婚約破棄された公爵令嬢ですが、家族も元婚約者もすべて失いました

あう

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第16話 公爵としての第一歩

第16話 公爵としての第一歩

 ルヴァリエ公爵邸の朝は、穏やかな陽光に包まれていた。

 セリシアは執務室の大きな窓の前に立ち、王都の街並みを静かに見下ろしていた。かつては父アルドリックが座していたこの場所も、今では彼女の決断を待つ場所となっている。

「本日より、本格的に公爵としての職務を開始いたします」

 振り返ったセリシアの言葉に、執事ハロルドと侍女マリアは深く頭を下げた。

「お嬢様――いえ、公爵閣下。私ども一同、全力でお支えいたします」

「ありがとう。けれど、これまで通り“セリシア”と呼んでちょうだい。皆がいてこそ、私はここに立てているのですから」

 その言葉に、二人は嬉しそうに微笑んだ。

 机の上には、公爵家の現状を示す報告書が山のように積まれている。財政状況、領民の生活、商業の流通、農地の収穫量――どれも当主として無視できない重要な案件ばかりだ。

「まずは、領地の財政の立て直しから始めましょう」

 セリシアは一枚の書類を手に取りながら言った。

「エルヴィラによる不正流用の影響で、いくつかの事業が停滞しています。これらを早急に再建する必要がありますわ」

「すでに各部門の責任者を集めております。会議室へご案内いたします」

 ハロルドの案内で、セリシアは会議室へと向かった。

 そこには、農業、商業、医療、教育など、各分野の責任者たちが緊張した面持ちで待っていた。新たな公爵がどのような人物なのか、誰もが固唾をのんで見守っている。

 セリシアは壇上に立ち、穏やかな微笑を浮かべた。

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。皆様もご存じの通り、ルヴァリエ家は新たな体制のもとで再出発することとなりました」

 静まり返った室内に、彼女の澄んだ声が響く。

「これまでの混乱により、皆様には多くのご苦労をおかけしましたことを、当主としてお詫び申し上げます」

 そう言って深く頭を下げると、出席者たちは驚きと感銘を受けた表情を浮かべた。

「しかし、これからは領民一人ひとりが安心して暮らせる領地を築いてまいります。そのために、皆様のお力をお貸しください」

 その誠実な言葉に、会議室の空気が一変する。

「もちろんでございます、公爵閣下!」

「我々も全力でお支えいたします!」

 次々と力強い返答が上がり、セリシアは満足げに頷いた。

 会議の後、彼女は王都の市場を視察することにした。

 簡素ながらも上品なドレスに身を包み、護衛を伴って歩くセリシアに、商人や領民たちは驚きながらも温かく迎える。

「新しい公爵様だ!」

「ようこそお越しくださいました!」

 セリシアは一人ひとりに笑顔で応じ、直接声を聞いて回った。

「最近、税の負担が軽くなったと聞きました」

「医療支援が再開されて助かっています」

 領民たちの言葉に、彼女の胸は温かく満たされていく。

「皆様の声を、今後の政策に活かしてまいりますわ」

 その姿は、まさに理想の領主そのものだった。

 夕刻、公爵邸へ戻ったセリシアを待っていたのは、カイル皇子の訪問だった。

「お疲れのところ、申し訳ありません」

「いいえ。殿下にお会いできて嬉しいですわ」

 二人は庭園を散策しながら、穏やかな時間を過ごす。

「領地の様子はいかがでしたか?」

「まだ課題は多いですが、皆が前向きに協力してくださっています。必ずより良い領地にしてみせますわ」

 その決意に満ちた横顔を見つめ、カイルは微笑んだ。

「貴女なら必ず成し遂げられるでしょう。そして、その未来を共に歩めることを願っています」

 セリシアは頬をわずかに染めながら答える。

「ありがとうございます。殿下の存在が、私にとって大きな支えとなっています」

 夕焼けに染まる庭園で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。

 復讐の物語は終わり、今、新たな未来への歩みが始まった。

 セリシア・ルヴァリエ公爵としての第一歩は、確かな希望と共に踏み出されたのであった。
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