり偉い立場なんじゃない!?)

 じっとその姿を見ると、こっち見んなと言わんばかりに目で諌められた。

「僕は胡王、九垓くがいだ。リュウが世話になったね。まずは礼を言おう」

 王から直々に言葉をかけられ、ドキリとする。トキとナシュカは再び頭を下げており、玲奈も慌てて続いた。

「しかし、それと秤は別の話だ。遠方見知らぬ土地へ、命を賭けての旅路となれば、まずは養生をと言いたいところだが……、すまないね。これでも国を預かる身だ」

 九垓は深い緑の髪に、透き通った緑の目をしていた。柔和な口調に、サディを思い出した。

「僕は官吏たちを信頼して国の舵取りを任せてる。君たちがそれに足る人物か、心の中を見せてもらう。さあ、まずは左の彼から。こちらへ」
「はい」

 トキが三歩、前に出た。九垓は懐から水晶を取り出す。

「君は何のためにこの国へ来た」
「良い暮らしをするためです。産まれの地では叶いません」
「きみはこの国の発展に尽くすと誓えるか」
「はい」

 九垓は水晶をしばらく覗き、やがて目を閉じた。

 秤は、すぐに終わった。

「……いいだろう。次の彼女」
「はい」

 今度はナシュカが呼ばれた。玲奈は今や、汗だくになっていた。トキの心配そうな目線を受ける。リュウも玲奈を見ていたが、気づける状態ではなかった。そう時間をかけず、ナシュカの秤も終わった。

「では最後の子もこちらへ」
「……は、はい」
「さ、君は何のためこの国へ来たのかな」
「…………」
「ん?」

 嘘を言ってはならない。そう直感した。嘘は、この人にバレる。九垓の周りから、禍々しいプレッシャーが玲奈に迫ってくるのを感じた。

 玲奈は、覚悟を決めた。

「私は……逃げてきたんです」
「ふうん? 何から」
「……言えません」

 声には出さないが、部屋にいる者たちから怪訝な目が向けられた。リュウは真意を探る様に玲奈を見ている。紅那が後ろから厳しい声を放った。

「貴様、陛下に隠し立てするのがどういうことか分かっているのか」
「こら、待て待て。……リュウは一緒に迷宮を進んできた仲だろう。どう思う」
「……優秀とは言い難いですが、危険な人物ではないかと」
「そうか。お前がそう言うなら……」

 九垓は腕を組み、前のめりになって玲奈を覗き込んだ。

「この国へ敵対する意思は」
「ありません」

 それだけは、はっきりと言えた。九垓は水晶へ視線を移した。沈黙が場を支配する。玲奈の喉はカラカラになった。

 張りつめられた緊張の糸は、九垓が切った。

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